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39.首都潜入

 リーゼとアルティスが攫われた。

 そのことにゲロとカスはひどく狼狽しており、直ぐにでも敵陣へ乗り込みそうな勢いだったが、何とか説得に応じて今は静かになっている。

 一方のアーリアは然程焦りを抱いていないのか、しかしリーゼのことは心配しているようだ。


 先程の包帯男からアーリア達が聞いた話では、満月の夜に儀式を行い、そこで魔王を復活させるそうだ。アーリアが安心しているのも、その儀式にリーゼが必要で、それまではリーゼが無事であると考えるているかららしい。

 問題はアルティスの方だ。本来アルティスは今回のターゲットではなかったはず。だが敵の勘違いで一緒に連れ去られてしまった。身の安全は保証されていない。

 ただこちらも、俺は問題ないと考えている。


 アルティスに渡した衣装は見た目とは裏腹に高性能で、外敵からの攻撃には強い防御性能を発揮する。加えてポケットに忍ばせたアクセサリーが、アルティスの居場所と状態を知らせてくれる。何かあれば遠隔でも防御結界を張れる優れものだ。

 余程の攻撃でなければ結界は破れないし、微弱ながら回復効果も有しているため、ひとまず安心と言えるだろう。

 ゲロとカスが大人しくなったのも、その話をしたからだ。


 今俺たちは今後の行動についてどうするか話すために、宿の一室に集まっている。

 元々いた部屋は破壊されたため、今はアーリアたちの部屋を使っている状態だ。


 騒動の後、駆けつけた宿の主人は俺たちの部屋を見て絶句していた。ただ修理代に関しては、逆に宿の不手際だと主張され、請求されることはなかった。

 守衛を用意していることからも、万一賓客が襲われることも初めから考慮されているのだろう。その上である程度の安全を保証しているようだ。

 ただ今回は相手が悪かったと言わざるを得ない。相手は闇クランの幹部連中。並の冒険者でもAランク以上でなければ対応が難しいだろう。

 まあ今回襲撃してきた婆さんとネコ娘は、既に取り押さえられて兵士に連れられていったが。


「さて。これからどうするか、だが……」

「勿論アルティス様を救出するでやんす!」

「ガスガス!」


 ゲロとカスは強硬に、アルティスの救出を主張する。

 その言葉にアーリアも頷いた。


「今回我々の騒動に巻き込む形になってしまったのはすまない。私も、アルティス君の救出は賛成したいと思う。ただ、私はそちらに協力できない」

「まあアーリアにはリーゼの救出って任務があるしな。俺も依頼を受けている以上、今回リーゼを護れなかったのは完全に失態だ。出来れば救出することで汚名を雪がせてもらいたい」

「拙者はリーゼもアルティス殿も助けたいでござる」


 それぞれの思惑はさまざまだったが、リーゼとアルティスを助け出したいという考えは皆に共通していた。それだけで方針は決定している。

 あとはそれをどう実行するかだけだ。


「問題は儀式が行われる満月の夜が3日後だって事だ。ここから首都セレスタリアまで約2日。もう夜も深いから、明日の朝一で出発しても到着したその夜にはもう満月ってわけだ。時間があるようで、実質かなり切迫している」

「うむ。本当は今から移動を開始したいところだが、流石にこの夜半に動かしてくれる馬車はないからな。宿に言って、馬車は既に手配済みだから、明日は速やかに首都に向かうとしよう。そしてそのまま敵の本拠地へ突入だ」

「承知でやんす。しかし首都といっても、相手がどこにいるかわかるもんなんでやんすか?」


 ゲロが当然の疑問を口にする。しかしその回答はアーリアの口から紡がれた。


「敵の居場所は目星がついている。……それは、インダール公の城の中だ」


 アーリアの口から出た言葉に皆が驚きの表情を見せた。


 インダール公。王国で言うところの国王、つまりこの公国の象徴的存在。

 もし本当に闇クランの連中が城にいるのだとしたら、招き入れることができる人物は余程の権力を持った存在になるはずだ。となると、考えられるのはインダール公の側近、或いはインダール公自身が闇クランと繋がっているという可能性が高い。


 リーゼの正体は十中八九、インダール公の娘だ。仮にインダール公自身が今回の首謀者だとすれば、魔王復活のために実の娘を生贄に捧げるという事である。流石にそれはないと思いたいが、お家事情など知りもしないため、その可能性がないとは言い切れない。

 だがアーリアはそれを否定する。


「別にインダール公が黒幕という訳ではないぞ。かのお方はお嬢様。いや、リーゼ様に対して優しい方だったからな。寧ろ溺愛していると言っていい程だ。だから黒幕はそれ以外にいる。怪しいのは宰相や騎士団隊長、大臣と言ったところだな」


 その言葉に俺とアミミはホッと胸を撫で下ろす。流石に実の父が娘を儀式の生贄にするなど、後味が悪いにも程がある。

 だが逆に言うと、大臣などが黒幕であるのだとすれば、今城の中はそいつに支配されているに等しい状況ではなかろうか。

 いくら権力を有していたとしても、インダール公以外が城の中でそう自由に権力を振りかざせるとは思えない。まして魔王復活の儀式のように大それたことが出来るとなると、その他の勢力を取り込んだか、或いは排除したか。


 ……見えない敵についていつまでも考えたところで結局答えは出ない。詮索はここまでだ。

 それより気になることはーー。


「アーリア、お前はどこからその情報を掴んだんだ?」


 俺の問いかけにアーリアが口を閉ざす。


 リーゼの護衛であるにしては、随分と相手のことについて詳しい情報を持ち合わせている。勿論襲ってくる相手を知ることは、護衛をする上で非常に重要な要素ではある。だがアーリアの態度はそれだけでないような違和感を感じさせた。

 今までの振る舞いを見ればおおよそ検討はつくが、しかし雇われの身である以上、突っ込んで聞くことはしない。

 今はただ、アーリアの情報の確度が高いかだけわかれば十分だと思い直すことにする。


「この際情報の出どころはどうだっていい。城に捕まっていると言う情報が確かであればそれで構わない。ただその大前提が間違っていれば、何もかも取り返しがつかないで終わることになる。それはこちらとしても避けたいんでな」

「それに関しては安心してくれ。奴らが言っていた魔王復活の儀式。もしそれが行われるとしたら、インダール公の城を置いて他にないからな」

「理由は、聞いても構わないものか?」

「構わない。隠す必要もないことだ。城でなければならないのは、そこがかつて魔王を封印した地だからだ」


 城に黒幕がいると言う話以上に俺たちは驚愕の表情を浮かべる。魔王の復活だけでも相当ショッキングなのに、その上インダール公の城が魔王がかつて封印された場所とは。

 歴史を紐解いてもそんな記述は目にしたことがない。ならば、この話は一部の関係者にのみ口伝されている事柄である可能性が高い。

 知識欲がくすぐられる情報だったが、今はグッとその気持ちを堪える。


「魔王は大昔に勇者に倒されたのではござらんのか?」


 アミミが疑問を口にする。

 この世界のほとんどの人間が、恐らくアミミと同じ認識だろう。

 悪虐の限りを尽くした魔王は、正義の勇者によって倒された。そうして世界に平和が訪れた。御伽噺などでよく聞くテンプレ展開だ。


 だが長い年月を経る事で話が大きく変わることなどよくある話だ。或いは初めから捻じ曲げられて伝わったのか。一部の為政者にとって都合が悪かったり、無用な混乱を招かないように。


「アミミ君。真実は少し違うのだよ。勇者は、魔王を倒しきれなかった」

「そ、それでは、世界が平和になったと言うのは嘘でござるか?」


 アミミの声は若干震えていた。

 アミミは英雄譚が好きで、特に勇者の話が好きだそうだ。それはある種、今のアミミ自身を形作っていると言っても過言ではない。だから尚更、アーリアの言葉で自分の中の勇者像が崩れてしまわないか、そのことに不安を抱いたのだろう。


「そんなことはない。勇者のおかげで世界は平和になったのは確かだ」


 アーリアの答えを聞いて、アミミは胸を撫で下ろしたようだ。

 言葉の代わりに、アミミの頭をぐりぐりと撫で回してやる。


「勇者は世界を救った。それは間違いない。だが魔王の力はあまりにも強大すぎて、完全に消し去ることができなかったんだ。やむを得ず勇者が取った行動が、魔王を封印すること。そしてその封印のひとつが、公国の首都セレスタリアの中心、インダール公の城が位置する場所という訳だ」

「つまりはその封印を解くための儀式を闇クランの連中は行おうとしてて、そのために必要なのがリーゼだったってわけか」

「そう言うことだ。お嬢様は儀式までの無事が約束されており、場所は城であることが決まっている。だから満月の夜、お嬢様とアルティス君を助け出し、儀式を食い止めることが我々のやるべき行動となる」

「ならあとは具体的にどう実行するかだな。当然ながら、城の警備は厳重なはずだ。相手が全員闇クランの連中なら片っ端からぶっ飛ばすで話は早いが、何も知らない城勤めの兵士なんかもいるはずだ。出来るだけ秘密裏に動くに越したことはないが」

「それは私が何とかしよう。城への隠し通路を知っているから、騒ぎを起こさず潜入できるはずだ」


 なるほど。全てが計画通りといったところか。

 何はともあれ問題を起こさず城へ潜入できるならありがたい。そこで一悶着あって、救出が遅れでもしたら目も当てられないからな。それに、ことが終わったあとに指名手配なんかになっても困るし。


「しかし一般の兵士とのいざこざは避けれても、闇クランの構成員どもとはぶつかることになるはずだ。恐らく一般兵の中にも少なからず紛れ込んでいるだろう。それにまだ幹部の連中もいるはずだ。簡単にはいかないと考えておいてくれ」

「それならさっき襲撃してきた連中に聞けば良かったな。出発前に聞けるなら聞いておくか」

「そうだな。で、肝心の城に入ってからの動きだが」

「あちきとカスはアルティス様救出に動くでやんす!」


 真っ先に手を挙げるゲロとカス。まあそれは予想されたことなので、特に問題はない。


「問題は強い相手が出てきたときにお前らで対処できるかどうかだな。勿論ゲロとカスの実力は認めているが、それでもアルティスを救出した後になると、庇いながらの行動は難しくなるはずだ」

「ならば拙者がついていくでござる」


 手を上げたのはアミミ。

 確かに3人いればひとりを庇って行動するのもだいぶ楽になるだろう。敵の優先順位からしても、儀式の成功が第一目標である以上、アルティスの方にそれほど戦力を割くとは思えない。


「分かった。ならアルティス救出は3人に任せるか。アーリアも、それで構わないか?」

「異論はない。私とトール君はお嬢様の救出に向かわせてもらおう」

「了解。まあアルティスとリーゼが一箇所に集められていれば、その時は動きが変わってくるけどな」


 2人ともが同じ場所に固まっていれば、そもそも別れて行動する必要はなくなる。とはいえ救出の際の優先順位を決める上でも、担当を分けるのは理にかなっている。


 ひとまず決めるべきはこんなところだろうか。

 結局、実際城に潜入してみないことには分からないことが多すぎる。行き当たりばったりではないが、備えを万端にした上で現場で判断するしかない。


 現場での判断は経験の差が如実に表れるところだ。アミミは少し心配だが、ゲロとカスは恐らく経験豊富。2人がいればアミミの経験不足を補ってくれるだろう。


「では、明日に備えて今日はもう休もう。再度の襲撃はないと思うが、念のため今夜は固まって過ごした方がいいだろう」


 アーリアの意見に否定を口にする者はいなかった。

 結局そのまま、俺たちは同じ部屋で一夜を明かすこととなった。

 翌朝早くに宿を後にすると、手配していた馬車に乗り込み、一路首都セレスタリアへ向けて馬を走らせた。





 時刻は昼頃。

 目の前には街道と都市を隔てる分厚い外壁が聳えていた。

 門衛はあくびを噛み殺しながら、通過する人や荷車、馬車を眺めている。


 この光景だけ見ればどこまでも平和で、これからこの都市で何か起きようなどと言う雰囲気はどこにもない。昼下がりのいつもの光景だろう。

 しかし今夜、満月の夜に、この地で魔王復活の儀式が行われる。


 魔王の復活。その事象が招く因果は、至極単純である。

 遍く破壊。


 勇者が討伐、もとい封印した魔王は、かつて世界の半分を焦土に変えたと言われている。そんな存在がこの地に復活すれば、公国は程なく滅びるだろう。


 俺は世界を救おうなんて高尚な考えは持ち合わせていないが、せめて手の届く範囲は力を尽くしたい。

 その為に、攫われた2人を救出する。


「ここからいよいよ、敵の総本山に踏み込むことになる。覚悟はいいかな?」


 アーリアの言葉に皆が頷く。今更ここで躊躇う者は、この場にいない。


「では行こうか」


 その合図とともに、大門を潜った俺たちは、公国の首都、セレスタリアへと足を踏み入れた。


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