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19.穴底の攻防

「アミミちゃーん!」

「わぷっ。ノノ殿」


 いつの間にか近くに来ていたノノがアミミに抱きつく。顔が胸に埋まってしまい息が詰まる。


「やったじゃないアミミちゃん。ずごかったよー」


 相変わらず間延びしてのんびり聞こえる話し声だ。すっかり緊張が吹き飛んでしまう。


「そうでやんす。最後の一刀は凄まじいものでやんした」

「ほんとでガス。あのミスリルを斬ったんでガスから」

「いやいや。拙者一人では構えた瞬間ペシャンコでござった。皆が引きつけてくれたからこそでござる」

「カァー」


 ふと頭上を見るとワシがくるくる回っていた。


「ワシもありがとうでござる。ワシのおかげで周囲の状況を把握できたでござるよ」


 そしてキョロキョロと辺りを見回す。だがそこには自分の探している白銀の騎士の姿はどこにもなかった。


「ヴェルテンなら帰ったよ」

「そうでござるか。お礼を言いたかったのでござるが」


 ヴェルテンがいないことを知り、アミミは少し寂しそうな表情をした。そんな様子にノノは、ただ優しくアミミの頭に手を乗せる。


「大丈夫。私が聞いたから、ちゃんとヴェルテンにも伝わってるよー」


 その言葉を聞いて途端にアミミは笑顔に戻った。釣られてノノも笑顔になる。

 

「しかしこの巨人は全部ミスリルなんでやんすね。これを売ったら大金持ちでやんすよ」

「ガスガス」


 すっかり目の前の戦利品に目をお金のマークに変えている2人に白い目を向けるアミミとノノ。


「そんなことよりまずアルティス殿の心配をしたらどうでござるか」


 アミミがため息をつきながらやれやれと肩を竦める。

 ゲロとカスはお互いに目を合わせると、バツが悪くなったのか頭を掻きながら視線を彷徨わせた。


「まぁアルティスちゃんはトールんが向かったから大丈夫でしょー」


 その言葉を聞いて、しかし3人は不安を隠せない。

 今さっき自分たちが4人がかりで戦ってこれだけ苦戦したミスリルの巨人だ。同じものがそう何体もいるとは思えないが、逆に1体だけとも考えにくい。

 アルティスは戦えないとすると、そんな相手にトール1人で挑まなくてはならないことになる。

 しかしノノは一向に自信を崩さない。


「大丈夫。トールんはどんな状況でも対応できる、究極のオールラウンダーだから」

「まあノノ殿がそこまで言うならそうなのでござろう。それに拙者も、何となくトール殿なら大丈夫そうな気がするでござる」

「おおー。愛だねー。アミミちゃんもトールんにメロメロかな?」

「何でそうなるでござるか……。まあこれから師匠としてお世話になるので多少の敬意はあるでござるよ」

「あはは。当面アミミちゃんはライバルにならなさそうだねー」

「ライバル?」


 アミミはその意味すらもよくわかっていなかった。良くも悪くも、まだまだ純真無垢な12歳である。そんな様子のアミミのことが愛おしくなったノノは、ギュッとその豊満な胸でアミミを包み込む。アミミはジタバタともがくが無駄な抵抗である。


 そんな2人の様子を男どもは温かく見守っていた。互いに視線を合わせると、親指をグッと立てる。


「それはそうと、このあとはどうするでござるか? ただトール殿達を待っているというのも気が進まないのでござるが」


 ノノの胸から顔だけ出したアミミが尋ねる。


「そうでやすね。とは言えあまりここから離れても逆にすれ違う可能性も出るでやんすから、待つのも手だと思うでやんす。ノノさんが言った様に、トールさんが問題ないなら尚更ここに向かって来るんじゃないでやんすか?」

「確かにそうかもしれないでござるな」

「あのー」

「私もここで待つに賛成かなー」

「あのー」

「それじゃあここで待つでやんす」

「あのー」

「さっきから何でやんすか!」


 繰り返し言葉を挟むカスに苛立って声を荒げるゲロ。

 カスはそんな3人に、今目の前で起こっている異常について告げる。


「あそこ。また魔法陣が浮かんでるんでガスが……」

「「「……え?」」」


 4人の視線の先。

 自分たちが先程避難した位置に再び魔法陣が出現している。


「これって、さっきと同じパターンでござろうか?」

「いやー。それはちょっときついかなー」

「あちきも正直もうクタクタでやんすが……」

「オ、オオオオ、オイラは、ははは腹が減ったでガス」


 四者四様の回答で、その後の展開を待つ。幸いにも魔法陣はモニターの方、つまり今現在4人がいる方へ移動することなく、その場にミスリルの巨人が召喚された。今度は地面に着地しても床は壊れない。


「まあこれで、待ってる間暇にならなくなったんじゃないかなー」

「冗談きついでやんすよ」

「全くでござる」

「ガスガス」


 4人は溜息混じりに武器を構えた。


「さぁ、もう一戦と行こうかー」


 ノノの呑気な掛け声に、アミミたちは意識を切り替える。

 そして再び、巨人との戦いが幕を開けた。





「ん。んー。……ここは? 確か私は穴に落ちたと思ったんだけど」


 アルティスが目を覚ました様だ。まだ状況が飲み込めていないのだろう。周囲をキョロキョロと見廻し確認している。と、ようやく俺の存在に気付いた様だ。


「気が付いたか?」

「トール?」


 アルティスは暫く俺をぼうっと見ていた。まだ思考がはっきりしていない様だ。

 俺がアルティスを助けたのは空中だ。幸いにも傷はほとんど負っていなかったので、そのまま風の魔法で減速しながら着地した。受け止めた時点で気を失っていたので殆ど覚えていないのだろう。


 アルティスは俺の顔を暫く見つめながら、徐々に状況を理解してきたのだろう、ボッと顔を赤くしてジタバタと暴れ出した。


「ななな、何でトールの顔がこんなに近くにあるの⁉︎ 何で私お姫様抱っこされてんの⁉︎」


 暴れ回るアルティスを何とか抑えつつ、俺は現在の状況を説明した。


「落ち着け。俺たちはあの穴から落ちて来たんだ。上で今アミミ達が守護者と戦っているはずだから、出来るだけ早く上まで戻りたいんだ」

「そ、そうなの。分かったから、取り敢えず下ろしてもらってもいいかしら? ……私の心が保ちそうにないし」


 最後の方の言葉はなんて言ったか聞き取れなかったが、本人の要望に則ってアルティスを下ろす。


「で? これからどうするの?」

「それなんだがなぁ」


 今俺たちがいるのはドーム型の広い空間。

 四方八方見回しても、何処にも出口らしきものがない。出口らしきものはないのだが、周囲に青味を帯びた巨人が陳列されていた。その数実に30体以上。壁面に巨人が入る穴の様な物が1つ見えるので、恐らく上に転送された巨人がここに収まっていたのだろう。


 色から察するに材質は恐らくミスリルだ。


 先ほどから上へ戻ろうと魔法を試しているのだが、魔力が上手くまとまらない。魔力の流れを探ってみると、どうやら周囲の巨人に引き寄せられている様だ。

 ミスリルの魔力に対する高い親和性を逆手にとって、周囲の魔力がそちらに流れる様に設計したのだろう。この守護者を作った奴はまさに天才だな。

 実際のところ、吸われたとしても1体だけなら大した魔力量にはならないのだが、数が多いことで発動に必要な魔力を込めても散らされてしまう感じだ。

 この場で魔法を発動しようとすれば、普段の数倍は魔力を込めないと行使できないだろう。さらに飛行のように魔力を維持し続ける魔法はほぼ使えない。


 俺はどちらかと言うと魔法寄りの物理戦闘が多いので、中々の悪条件である。幸いにも強化魔法など体内に作用する魔法の魔力まで吸収する程の吸引力はなさそうだ。ただ障壁など自分から離れて展開する魔法は、距離が近くても若干精度が落ちる。

 ノノも俺以上に魔法主体の能力なので、恐らく苦戦を強いられているはずだ。


 つまり俺が魔法で上へ戻るにはこの巨人たちを倒すか、魔法が問題なく使えるレベルになるまで巨人を間引きするしかない様だ。


「所でアルティスは何かできたりするのか?」

「え。私? ふふん。聞いて驚きなさい。私はいーっさい、戦えないわ!」


 何故か知らんがものすごく偉そうに胸を張って答える。そんなに胸を張ったら程よい膨らみが強調されるので出来れば控えて欲しいが、それを言ったらまた暴れられそうなので口には出さない。


「まあアルティスが無能だということはわかった」

「無能って酷いわね! 私はちゃんと信託の力があるによ!」


 あ、噛んだ。

 アルティスが顔を赤くして体をプルプル震わせている。小動物を見ているようでなんかカワイイ。

 

「とは言え、あまり悠長に構えてる暇もなさそうだな」

「え?」


 見ると周囲の巨人が動き始めた。全部でもはなく5体が収納された穴から抜け出てこちらに向かってくる。恐らく同時に起動する数が決められているのだろう。全機動き出したらドームの中が大渋滞だ。

 ズシンと一歩を踏み出すたび地面が揺れる。まだ距離はあるが近づくほど圧力が強まるのを感じる。


 問題はアルティスだ。戦力にならない彼女を戦わせるわけにもいかない。かと言って何もせず放っておいては、いつ巨人どもが動き出し彼女を襲い始めるかわからない。

 俺の周囲程度であれば魔力の障壁を作って攻撃を捌けるが、距離があればミスリルの魔力吸収であっという間に解除されてしまうだろう。


 悩んだ挙句俺が考えた策はーー


「よし、アルティス。俺にしがみつけ」

「へ?」


 ぽかんと口を開けるアルティス。俺の言った意味が一瞬理解できなかったようだが、直ぐに顔を赤くしてすごい勢いで捲し立ててくる。


「馬鹿じゃないの⁉︎ そ、そんな、今日出会った相手に抱きつくとか出来るわけないじゃない!」

「待て。勘違いするな。そういう意味じゃなくてあの巨人と戦うために仕方なくだな」

「何が仕方なくよ! 仕方なくで私に、その、抱き着かせようとしたわけ? この鬼畜。変態。ロリ。悪魔!」


 そんな言い争いをしている間にも巨人は音を立てて近づいてくる。射程圏内までそう猶予もないだろう。


 俺はアルティスの肩を掴んで彼女の瞳をしっかりと見据えた。薄紫の瞳が不安げに揺れる。


「後で埋め合わせはする。だから今は俺の言葉に従ってくれ。俺はお前を守りたいんだ!」


 その言葉にアルティスは一瞬動きを止めて顔を俯けた。そしてポツリと言葉を吐き出す。


「……分かったわ」


 そしてアルティスはおずおずと俺の腰に手を回し抱きついた。


「……あのー、アルティスさん。しがみつけとは言ったが、まさかそっちにしがみつくとは予想外だったんですが……」

「へ?」


 俺はてっきり背中にしがみついてくれるだろう程度に思っていたのだが、アルティスは俺の前方からギュッと抱きついていた。

 アルティスは慌てて離れようとするがどうやら敵は待ってくれないらしい。俺は離れようとするアルティスを片手で抱くと胸元まで引き寄せる。もう片方の手で空間から取り出したロープをくるくると巻き付け、しっかりとアルティスが落ちないよう固定した


 ロープで縛ったからか、ちょうど俺の体にセミのように手足を回してくっついた状態になる。アルティスは恥ずかしさからか、顔を真っ赤にして頭を俺の胸に埋めていた。

 正直俺もここまで密着されると意識せざるを得ない。が、今はこの状況を何とかすることが先決だ。死んでしまっては元も子もない。

 俺は思考を切り替えて5体の巨人に対峙する。


 1体の巨人が徐に俺に腕を向ける。俺は何をするのかと疑問に思っていると、魔力の流れが腕とは反対方向に噴射される予兆に気付く。

 すかさず収納から刀を取り出し飛んできた腕を受け流した。

 自重より遥かに重い腕だが、何とか軌道を逸らして直撃を避けることに成功する。腕は地面を抉り取って遠くまで飛んでいく。

 一撃でもらうとヤバそうだ。


「アルティス。しっかり捕まってろよ」

「う、うん」


 上目遣いに俺に視線を合わせるアルティス。急に塩らしい態度になったのも相まって一段と可愛く見える。俺は無理やり邪念を振り払い、刀を構えながら周囲を見渡す。


 計5体のミスリル製巨人。更には後にも20体以上の巨人が控えている。その上戦闘終了後には穴の上まで戻らなければならない。


 俺は体力の配分を考えながら静かに気合を入れる。


 刀の芯鉄に気を送り込み、その力を引き上げる。気闘法。俺がこれを使えることを知ったらアミミはきっと驚くだろうな。など思いながら、静かに腰ダメに刀を構えた。


 先程腕を飛ばしたのとは別の4体が俺にミサイルパンチの照準を合わせる。そして魔力の動きを感知する。


「彼我一閃」


 俺は居合の形で目の前の何もない空間に刀を閃かせた。


 静かに、そしてゆっくりと刀を鞘に収める。鍔鳴りの音と同時に、ミスリルの巨人たちが斜めに両断されズシンとその巨体を地面に横たえた。


 一先ず5体は討伐できたが、まだ数が多い。そうこうしているうちに再び壁際の巨人たちが動き出した。


「少し揺れるぞ」


 アルティスにささやきかけるとこくんと頷く。


 俺は了承を得たと判断し、巨人の一体に駆け寄る。巨人が動き出す前に一刀両断。巨人は動きを止めてそのまま地面に伏す。

 続いて距離はあるが別の巨人へと接近。再び両断すると、別の動き出した巨人の腕が俺目掛けて発射された。


 俺は腕に一直線に突っ込むと跳躍、飛んできた腕を足場にさらに高く跳んだ。そして距離を詰めると再びその巨人も二つ別れにする。

 すると1体の巨人が不自然な動きを見せた。


 俺たちを無視して部屋の中央へ移動すると魔法陣が浮かび上がる。魔法陣が起動すると、その巨人の姿はどこにもいなくなっていた。


 なるほどと思い、俺は再び巨人への攻撃を再開する。それから暫く十数体の巨人を葬った後、再び部屋の中央へと動く巨人が現れた。

 俺は他の巨人の攻撃を躱しながら、その1体へと飛びつく。そしてアルティスと共に転移の光へと吸い込まれた。

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