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16.アミミVSアンデッドロード

 憎い憎い憎い。あいつらのせいだ。あいつらが全部悪いんだ。あの冒険者共が。

 やがて思考の闇に飲まれて、そして俺は生まれ変わった。


 この体になってから随分と思考がスッキリしている。

 あれほど憎悪を抱いていたのに今となってはもうどうでもいい。目の前には変わり果てた姿のあいつら。俺は目的を果たしたのだから。

 いや、違う。まだ冒険者は大勢いるじゃないか。


 目の前に並ぶかつて冒険者だった物達。


 知性のかけらもない虚な視線。

 体の至る所から溢れた体液。

 欠損の激しい肉体。


 そうだ。手始めにピルケスを襲おう。あそこにはまだ冒険者がうじゃうじゃいる。それに同じ冒険者のアンデッドを作ればこいつらも寂しくないだろう。

 よし。ピルケスの町の冒険者共を殲滅だ。


 手勢は問題ない。殺せば殺すほど配下が増えるのだから。人を殺し、配下を増やし、それを繰り返す。

 そうすればいずれ、冒険者達はいなくなる。


 この体になってから随分と力が漲ってくる。今までできなかった事ができる。それが体感でわかる。


 まずはこの力の使い方を覚えよう。そうしてピルケスに侵攻だ。


 あれ? そう言えば俺は何で冒険者を殺すんだ?


 ……まあいいや。俺はとにかく冒険者を殺せればいいんだから。理由なんて必要ない。そう。それが俺の目的。俺はただ、冒険者を殺せればそれでいい。



 何だ。あの女は。

 美しい。それに随分と死臭が染み付いているようだ。

 これはぜひ我が配下に加えたい


 ちょっと待て。あれは何だ? あれは人間か?


 この体になって自分が超常の力を得たと理解した。だがあれは何だ。

 瞬きすら許されない絶対的威圧。あれが人だとしたら、自分は羽虫だ。それほど隔絶された力の差を感じる。

 せっかく冒険者を殺せると思ったのに、あんな理不尽な存在に出会うなんて。


 今度は何だ。

 何か騎士が出てきたぞ。


 あれもまずい。とてもじゃないが今の俺では敵わない。もっと力をつける必要がある。

 悔しいが、今は退却が必要だ。


 さあグールども。私を、守れ。私が逃げる時間を稼ぐんだ。


 ……バカな。こいつらは元冒険者だ。それがアンデッドになったんだ。なのに何で一瞬で4体が屠られるんだ。冗談じゃないぞ。


 来るな。来るな! 私はもっと冒険者どもを殺さないといけないんだ!


 ……なんだ。どうした。なぜ騎士が消えたんだ。いや、あれは送還したのか。

 何が何だかわからない。だがひとつ驚異が去っただけよしとしよう。


 だが状況は好転していない。まず逃げなくては。だが手勢がない。この状態で逃げ出すのは難しい。人間はまだあの女の後ろに複数人控えているのだ。


 ん? 何だ?

 あの女は下がるのか?


 出てきたのは、幼い童女。

 これも強い。なかなか強い。だが、まだ俺の方が強い。倒せない相手じゃない。


 そうだ。これを人質にしてこの場を逃げよう。村まで行けば皆がいる。俺が帰ってきたと知ったらみんな喜ぶだろう。

 そしたらみんなも仲間に加えてやればいい。それで戦力が多少補充される。そうしたら次はいよいよピルケスだ。冒険者全員を配下に加える。

 ついでに騎士や貴族も配下に加える。そうして勢力を拡大させれば、いつか冒険者はこの世界から全員いなくなるはずだ。


 そうだ。そうしよう。





「じゃあ頑張ってねー。アミミちゃん」

「承知したでござる」


 ノノはそう言ってアミミと入れ替わるように後ろへ下がった。

 アミミはピリピリした緊張感の中、目の前の相手と対峙する。


 目の前に来るだけでわかる。これはとんでもない力を秘めている。

 見た目は肌が浅黒く変色した人間のよう。所々肉が腐り落ちたり、体液を撒き散らしたりなどは見られない。


 そして何より、やはり瞳の奥に知性のかけらを感じる。


「拙者はアミミ・タガサ。お主がアンデッドロードでござるな?」

「あん、で、ろー?」

「む。言葉を喋るでござるか」


 言葉まで解するのはアミミにとっても予想外だった。だが目の前の存在が大人しい存在であるはずがない。

 アミミは慎重に隙を窺いながら、居合の体勢へ移行すると刀を振るった。


 彼我の距離を一瞬で縮め、最速の一撃を叩き込む。

 しかし難なく アンデッドロードはその一撃を後方に跳んで躱した。


「ご、ぢ」


 息を漏らすような声。ニヤリと笑ったような気がした。

 アンデッドロードが腕を振るうと、黒い瘴気は苦悶の表情を浮かべた人のような顔になった。複数のそれがそのままアミミに襲いかかる。

 上下左右、様々な方向から襲い来るそれを、アミミは躱し、払いしつつ避けていく。

 だが避けたそばからまた新たな顔が生み出され、勢いが弱る事なく殺到する。


 アミミは一度大きく後ろへ飛ぶと、再び居合の体勢を取る。


「桜刀斬」


 神速の刃から斬撃が放たれる。

 まるで花びらを散らすかの如く尾を引きながら、高密度に圧縮された闘気が一直線にアンデッドロードに飛来した。

 だがその一撃はアンデッドロードに届く前に、地面から生み出された多数の顔によって阻まれる。

 残光を散らしながら両者の攻撃が掻き消えた。


「やるでござるな」


 アンデッドロードが反応した時、既にアミミは背後に移動し刀を振るった後だった。

 アミミの一撃がアンデッドロードを袈裟斬りにする。


「ああ゛、あ゛あ゛ああああ゛あ゛!!」

「!」


 アンデッドロードが叫び声を上げるとアミミが袈裟斬りにした断面から瘴気の塊が溢れ出す。それが幾つもの顔を形成するとアミミに襲いかかる。


 至近距離からのいきなりの反撃にアミミは一瞬反応が遅れた。襲いかかってくる無数の顔をひたすら払うが、そのうちの幾つかがアミミの体に喰らいつく。

 肩と脇腹に取り付いた不気味な顔が、体の一部を噛みちぎり蹂躙していく。

 転身して再び距離を取るが、しかしその傷は決して浅くない。体からジワリと血が染み出し、衣服を赤く染めていく。


「アミミ。あいつはアンデッドだ。普通の相手なら攻撃を加えれば怯んだり動きが止まるかも知れないが、あいつにはそれがない。即座に反撃してくるぞ」


 予めトールにも忠告されていた事。

 頭ではわかっていたつもりだが、いざ実戦となるとそれを常に意識しながら戦わなければならない。

 目の前の状況、周囲の環境。無数の選択肢の中から最適解を選び続ける事がいかに難しい事なのか、アミミは今思い知らされていた。

 今まで組み手や魔獣狩りしかしたことのなかったアミミにとっての、これが初めての命のやり取り。相手は格上。僅かでも判断を違えれば待つのは死。


 緊迫した状況の中、アミミは先ほど負った傷のことなど既に忘れていた。痛みは何処かに追いやった。力は入る。大丈夫だ。

 ただ目の前の状況に対し、自分に何ができるのか。常に頭をフル回転させてそれを考える。


 相手を観察する。

 先ほどの切り傷。瘴気が漏れ出て反撃を受けたが、その傷は塞がっていない。事前にトールが聖属性の加護をアミミの刀に付与してくれていた。

 自分の攻撃は相手にダメージが与えられる。それがわかっただけでも暁光。


 そしてトールから聞かされたアンデッドの弱点。

 それは頭部の破壊。


 アミミはじっくりと、頭部を破壊するまでの筋道を、今の自分が出来る手管で考える。


 先に動いたのはアンデッドロードだった。

 掌をアミミに向けると炎の塊を投げつける。


「アンデッドが炎を⁉︎」


 遠くから見ていたアルティスが驚きの声を上げる。


 アンデッドは炎が弱点なんて言う者もいるが、正確にはそれは間違いだ。アンデッドは痛みを感じない。多少燃えたところでダメージがあるわけではない。

 勿論長時間炎の影響を受ければ身体が炭化して動けなくなるかも知れないが、それは弱点とは呼べないだろう。

 正確に言うならば、炎が弱点なわけではなく他の属性に比べ有効だと言えるだけだ。本当の意味ではアンデッドの弱点は聖属性しかない。


 だからアンデッドが炎の魔術を行使したところで何ら不思議はないのだ。


 炎は一直線にアミミへと向かう。一歩遅れて不気味な顔たちも大量に殺到する。


「斬波」


 アミミはまず炎の塊に切りつける。

 闘気を水の性質に変化させたのだろう。炎は一瞬で霧散した。

 だがすぐ後ろから大量の顔。

 アミミは後ろへ跳躍し距離を取ろうとするが、顔たちもその速度に追いすがる。

 するとアンデッドロードは先ほど炎を投げたのとは反対の腕をアミミに向けた。


「あ、ぎ」

 

 掌から生み出されたのは先の尖った鋭利な岩塊。魔法で言えばストーンジャベリン。

 それがアミミへ向けて一直線に打ち出された。


 今アミミには石の槍は見えていない。何故ならアンデッドロードが生み出した顔たちに隠れているからだ。石槍はアンデッドロードが自ら繰り出す顔どもを刺し貫き、アミミにとって死角となる前方から猛烈な速度を持って肉薄する。


「見えてるでござるよ!」


 アミミは危なげなくそれを避ける。


 アンデッドロードはその結果が気に食わなかったのか、今度はアミミの背後から顔どもを襲い掛からせた。

 だがすぐ様アミミは前方に跳躍し石槍が開けた隙間を切り開いて押し通る。前方の顔達が弾け散った。


 またもや自分の思い通りにならない結果に、アンデッドロードは歯軋りした。


 何故不意打ちを放っているのに自分の攻撃が当たらないのか。まるで背中にも目があるようだ。

 だがいくら考えたところで答えは出ない。それ以前に、目の前に迫るアミミに対して、そんな余裕はなかった。


「あがぁぁあ゛ぁ!」

「!」


 アンデッドロードは目の前の広い範囲に毒煙を撒き散らす。その速度は早く、アミミはなす術なく毒煙に包まれた。

 間髪入れずアンデッドロードは前方に顔たちをまるで津波のように繰り出した。


 同時に出せる顔たちは同じ規模で2つ。目の前のひとつと、そしてもうひとつは。

 アンデッドロードはアミミの背後の攻撃をかき消すと、真横から再びそれを発生させた。直ぐにもう一方の側面に回り込むと、別の魔法を準備する。


 アミミにとっては前と横から顔の津波が襲いかかってきていることになる。さらに先ほどの毒煙で中にいるアミミには状況が見えないようにした。かつ先に後ろから波が襲ってきている事を見せている。

 つまり前に進めば津波の餌食、側面に移動すればもうひとつの津波かアンデッドロードの魔法の直撃。実質逃げ道は後ろのみ。

 だがこの毒煙の中で、後ろから襲いくる津波が消えたことには気づけようはずもない。仮に後ろに逃げたとしても、毒煙を僅かでも吸っていれば追撃は難しくない。即ち、これで、チェックメイト。


 そしてアミミが選択したのはーー


 アンデッドロードの前方の煙をかき分けて、何者かが姿を表す。それは息を止め、目も閉じた状態のアミミであった。


 素早く毒だと判断したのだろう。息を止めたのは素晴らしいと、アンデッドロードは内心思っていた。だがそれだけでは甘い。

 毒煙は吸い込むことでも効果を発揮するが、目からも影響を及ぼす。恐らく毒煙を受けて視覚を失ったのだろう。

 時間があれば回復もできるだろうが、この戦いの中、短時間での回復は不可能。

 アンデッドロードは勝利を確信し、再び速度のある石槍を放った。


 次の瞬間、アンデッドロードは信じられない光景を目にする。

 目が見えないはずのアミミが、石槍の軌道を刀の腹で受け止め逸らしたのだ。直ぐに追撃の魔術を放とうとするが、その隙は致命的だった。眼前に迫ったアミミの刀は、アンデッドロードの首を既に通過した後だった。


 宙に舞い上げられたアンデッドロードの頭部はくるくると視界を回転させる。

 その頭の中は、冒険者を殺すことで染め上げられていた。意味も、理由もなにもない。ただ冒険者を殺すことが全て。その妄執が全てだった。

 だが意識が消える最後のその一瞬だけは、かつて一緒に過ごした家族と幼なじみの姿が目蓋の裏に浮かんでいた。


 そしてアミミの刀が、アンデッドロードの頭部を両断した。





 アミミは刀を鞘にしまう。

 既にアンデッドロードの頭部は光の塵となって消え失せた。その体もいつの間にか消えている。

 そうして徐々に、自分があの強敵に勝てたのだと言う実感が湧いてきた。それと同時に、最後にアンデッドロードが見せた表情に、どこか寂寥感のようなものを感じた。


 改めて思う。きっと自分ひとりの力では勝てなかった。

 トールの支援がなければ効果的なダメージは与えられなかっただろうし、ノノが先に閃光の牙達アンデッドを倒していなければ一対一で立ち向かうことはできなかった。


 そしてもう1匹。


 まだ開かない瞼のまま、チラリと頭上に視線を向けた。

 そこにはワシが、部屋の中を大きく旋回しながら飛んでいた。

 アミミはもう1匹の功労者に向けて、小さく微笑んだ。

小生の拙著を読んで頂き感謝感謝でございます♪

徐々に読んでいただける方が増えるというのは、モチベーションが上がりますね。評価して頂いた方もおり、とても有難いことです。

まだまだこの作品を読んで頂けてる方は少ないですが、引き続きモチベーションを維持しながら書き続けていきたいと思います!


当面の目標は1日のアクセス目指せ100です!その次は500かなぁ(*´ー`*)

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