74.オリオールの歴史
一週間以上空いての投稿になります。すみません。
ちょっと新しいこと始めたり、勉強しなきゃいけないことが出てきたりでバタバタしてるので、今後も更新が不定期になると思います。
それでも引き続き投稿は続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
結構急ごしらえで最近投稿してるので、誤字脱字が多くなってるかと思います。もし気づかれましたらどうぞ遠慮なくご指摘ください。
刺身を食べ終えた俺たちはその足で学術研究所を目指すことにした。
近くの席にいた親切な漁師に無理やり聞き出した話によると、オリオールには図書館というものがなく、書物などは研究所に収められているらしい。
この都市内にいるものなら誰でも利用はできるそうだが、その男はほとんど訪れることがないため詳しい事は知らないようだった。
果たして外から来た客を招き入れてくれるのかどうか。
老翁の店から遠くない距離、というか店の前から見えていた大きな建造物が学術研究所である。
研究所と聞いてヘクスが目が輝く。知識欲旺盛なヘクスらしい。
研究所は高い壁がぐるり続いており、中の様子は窺えない。どこまでも続く壁が研究所の大きさを物語っていた。
その周囲を暫く一方行へ進んでいくと、やがて見つけたのは締め切られた門扉。3メートル近くはあるだろう高さのアーチ上の門が、鉄扉によって硬く閉ざされていた。
その門の前には衛兵が左右にひとりずつ、先端が丸くなった槍を立てて突っ立っている。
衛兵の側へと近づくと、意外にも朗らかな表情で挨拶をしてきた。
「やあ、旅人さん。学術研究所に御用ですか?」
一目で旅人と見抜かれるとは、いったいどのようなカラクリだろうか。と思ったらこの都市に入る時に受付をしてくれた門衛の人だった。
俺がそれを問うと、衛兵は苦笑混じりに答えてくれる。
「我々は持ち場を交代で担当しているんですよ。私の今日の持ち場はここだったと言う話です。そうする事で不公平をなくすと言うのが理由でしてね。オリオール内では西区と東区の警邏が比較的楽で、門衛が不人気なんですよ」
「門衛が? 対応が多くなるからとかか?」
「お恥ずかしながら。オリオールに暮らす住民はのんびり者が多いですから、基本働きたくない者が多いのです。衛兵であってもそれは同じ。これはお国柄ってやつですよ。個人的にはそれぞれの担当を一箇所に留めておいた方が、慣れるので安全性が増すんじゃないかと思いますけどね」
確かに配属された持ち場でずっと仕事をするよりは持ち場を変えたほうが気分が変わるかもしれない。
だが衛兵の言う通り、持ち場を固定した方がいざと言う時勝手が分かって動きやすいだろうから、防犯上の観点からは固定にした方がいいと思う。
「有事の際にどこに何があるか分からないと対処し辛いだろうな」
「そうなんですよ。と言ってもそうそう何かは起こらないんですけどね」
はははと衛兵は笑ってみせる。基本的に朗らかな為人なのだろう。この都市全体がそう言った雰囲気を感じさせる。
「所でこの都市の歴史について知りたいのだが。ここには様々な書籍があると聞く。ボク達でもこの中に入って書籍を閲覧することは可能なのかな?」
「あ、はい。構いませんよ。ここは一般にも開放されていますからね。それに外から来た人がオリオールに興味を持ってくれるなんて嬉しいことですよ」
普通の旅なら都市を観光しても、そうそう図書館でその地所の歴史を調べようとまでは思わない。
地元民からすれば、自分達の住んでいる場所を知ろうと興味を持って貰えるだけでも嬉しいのかもしれない。
「ではお入りください。中でオリオールに入る際お渡しした紙片を受付に提示して頂ければ手続きが出来ますので」
「ありがとう」
門衛が開けた鉄扉を潜って俺たちは中へと入った。
中へ足を踏み入れると、鉄扉はあくまで建物全体を覆う壁の一部だと気づく。建物まではまだ少し距離があり、舗装された小道が木製の扉へと続いていた。
外周を見回った際は高い壁で視界が遮られていたため建物の外壁かと思っていたがどうやら違ったようだ。
しかしここから見上げても建物の天辺が見えず、目の前に聳える迫力は圧巻だ。
気を取り直して舗装された道を進むと程なく扉にたどり着く。レンガのような茶褐色をした石造りの建物に年季の入った木戸。レトロな雰囲気を醸す様相に思わずテンションが上がった。
この世界に来てからかなり経つというのに、未だ自分がそのような感覚を持ち合わせていることに驚いてしまう。
ヘクスが静かに扉を開けて、俺たちはその後について建物へと足を踏み入れた。
扉の先はだだっ広い空間。そこに元の世界の図書館のようにいくつか机が並べられており、その奥に人の背丈の2倍ほどはある本棚が横並びしている。
本棚は感覚を開けて並んでおり、その間が通路になっていた。一番奥まではいくつ本棚が並んでいるのか、中々に距離があるように見える。
頭上を見上げるとテーブルのある部分は吹き抜けになっており天井まで遮るものは何もない。
その吹き抜けと同じ高さ、ちょうど本棚の上部分に床が広がっており、そこにも同じように大量の本棚が並んでいた。
俺たちが壮観な光景に目を奪われていると、隣から声がかけられる。
「あら、珍しい。外から来られたお客様でしょうか?」
声をかけてきたのは腰まで届くほどの長い金髪の女性。ウェーブ気味の髪が歩みに合わせてふわりと揺れる。ぴったりと体の線が出る衣服が女性のグラマラスな体型を強調していた。
「ふむ。君はここの責任者かね?」
「いえ。私はここの図書室の受付です」
その回答にヘクスは笑みを浮かべる。
研究所と聞いていたが入ってすぐが図書室だった。一般人も入れるようになっているからだろうか。
研究施設はもっと奥か、別の入り口があるのだろう。
「ここはボクたちのような外の人間でも書物が閲覧できると聞いたんだが、間違いはないかな?」
「ええ。受付さえして貰えれば問題ありません。身分証が必要ですが、受付されますか?」
「そうだね。お願いしよう」
そうして受付嬢に案内されカウンターで閲覧の許可を貰う。
閲覧許可は簡単なもので、オリオール入場の際に手渡された許可証が滞在期間中身分証になるらしく、それを魔法具に翳すだけで済んだ。
「これで閲覧して頂けます。本を取る際には皆さんの許可証を本棚中央のエンブレムに翳していただきますと、魔防壁が解除されますので、本が取り出せるようになります。本は現状維持の魔法がかけられているため傷つくことはないと思いますが、万一破損することがありましたらお申し出ください。また本を外部へ持ち出すことは禁止されておりますので、館内のみの閲覧にとどめてください。写本も同じく禁止させて戴いでおりますので、ご了承ください」
「分かったよ。ありがとう。ちなみにオリオールの歴史や法律に関して記載されている書物がどこにあるかを教えてもらうことは可能かな?」
「それでしたら……」
受付嬢に本棚の位置を教えてもらい、礼を言って俺たちは目当ての本棚へと向かった。
本棚の合間を抜けていくとやはりかなりの奥行があるようで、奥の壁際までは10台ほど本棚が連なっている。
頭上から伸びる案内板に従って歴史に関する書物がある本棚に近づくと、お目当てが見つかったのかヘクスは目を輝かせて駆け出した。
直ぐ本棚にたどり着くと、そのまま許可証を本棚中央にあるエンブレムに翳す。するとほんわりと光の壁のようなものに覆われていた本棚全面が、徐々に光を消失させて書棚に並べられた本たちが完全に露になった。
「ふむふむ。これはまた読み甲斐のある本たちだね。ふふふふふ」
「勝手にトランスするな。さっさと内海遠征に関する本を探すぞ」
「あぁ。トールはいつもボクに対して素っ気ない態度をとって、ボクを喜ばしてくれるね。そんなトールだからこそボクも……ふふふ」
「トール殿、ヘクス殿が気持ち悪いでござる」
「ほっとけ」
そうして本棚にある背表紙から中身を類推し、オリオールに関する歴史や法関係の書籍を手に取る。
いくつか本を物色して手に取ったのは。
「オリオール興亡禄……」
いや、滅んでないだろと心の中で突っ込みながら、書籍に目を落とす。
まずは目次を見て内容を精査しよう、というのは甘い考えか。どうやらこの本には目次というものがないようだ。
仕方なくパラパラとページをめくりながら内容を確認してみると、なんてことはない、オリオールの興りからその成り立ちなどについて記載されていた。
それによるとオリオールは勇者と魔王の戦いが起こった後に建国された国で、その頃には既に巨大な湾が存在していたらしい。戦いの影響から湾内は魔力溜まりになってしまい、当時から大型の魔獣がうようよしていたため漁などが不可能だったようだ。
ヘクスから事前に聞いていた通りの内容が載っており、その後読み進めていくとようやく内海への航行に関しての内容が見つかった。
それによると、内海への遠征は国を挙げて過去何度も行われたそうだ。それは新たな資源を求めてということだったらしい。しかしいずれの遠征においても帰還した者はなく、遠征に出た人間はすべて海に飲み込まれてしまったそうだ。
遠征が行われ失敗するたびに、市長が変わりまた遠征へ出向くことを繰り返す。そうしていつしか国が主体となって遠征へ出向くことはなくなった。代わりに一般の船乗りや宝を求める冒険者などが海へ出るようになったようだ。
その頃から遠征を行う者はオリオールから許可を貰わなければならなくなったようだ。恐らく宝を発見した場合に、その利益の何割かをオリオール側も得られるようなやり取りがあったのだろう。
その後も様々な人間が遠征に出たそうで、中には当時名の知れた冒険者もいたようだ。しかしその冒険者も戻ることはなく、結局遠征から戻ることができたのは一般から名乗り出た一組の船だけだったという。約40年ほど前のことらしく、海獣から攻撃を受けて沈没寸前だったようで、やっとのことで帰還することができたようだ。
しかしその際海獣を引き連れてきてしまい、オリオールに大きな被害を齎した。帰還した船の船長は責任を問われて処刑され、それ以来内海へ遠征に向かうことは禁止されたそうだ。
国が許可を出しておきながら何ともやるせない内容だが、そんな前例がある以上許可を貰うことはかなり難しそうだ。
もし秘密裏に出航したとしても、老翁から聞いた通り海獣を連れて戻ってしまえば帰港することができない。もしできたとしても、それで被害が出てしまえば刑に処される可能性が高いだろう。
国に対して絶対の安全を保障できるか、或いは戻らず海の上を彷徨い続けるか。本当にどこか遠くの島に流れ着く必要が出てくるかもしれないな。
そのまま続きを捲るが、暫く進むとそれ以降は白紙となっていた。ひょっとするとこれから書き足されていくのかもしれない。
ということは、この本の著者はオリオールが滅ぶと考えているのか。なんと縁起が悪いことか。
俺は本の内容を伝えようと隣を見ると、ヘクスが本を手に取りすごい勢いでページを捲ると、すぐそれを返して別の本を手に取り再びすごい勢いでページを捲る動作を繰り返していた。
「相変わらずすごいな。一応目当てのものが見つかったぞ」
「おや、こちらにも法に関して書いている書物があったよ」
ヘクスは未だパラパラとページを捲りながら答える。
「さて、問題はこれからどうするか、だね」
「そうだな。強行突破はできるだけやめた方がよさそうだが、かといって許可を貰うことも難しそうだ。その昔許可を貰った船長も既に処刑されているようだしな」
「ふむ。その情報はボクの方にはなかったよ。しかしそうなるとその人物を探して改めて船を出す、というのは難しそうだね」
「ああ。となると強行突破するしかないわけだが……」
「ふむ。その前例を考えると、それは最終手段だね」
「とはいえ、既に最終手段を取らざるを得ない状況かもしれないがな」
八方ふさがりな状況に思わずため息が出る。ヘクスも同じようにため息を吐くが、その視線とページを捲る手は変わらなかった。
遠くを見るとアミミが何やら真剣に本を読んでいる。たまの一日くらい、こういう日があってもいいだろうとそっとしておく。
「取り合えず一旦休憩するか。このまま本を読み続けても解決するものでもないし」
「ボクはもう少し本を見ていくよ」
俺は一応アミミにも声をかけるが、アミミもまた、その場で真剣に本を読んでいた。
結局俺ひとりで入口周辺のテーブルへと戻ると、手近な席に座り息をつく。
さて、これからどうするか。
対応策を頭の中で巡らせるが、全くと言っていいほど妙案は浮かばない。海に出ることは難しく、また空を飛ぶにしても距離が遠すぎる。気球のような移動手段を作り出すことも可能だが、それにしても霧が濃すぎて目的地につけるか分からない。
ヘクスには悪いが、最早諦めの文字が頭の中にちらついていた。
「おや、珍しい。こんなところにお客様かな?」
声のした方へ目を向けると男がひとり。長身でセンスの良いベストに皺ひとつない紳士服を着こなしている。長い茶の髪を後ろで結わえており、眼鏡から覗く切れ長の目はそれほど鋭い印象は受けなかったが、それでも油断ならない雰囲気を纏っている。
どうやら扉から中に入ってきた所のようで、俺の姿を見て思わず声を上げたようだ。
男に気づいて受付嬢が深々と頭を下げる。
「こんにちは。ここ、よろしいですか?」
男は俺の向かいの席を指すと座っていいか尋ねてきた。
突然の申し出に、しかし断る理由もないので快諾する。
「ああ。構わない」
「それは良かった。あなたは旅の方かと思うが、オリオールはいかがですか?」
「そうだな。昨日到着したばかりで感想を述べるのも恐縮だが、都市中に広がる水路は中々興味深い。水霊の塔もまだ下まで行ってはいないが、それでも近くで見上げた迫力には圧倒されたよ。それになにより、水が多いからら涼しくて過ごしやすいな」
「それは良かったです。オリオールの民として、この町が褒められてうれしい限りですよ」
俺の感想に男が笑みを向ける。その表情は子供のように素直に見えた。
男は再び俺へと質問を投げかける。
「この後はどこに行くおつもりですか?」
「そうだな。帰りに水霊の塔の根っこに行ってみたいところだ」
「水霊の塔の下には公園があるので過ごしやすいと思いますよ。ぜひ行ってみてください」
「分かった。必ず行ってみるよ。所でこちらからも質問なんだが、この都市の代表者はどこに行けば会える?」
俺の質問に男は少し悩んだそぶりを見せ、訥々と答えた。
「代表者……市長、ですかね。であれば、市庁舎が南区にありますので、そちらに窺うのがよろしいかと」
「北区じゃないんだな」
「そうですね。元々北区にあったのですが、今は南区に移動したのです。南区海側の高台に位置するところで、そこから町が一望できるようになっているので、ぜひ市庁舎の展望台にもお越しください」
「ああ。そっちにも必ず行くよ」
男はこちらを探るような視線を向けつつ、それでも人の良い笑みを崩さなかった。
「それで、あなたは市長さんにどのような用向きで? 突然押しかけた所で会えるとは限りませんが」
「ちょっとお願い事をな。いや、会えないとは思ってないよ。だってもう顔見知りだからな。市長さん」
そうして俺は、目の前の男、オリオールの市長に笑みを向けた。
その言葉に、男は険しい表情で、ただ真っ直ぐ俺の目を見つめていた。




