21.遺跡崩壊
12月はまた火曜、金曜の更新に戻したいとおもいます。
ストックが溜まればまた週3更新にしようと思います。
その後5体ほどの巨人が姿を現したが、すべて俺は一刀の元に切り伏せる。ノノでもひとりなら倒せるだろうが、相性の問題で俺より時間がかかるだろうから、結局全て請け負う形となった。
もうその頃にはアルティスやゲロ、カス達も驚かなくなっていた。
そして今、最後の1体と思われる巨人を真っ二つにする。
それから暫くの間次を待ったが、終に魔法陣は生まれることなく辺りに静寂が訪れる。俺は刀を収納にしまうと、替わりにいつも使っている剣を取り出し腰に吊り下げた。
その場にいた全員が安堵のため息を吐く。
「さて。これで巨人は全部倒したみたいだが、この後はどうする? まだ残ってそうなゾンビを退治してから町に戻るか?」
俺の問いかけにアミミも当初の目的を思い出したようだ。
正直巨人との戦いでもうヘトヘトだろうが、それでもゾンビをこのまま見過ごすわけにはいかない。彼ら彼女らの無念もあるが、それ以上に周辺に被害を及ぼす可能性もなくは無い。出来るならばここで一掃しておきたい所だ。
俺がわざわざそんな質問を投げかけたのも、アミミが今の状況でどう判断するか見るためだ。冒険者としてどう行動するか、それを試したわけだ。
勿論守護者との戦いで疲弊している身だ。無理にゾンビ討伐を断行して身を危険に晒す可能性もないとは言い切れない。無謀と英断は別の話だ。だからどちらの答えが正しいというわけではない。
今の戦力。周囲の状況。それらを加味した上で、冒険者は今取れる最良を選択していかなければならない。それが最良だったかどうかは結果論だが、自分で最良だったと言えるだけの判断力を磨いて欲しいと俺は考えていた。簡単に言えば、アミミには後悔しない選択をして欲しいということだ。
そしてアミミが辿り着いた答えはーー
「討伐してから戻った方がいいと思うでござる。正直トール殿やノノ殿に頼ってしまうかも知れないでござるが、ゾンビが周囲に被害を及ぼさない内に手を打った方がいいと思うでござる」
俺はアミミが選択した答えに頷く。
俺とノノがいれば、再び巨人が現れた所で問題なく対処できるだろう。戦力としては何も問題ない。ならば早い内に手を打つに越したことはない。
「で、アルティス達はどうする? もう安心だとは思うが」
「勿論ついて行くわよ。巨人が出る可能性が少しでもあるならトール達について行った方がよっぽど安全だしね」
また偉そうに胸を張ってそんな事を宣う。何でこいつはいつも偉そうなんだ。何処かの王族か何かか全く。
「ゲロとカスも異論無しか?」
「あちきらはアルティス様の決定に従うでやんすよ」
「ガスガス」
さすが従者の鑑だな。
話がまとまった所で俺たちは残ったゾンビの捜索に乗り出す事にした。この場所に繋がる扉は全て切り開いた後、風魔法でこの施設内を探知する。
どうやら外から繋がる入り口は俺たちが入ってきた場所とアルティス達が落ちたという縦穴以外は無いようだ。アルティス達の使った道はほぼ塞がってしまい利用できないようなので、実質この施設に入るには俺たちが使った入り口を使うしかない。
ちなみにゾンビの存在は奥の方にまだ数体残っているようだが、扉が閉まっていると探知の性能が著しく下がるため、他にもいる可能性は否定できない。
まずは入り口から見て奥の方に進んだ所のゾンビを退治することにした。
俺たちが重い腰を上げいざゾンビ退治に向かおうとした時、再び施設内を赤い光の明滅とともに警報が鳴り響いた。耳をつんざくような甲高い異音が、光の明滅に合わせて大小を奏でる。
「トールん。何だかマズイっぽく無い?」
「ああ。間違いなくまずいだろうな。と言うわけでゾンビ討伐は後回しだ。急いでこの施設から出るぞ」
全員が俺の意見に賛同し、素早く俺たちが入ってきた入り口へと向かう事になった。
それほど広い通路でも無いため2列になりながら出口へと進む。道中のゾンビは行き掛けに掃討しているので途中足止めをしてくる輩はいない。警報が鳴り響く中、俺たちは別れることのない一本道の通路をひたすらに進んでいく。
いくらか進んだ所で突然警報が止まった。俺たちの足もそれに合わせて止まる。
「音が止まったでござるな」
「ええ。結局何も起こらなかったのかしら?」
「だといいでやんす」
とは言え先ほどの警報が無意味なものだったとは思えない。何かしらの危険を告げるものか、或いは何かしら機構の起動に関わるものか。定番な所では自爆やゾンビの大量排出などがありそうだが。
するとどこか遠くで何かが崩れるような音がした。爆発音のような、落盤事故のような、固い何かが砕けるような音。
よくよく耳をすませると、それは確かに俺たちの背後から聞こえてくる。その音が徐々に徐々に、耳に大きくなっていた。
「走れ!」
俺は声を荒げて叫ぶとアルティスを担ぎ上げて一目散に走り出した。
背後から聞こえてきた何かが崩れる音。恐らくこの施設が崩壊を始めたのであろう。
俺たちが巨人を倒し尽くしたことで、現在この遺跡の防衛能力はゼロに近いはずだ。もしそこが重要な研究施設で侵入者を撃退する術を失ったとしたら、この施設の設計者は果たしてどうするだろうか。
考えられる可能性はいくつかあるが、仮にもし俺がこの遺跡の管理者、或いは設計者だとすれば、躊躇なくこの遺跡を破壊するだろう。そうすれば侵入者の排除が出来、もし生き延びたとしてもそれ以上の情報は得られなくなる。
崩落の音が徐々に大きくなりながら、俺たちは一本道をひた走る。幸いにもアミミやゲロカスも足は遅くない様だ。
やがて直線と左に伸びる分かれ道にたどり着く。入り口から最初に突き当たった分かれ道だ。つまりこの道を左に進めば出口まで後一息だ。
だがここに至って前方からぬらりと数体のゾンビが現れる。俺はアルティスを担いでいるため戦闘行動にすぐにうつれない。
「ノノ頼む」
「任せてー」
ノノが杖を前方に一振りすると、黒い弾が発射されゾンビを蹴散らした。そして勢いを止めることなく出口へ向かう通路へと進む。
崩落の音は近い。モニターのあった部屋を中心に各通路に波及していく形になっているのだろう。まるでドミノ倒しから逃げている様な気分を味わう。
最後の一直線の通路にもゾンビが溢れている。もう一方の通路にまだ多く残っていたものが警報を受けて解放されたのかもしれない。ただ意思があるわけではないためその歩みは鈍い。
「桜刀斬」
アミミが斬撃を飛ばし道を塞ぐゾンビを蹴散らす。討ち漏らしたゾンビは尾を引く桜の花びらの様な斬撃が切り刻んでいった。
ゾンビを超えた先に光が漏れる。
「出口でガス!」
だがゾンビが進路を塞いだ事で俺たちのスピードは僅かに遅くなっていた。それは致命の遅れとなって俺たちに襲い掛かる。
背後の崩落によってもたらされた粉塵が俺たちを追い越し、頭上の天板が糸を切った操り人形の様に重力に引かれて落下を開始する。そして少し前方の天板も後を引く様に次々連鎖する。
まだ出口までは距離がある。アルティスたちは目の前に広がる絶望に死を覚悟した。
だがアミミは、絶望の表情を浮かべるアルティスに問題ないと微笑を浮かべる。
ふと天板が落ちる速さが緩まった気がした。次の瞬間、後ろから猛烈な圧力がかかり俺たちは前方に押し出される。
「いやあああああああああ⁉︎」
まるで絶叫アトラクションのような急加速。不意を突いたあまりの勢いに、アルティスは悲鳴を上げた。他の面々も同じく勢いに飲まれるが声は堪えることに成功した様だ。
そのままの勢いで俺たちは団子になりながら遺跡から飛び出す。そしてそのまま前方の広場にゴロゴロと転がった。
幸いにも外にまでゾンビは出ていなかった様で、そこは行きがけに聖属性魔法で一掃した綺麗なままの景色が広がっていた。
少し遅れてずんと音が響くと、遺跡の入り口が完全に塞がる。土埃がこちらまで届く前に俺は魔法を発動して入り口を土壁で完全に覆った。何とか崩落の勢いを封じ込めれた様で、暫く経っても変化は見られなかった。
周囲を見渡すとノノを除く面々は地面に伏したまま動かない。ただその中にアミミの姿が見えなかった。
「トールん、最後の突風ありがと」
「ん? ああ、ノノも黒手で天井の崩落抑えてくれて助かった。取り敢えず無事に脱出できて良かったよ。所でアミミの姿が見えないんだが」
「え?」
まさか先程の崩落に巻き込まれたのかと心配になっていると、ふと背中に重みがあることに気付く。
恐る恐る振り返るとすぐ顔の横にアミミの顔が見えた。
「トール殿」
「うお。そんな所でどうしたんだ?」
「拙者を傷物にしておいてそんなことを言うでござるか」
「それ色々誤解されそうだからやめてくれ。ひょっとして俺が背中で押し潰しちまったか?」
「酷い話でござるな、ほんと」
どうやら先程転がり出た際、俺がアミミの上から押し潰してしまった様だ。素早く起き上がるのに合わせて俺の背中にしがみ付いたのだろう。
「しかし遺跡が崩落してしまってはゾンビ殿達は……」
「またゾンビ殿って……。まああの崩落だ。運良く生き延びてる、てことはまず無いだろう。ゾンビに生き延びてるってのも変な話だがな」
「大丈夫だよー。もう遺跡の中にはアンデッドの気配ないから。これで彼らも解放されたって考えれば、今回の依頼は完了だね」
どうやらノノはネクロマンサーとしてアンデッドの気配を察することができる様だ。そこそこの付き合いだと思っていたが初めて知った。
俺はまだ寝転がっているアルティス達に声をかける。
「アルティス。俺たちはこのままピルケスの町に向かうがお前らはどうする?」
また着いてくると言うのかと内心思いながら、一応質問してみる。するとアルティスから想像とは違う答えが返ってきた。
「私たちは止めておくわ。また次の目的地に向かわないといけないもの」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだな」
遺跡の中で出会った奇妙な3人組。どこか抜けていて憎めない奴らだった。俺は短い間ながら、そんな評価をアルティス達にしていた。
今回はドタバタのうちにお別れとなったが、またそのうちこいつらとは出会えそうな気がする。そんな予感を感じつつも、俺はアルティスに向けて手を差し出した。
アルティスは差し出された手をしっかりと握り返す。
「ええ。また会いましょう」
「ではおさらばでやんす」
「ガスガス」
「アルティス殿ー。またでござるー」
「またねー」
俺たちは手を振りながらアルティス達を見送った。やがて3人の後ろ姿は森の中へと消えて行った。
アルティス達がいなくなった後、暫く感慨にふける。しかしいつまでもこうしているわけにもいかないので、気を取り直して町へと向かうことにした。
「じゃあピルケスに帰るか。ギルドにも報告しないといけないしな」
「そうでござるな」
「私は早くお風呂入りたいかなー」
「カァカァー」
皆口々に言葉を発し、ワシもバタバタと羽を震わせる。
町まではまた半日ほど歩く必要がある。既に空は白み始めており、夜通し自分たちが戦っていたのだと改めて気付かされた。それを見て急に疲労が体を襲う。
そんな疲労を何処か心地よく思いながら、俺たちはピルケスへ向けて歩き出した。
アルティス達は深い森の中を進む。3人は無言だ。だがその足取りはどこか軽やかだった。先をゆくアルティスにゲロが声をかける。
「アルティス様。本当にこれでよかったでやんすか?」
それはトール達に協力を仰がなかったことに対する問いかけだった。
アルティスの目的からすると、少しでも力持つものに協力してもらった方が得策だ。きっとトール達であれば、彼女が真剣に頼めば願いを聞き入れてくれただろう。
とは言えトール達もそれぞれの目的を持っているのだ。それを押してまで協力してもらうのは何か違う気がした。そんな善意につけ込むようなこと、それはアルティスにとっても本意ではない。
変なところで律儀なアルティスは、やはりその心根の優しさからどうにも自分本位になれなかった。そんな主人に好感を抱くゲロとカスは知らず笑みを浮かべる。
「じゃあオイラ達もまだまだがんばらないといけないでガスね」
「カスに言われるとは不覚でやんすな。でも、あちきもそう思うでやんすよ」
2人の言葉に胸が熱くなるのを感じたアルティスは、瞳に溢れるものを堪えながらそれを見られないよう前を向いた。そして自らが目指す世界に突き進むべく一歩を踏み出す。
「じゃあ、次の目的地に行くわよ!」
総じて前へ前へと突き進んでいくアルティス。
そんな主人の姿にゲロとカスはお互いの顔を見合わせると、笑みを浮かべて頷いた。そして先行く彼らの主人に追随すべく、その後ろを着いて駆け出すのだった。




