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30.貿易都市エウレタリア

新年あけまして……と言っても1月1日に投稿してますが。


今年の目標はペースを崩さず投稿して、できれば100話以上投稿したいと思ってます。今月も火金の週2ペースで予定しています。

引き続きお付き合いください。


 朝食を終えた俺たちは、早速村長宅から出発する。

 他の村人は俺たちのことを怖がっているのか、顔を見せようとはしなかった。操られながらもぼんやりと意識はあったようだ。

 また村長が殺されたということが伝えられたこともあり、できるだけ関わり合いにならないことを選択したらしい。


 幸いにも御者は昨日の混乱の中でも無事だったようで、御者台に登って出発の準備を整えていた。

 俺たちが乗ればあとは発車を待つだけだ。


 結局村人の見送りもなく、俺たちが客車に乗ったのを確認すると、御者は馬を走らせた。

 ゆっくりと、車輪が音を立てながら輪転する。


 村を出発するとすぐに街道に出て、そこからはまた一本道の木々に挟まれた長閑な風景が続いた。

 がらがらと車輪が立てる音をBGMに、俺は静かに目を瞑っていた。向かいのアーリアも同様に、ただ静かに目を閉ざしたままだ。

 隣にいるアミミは俺達のその態度に、どう言う反応をすればいいか分からないようだった。

 やがて意を決したのか、自分の向かいで手持ち無沙汰なリーゼシュタットに声をかける。


「リーゼシュタット殿。よろしければ拙者と何かお話でもしないでござるか?」

「お話……ですか?」

「そうでござる。次の町まではまだ暫くかかると聞いたでござるから、気を紛らわせる程度と考えてもらえれば良いでござる」

「そ、そうですか。……えっと、アミミ様、と呼んでも構いませんか?」

「アミミ様……。そんな堅苦しくなく、拙者のことはアミミと呼び捨てで構わないでござるよ」

「そ、そう。じゃあ私のことも、リーゼって呼んでくれると嬉しい、です」

「承知したでござる。リーゼでござるな」


 明らかに貴族相手に物怖じしないアミミを見ると、中々に大物だなと感心する。

 そうして和気藹々とアミミとリーゼは色々な話をしていた。


 リーゼのいつもの過ごし方や御伽噺に聞こえる英雄譚に興味があること、アミミの修行の話や旅の目的など。アミミにとってはこの旅で初めて話す、同じ年頃の相手だろう。文化のギャップこそあれ共通の話題となる物事も多いようだ。

 そんな2人の微笑ましい様子を、俺は薄目を開けて眺めていた。

 ふと視線を正面に向けると、どうやらアーリアも同じことを考えていた様で、薄目で2人のやりとりを見ている。何と無くその姿が可笑しくなって、俺は心の中で静かに笑った。



 朝に出発した馬車は昼頃に次の町である貿易都市エウレタリアへ到着した。村からはかなり近かったらしい。

 ここに着くまで既に山間の道は通り過ぎているので、公国の首都であるセレスタリアまでは、この街を抜ければ後は平野を走るだけだ。

 セレスタリアまでの間にはいくつか村もあり、季節が合えば周囲は黄金色の麦畑が広がる。エウレタリアとセレスタリアの間は一大穀倉地帯で、農業が盛んな公国を代表する風景として有名だった。


 門を潜ると俺たちは一旦馬車から降りる。客車に誰もいなくなった馬車は、金を受け取ると御者に操られそのまま遠くへと走り去っていった。


 アーリア達の予定ではこの町で1日滞在した後、セレスタリア行きの馬車を手配して出発する手筈になっている。俺たちはあくまで護衛の任務なので、予定はアーリア達主導で決まっていくわけだ

 ちなみに依頼の報酬は成果報酬だが、それ以外にかかる経費や道中の旅費等は全てアーリア達が持つことで話がまとまっている。勿論今晩宿泊予定の宿や食事代もだ。


「事前に予約している宿へ行く前に、腹ごしらえでもしようか。トール君達には申し訳ないが、食事を取る店はもう決めているんだ」

「それは構わない。俺たちもあまりこの町については知らないからな。連れていってくれるならどこだっていいぞ」

「拙者ももう腹ぺこでござる」


 俺たちの同意に安心したのか、アーリアは息を一つ吐いた。そして出発の声を上げると俺たちを伴って歩き出す。


「しかし店まで決まってるとは準備がいいな」

「ああ。リーゼシュタット様に見識を広めてもらうのもこの旅の目的の一つだからな。本当は宿にこもって食事を取るでもいいんだが、今のうちに出来るだけ色々なものを見て頂きたいんだ」

「……そうか。そう言うことなら俺たちは全力で護衛をするだけだ。まあアーリアが選んだ店を期待しておくよ」


 何らかの事情があることは確かなようだが、護衛の立場で細かく依頼主の事情を詮索するつもりはない。襲われる理由が分かったところで大した意味は持たないからだ。

 相手の狙いと何者かがわかっていれば、対策はいくらでも立てられる。

 最悪何も情報がなかったとしても、その場その場で対処するだけなので、難度が少し上がる程度だ。


 俺たちはアーリアについて大通りを歩いていく。

 往来は多種多様な人種で溢れており、さすが貿易都市というだけの事はあると納得した。

 エウレタリアは別名公国の台所と言われている。それは公国の首都、セレスタリアまでの荷のほとんどがこのエウレタリアを経由して運ばれることに由来しているらしい。

 この国に入ってくる物資の9割がエウレタリアに集められる。文字通り、この町は公国にとって生命線といっても過言ではない。


 何故そのようなことになっているかというと、首都セレスタリアから街道が延びる都市は2本しかないからだ。


 一本はエウレタリア。そしてもう一本が、隣国アールシェイド。砂漠のど真ん中に存在する、年中熱気にあふれた町だ。

 このアールシェイドに辿り着くには砂漠越えだけでなく、間に横たわる砂塵も突破しなければならない。

 この砂塵が厄介で、実際の距離は大したことないのだが、中に入ると方向感覚を失ってしまう。その為自分の現在地が分からなくなり、いつまで経っても砂塵を抜け出せないということも良くある場所だ。

 そんな砂塵のど真ん中を、大量の物資を抱えて横断するとなると、かなりの労力がかかってしまう。加えて砂漠には野党が多く存在し、十分な護衛をつけなければ踏破できないため、商人にとって交易を行うには割りに合わない。その為地力がある限られた商団しか交易を行うことが出来ないのだ。

 そんな訳で、自然とエウレタリアが貿易都市として発展してきたという経緯がある。


 ちなみに俺もアールシェイドにはいったことがないので、いつか行きたい場所の中に含まれている。何より現地でしか味わえない独特な料理が多いとか。

 よし。公国を味わい尽くしたら次はアールシェイドへ行くことにしよう。

 このクエストが完了してから、アミミにも一応相談してみるか。


 俺がそんなことを考えていると、不意に殺気を感じる。アーリアも気づいたようで、視線で合図を出してくる。

 俺はその合図に頷きながら、しかし表情や動きには出さずに呑気に振る舞う。アミミも気配が変わったことから、どうやらその殺気に気づいたようだが、俺と同じように別段反応は示さない。


 今俺たちが歩いている大通りは、人がごった返しているとまでは行かないが、そこそこ人数がいる為隠れる場所も多い。木を隠すなら何とやらだ。

 が、今は前後をアーリアと俺で固めているため、生半可な相手であれば、まず襲撃は成功しない。そもそも事前に気づかれている時点で、奇襲にはならない。奇襲をするつもりだったかは知らんが。


 つまりは堂々と歩いていたところで、何も問題はないということである。寧ろ大っぴらに襲撃しては、自分たちの存在が明るみになる為、相手が闇クランであれば尚更襲いにくいだろう。

 革命家などであれば命を投げ打って目的を達成するだろうが、大抵の闇クランは利を目的としている。要人の暗殺や傭兵の真似事、兎角金銭で汚い仕事を引き受ける奴らが多い。

 言い換えれば、利を逸してまでの行動は取らないということ。自分たちの存在が明るみに出れば、それだけ今後の仕事に支障が出る可能性が高い。だからこそ、今は襲ってこないだろうとこちらは安心して構えることができる。

 敵ながら、その行動理念に信頼がおけるというのも不思議な話だが。


 勿論アーリアも同じ考えで、アミミは……きっと以前にそういうことがあったのだろう。一応後で確認しておくか。

 するとアミミが俺の服の裾を引っ張ってくる。

 殺気についての事かと身構えるが、アミミの口から紡がれた事は別の言葉だった。


「トール殿。先程通った屋台でとても美味しそうな甘い匂いがしたでござる。ご飯を食べたら後で買いに行きたいでござるが、良いでござるか?」


 キリッとした表情で真剣に訪ねてくるが、その口元は若干の涎が見えている。見当外れなその内容に、気構えていた俺は思わず腰が砕けそうになった。

 まさか匂いに釣られて気を配っていたとは……。


 『ダメでござるか?』と小動物のように小首を傾げて上目遣いに頼んでくる。


「……それ教えたのノノだろ?」

「む。よく分かったでござるな。ノノ殿が、トール殿に対してこれをやればイチコロ? とか申しておったので。意味はよく分からぬが」

「……はぁ。分かった。後で買ってこい」


 まったくこいつは、と小さく呟いた声は、果たしてアミミに届いたのかどうか。アミミは俺に礼を述べるだけだった。


 それから暫く歩いた後、大通りから横丁を抜け裏路地へと入っていく。そのまま進むと一軒の料理屋にたどり着いた。

 結局最後まで俺たちに放たれる殺気は消えることがなかったが、店を確認したからか到着した時点で霧散する。


 俺は店を眺める。

 大通りから一本隣の路地に入ったところにある店は、外観からして綺麗で清潔感があった。新しすぎず、しかしそう年数が経ち過ぎてもいない。

 扉の上に掲げられた看板には、皿とその左右に並んだナイフとフォークが描かれている。食事処だと言うことが一目瞭然だった。

 外観の雰囲気からして、店の味のレベルを想像させるに十分な店構えだ。


 大通りでは無いにしても、人がまったくいないわけでは無い。寧ろ洒落た雑貨屋や服屋、武器屋なども見え、そこに入っていく町民や冒険者と思わしき格好をした者たちも多かった。

 裏路地というよりは、変な表現だが第2のメインストリートと言ってもいい雰囲気だ。時間があればこの路地を散策するだけでも暇を潰すのに丁度いいだろう。

 俺はグルメガイドへ掲載する情報として、しっかりと頭の中にインプットしておいた。


「ここがアーリア殿の目指していたお店でござるか?」

「ああ。ここは私がこの町に来た時にいつも寄らせてもらっている店だよ。ここのフライブルクと言う料理が絶品なので、是非おじょ、リーゼシュタット様にも召し上がって頂きたくてね」

「アーリア。別にリーゼが貴族だろう事は分かってるから変に取り繕わない方がこっちとしても有難い。寧ろ余計に変な感じになる」

「そ、そうか。お嬢様、宜しいでしょうか?」

「はい。私は構いませんよ。それに、アーリアに畏まられる方がムズムズしますし」

「そ、そうですか。それではそうさせて貰います」


 問題が解決したので皆で店の中へと入る。

 中はいくつものテーブルが並べられており、複数の客が着席していた。ちょうどひとつだけテーブルが空いているようなので、俺たちは席に着く。


 昼時だからかウェイトレスは慌ただしく、注文を取っては出来た料理を各テーブルへと配膳していた。

 どうやらウェイトレスはひとりしか居ないようで、それでオペレーションが渋滞しているようだ。

 暫くして他の席への料理提供が終わり、俺たちの席へと注文を取りにやってくる。


「お待たせしました! ご注文は何になさいますか!」


 ウェイトレスは耳をぴょこぴょこさせながら、手に持ったメモ用紙を準備する。ぴょこぴょこと言うのは比喩ではなく、実際にぴょこぴょこしていた。

 ウェイトレスはこう言う飲食の接客業としては珍しい、亜人だった。恐らくウサギの亜人だろう。頭から伸びる長い耳は半ばで折れ曲がり、先端が上下を繰り返す。尻尾は丸いながらもフワフワの毛玉のようなものがスカートの後ろから覗いていた。


 飲食の接客で亜人は嫌われている。それは人が亜人の接客に対して忌避感があるからだ。


 王国も公国も、比較的亜人擁護派の国だが、それでも中には亜人を差別する者たちも多くいる。それは長い歴史の中で根付いたものらしいが、当然ながら俺はそんな背景を知る由もないので亜人肯定派だ。

 相当昔の話らしいので若い年代には比較的薄れつつある意識だそうだが、それでも長年の教育によって刷り込まれた亜人に対する差別意識が、無意識に発揮される事も少なくない。

 やはり見た目が普通の人と違うと言うのが差別を助長しているようで、しかしそれは種族的特徴のためどうしようもない。うまくその違いと付き合っていくしかないわけだ。まあそう簡単には行かないのが現実なのだが。


 今はそんな話をしたところで何も解決しないので、取り敢えず注文を行うことにする。


「フライブルクを4つお願いする」

「畏まりました! てんちょー、フライブルク4つ!」

「あいよ〜!」


 ウェイトレスは声を張り上げて注文を復唱すると、店の奥から女性の声が返ってくる。どうやら店長は女性のようだ。


「アーリアさん、お久しぶりですね!」

「ああ。少し公国を離れていてな。今帰りなのだよ」

「そうですか! 久しぶりのフライブルク、たっぷりサービスするんで味わっていってくださいね!」


 ウェイトレスの元気すぎる返事に若干気圧される。だがサービスしてくれるのは素直にありがたい。食は万里を超えるらしいからな。

 アーリアとの会話を終えたウェイトレスは元気に『お連れさんも!』と言い残して去っていった。


「アーリア殿はここの常連だったでござるな」

「公国にいた頃は足繁く通っていたからね。すっかり顔を覚えられたよ」

「アーリアの好み、いまだに分からないです」


 そのことにショックを受けたのか、少しシュンとなるリーゼ。その様子にアーリアは苦笑いだ。

 何と無くだが、2人の関係性がわかった様な気がした。


 それから他愛無い会話をし、時間が経ってアーリアおすすめのフライブルクが運ばれてくる。


「こ、これは⁉︎」


 テーブルに置かれたフライブルクを見た俺は、驚きの声を上げるのだった。

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