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11. 山間の村、ボロン

 ノノが腐臭を感じ取り、アミミがアンデッドの群れを発見。

 俺たちは駆け足で村へと向かった。


 村までだいぶ近づいていた様で、数分もせずにたどり着く。

 腰あたりまでの柵に囲われた小さな村だ。門などもなく、入り口だけ柵が取り外された形になっている。


 家は十数戸くらいありそうだが、今は家家の間に大量のアンデッドが徘徊していた。分類からすると元の世界でも馴染みあるゾンビの様だ。


 アンデッドにも種類が色々あるが、その中でもゾンビは最下級。その上がスケルトンやグール、さらに上には魔獣がアンデッド化した存在やスケルトンウォリアーなどがいる。


 今目の前にいるゾンビはあまり戦闘行動をとらず、ただ食欲のみでノロノロ徘徊する存在だ。脅威度は低いが今回の様に数が集まると厄介な存在だ。

 一応攻撃を受けてると感染して自分もゾンビに、なんて事はない。ただ病原菌を持っていたりするので攻撃を受けたら要消毒である。

 ただし命を奪われてしまった場合は『いらっしゃい』という事になってしまうが。


 見た所多くが何も衣服を身につけていないが、中にはまだ真新しい衣服に身を包んだゾンビも見られた。恐らくこの村の住人だった者たちだろう。

 間に合わなかった事にチクリとした痛みを感じる。


「アミミ。中央まで案内頼む。俺とノノで前後をカバーだ」

「承知したでござる」

「分かったー」


 俺は先頭を切って村の中に足を踏み入れると、アミミの言葉に従い進んで行く。


「ここから真っ直ぐ進んで右でござる」


 目前にゾンビが迫ってくると、ゾンビはこちらに気づいたのか体を向けてヨタヨタと襲いかかってくる。

 目は白く濁り体は部分部分腐り落ちている。もはや男女の区別もつかないほどだ。相当年季が入っている様だ。


 俺は迷う事なく剣を引き抜きゾンビの頭を両断。すぐに風魔法を真横からぶつける。

 ゾンビの体は様々な液体をまき散らしながら、他のゾンビを巻き込んで吹き飛んで行った。


「うげーでござる」

「あはぁ♡」

「…………」


 アミミはその気持ち悪さに顔を顰め、一方のノノは恍惚の表情を浮かべている。

 2人の二者二様の反応を見ながら、俺もアミミの様に顔を顰める。主にノノの反応に対してだが。


 基本は俺が先頭でゾンビを処理しているが、時折真横からも襲いかかってくる個体がいた。そんな時はアミミが刀を奮って居合一閃。

 頭部が分かたれ直ぐにゾンビは動きを止める。


「うげげ。トール殿ぉ。変な汁が拙者の刀にぃー」

「我慢しろ。後で聖水できれいに洗い流してやるから」

「絶対でござるよ!」


 アミミにとってあまり人の形をした魔獣と戦う事に抵抗があるかと心配していたが、意外にも大丈夫そうだ。


 ちなみにゾンビなどのアンデッドは知能がなく既に人ではなくなっているため、魔獣と分類される。これがもし知能を有したままアンデッドと化した場合は、魔物と呼ばれるわけだ。

 知能の有無で魔獣、魔物と呼び分けられているわけである。


 まあ人が勝手に分類した呼び方なので、ドラゴンの様な高等な知能を持つ者たちからすると、意味がわからないそうだが。


 俺たちはゾンビを処理しながら町の中央、教会のある場所までたどり着いた。

 入り口付近で群がっているゾンビ共をまとめて水の弾丸で吹き飛ばす。風の弾丸だと色々飛び散ってしまうので、仕方なく水で押し流す様にした。

 こうすれば色々と洗い流せるから一石二鳥だ。


 入り口にゾンビがいなくなったのを確認してから、俺たちは教会の扉を開けて中に入った。追撃を警戒し急いで扉を閉める。


 ひとまず結界を張ってゾンビ共が近づけない様にしてから、俺は教会内を見回した。


 十数人の村人達が一塊になって震えている。見ると女子供、それに老人が多い。何人かは怪我をしている様で、頭や腕に包帯を巻いていた。

 よほど混乱しているのだろう。俺たちを見てもまだ状況が飲み込めていない様だった。


 いつの間にかアミミの肩に戻っていたワシがカァと鳴き声を上げると、若干だが村人達の緊張が解けたように見えた。

 ナイスと思ってワシを見ると、何となくドヤ顔してたので無視する。


 俺が村人の方へ近づいていくと後ろからカァカァと抗議の声が上がったが、やはり無視して一番近くにいた老女に話しかけた。


「俺たちは村からの依頼を受けて来た冒険者だ。状況を説明してもらえるか?」


 その言葉を暫くかみしめた後、老女は安堵のため息を吐いた。途端に膝からその場に崩れ落ちる。俺は慌てて老女に駆け寄り助け起こした。

 アミミとノノも近づいてきて、老女の手をとって椅子に座らせた。


「アミミとノノはこれを村人達に渡してくれ」


 そう言って俺は収納から温かいスープの入った鍋といくつかポーションを取り出して2人に渡す。

 受け取った2人はそれを持って固まっている他の村人の方へと向かって行った。


「さぁ。これでも飲んで気を落ち着けてくれ。大丈夫。今は結界を張ってるから、この中にヤツらは入り込めなくなっている」


 俺は老女に温かい蜂蜜入りの紅茶を差し出すと、対面に椅子を据えて腰掛けた。

 老女は受け取った紅茶を口に含むと、ほぅと息を吐く。

 数口紅茶を飲んだ後、徐に口を開いた。


「ありがとうございます。ようやくひと心地つけました」

「それは良かった。で、何があったか詳しく聞かせてもらえるか? 確か依頼を受けたパーティーが先に来たはずだが」

「……ええ。冒険者さん達は確かにこられました。その冒険者さん達も外の屍体と戦ってくれたのですが」


 そこまで話して老女は顔を伏せた。

 そこから先はあまり話したくないのだろう。だがこの問題を解決するために話を聞かなければならない。

 俺は口を噤んだ老女にさらに質問を重ねた。


「先に来たのはBランクのパーティーだ。外のヤツらの様なただのゾンビに遅れをとる様な冒険者じゃない。何があったか詳しく話してくれ」


 ピルケスのBランクパーティーがどれほどの腕前かは知らないが、あのギルドマスターは不正や賄賂でランクを上げる様なことはしないだろう。

 恐らくしっかりと実力があった冒険者のはずだ。

 だからこそ王都にまで救援を要請したのだろうから。


 暫くすると老女は、少し口を噤んだ後、静かに語り出した。


「確かに冒険者さんはヤツらと戦ってくれました。その時はまだそれほど数も多くなく、村のもの達も歓迎していたのです。少しして彼らはヤツらの元凶が分かったと言いました。そしてそこに向かった様なのです。ですが、それから暫くしても彼らが戻ってくることはありませんでした。それどころか急にヤツらの数が増え出してきて。村のものの中にはあの冒険者達が引き起こしたんじゃないかと疑うものまでいて。

 何とか村人が力を合わせてヤツらに対応していたのですが、非力な我々ではどうにもできず、徐々に村の男衆も数を減らし、もうダメだと協会に立てこもっているときにあなた方がいらしたのです」


 なるほど。先に来た冒険者たちは何か原因を掴んでそれを解決しようとした様だ。だが残念ながら、彼らの力が及ばず解決には至らなかった。そして恐らく、彼らは既に命を落としているのだろう。


 同じ冒険者だからこそわかる。彼らは最後まで冒険者としてこの村を救おうとした。だがそれが叶う前に力及ばず、身を散らしてしまったのだ。

 今聞いた話からでもきっと彼らが強い正義感を持っていたことが容易に想像できる。

 そんな冒険者が村を見捨てて逃げ出すわけがないことも。


 俺はぐっと言葉を飲み込みながら、だが目の前の老女に声だけは伝えたかった。


「彼らはきっと、最後まで冒険者であろうとしたんだと思います。結果は残念だったかもしれないが、彼らがやろうとしたことを否定はしないであげてください。彼らはこの村を救うために戦った。あなた達だけは、彼らの姿を信じてあげてください」


 俺はそこまで話して席を立った。背後からは老女の嗚咽が聞こえてくる。

 俺は彼らへのせめてもの手向けとして、この村を救おうと自分に誓いを立てた。





 他の村人も食事を取ったことでずいぶん落ち着いた様だ。温かい食事をとれたことで安心感が生まれたのであろう。

 俺は皆を集めて改めて今後の話をする。


「皆さん。今は結界を張っているので、暫くはここにいても問題はないと思います。ですがここもいつまで保つかわからない。できるだけ早めにここを出て、ピルケスの町に移動してください。あなた達が村から離れたら後は俺たちが何とかします。最初に断っておきますが、最悪この村を燃やすかもしれません。再び直ぐにはここに戻ってくることは叶わないと考えておいてください」


 俺の言葉に村人達はどよめいた。

 それもそうだろう。俺は今村人達に自分の村を捨てろと言ったのだ。もちろん時間が経てばまた戻ってこれるだろうが、それがいつになるかはわからない。

 実際ゾンビの原因を何とかすれば直ぐ戻れるが、今はそんな希望的な話はしないでおく。変に期待を持たせて叶わなければ、その分反発も大きくなるからだ。

 だから今は可能性がある程度に留めておいた。


「そんな話に従えるか。ここは俺たちの生まれ育った村だ。それならいっそ俺たちはこの村で死んでやる!」


 誰か1人がそんなことを口にした。

 その一言に連鎖する様に、同意する者が次々に現れる。直ぐに教会内は俺たちへの帰れコールで満たされてしまう。


 きっとこれは先の冒険者パーティーの影響によるところも大きいのだろう。その悪感情が今の結果に対する非難を示しているのだ。

 それは直接俺たちに関わるわけじゃないにしても、彼らからすれば同じ冒険者。

 この事態を引き起こした者達が自分たちから息子や娘、友人を奪っておきながら、さらには拠り所である村まで奪おうというのだ。反発を招くのは当然だ。


 村人達の意外な反発に、アミミは狼狽えていた。ノノはイライラが募っている様だ。


「トールん。もうこの人たち皆アンデッドに喰われた後だったって報告しちゃうー?」


 底冷えするような低い声でノノが言葉を放つ。その言葉を聞いて村人達は一瞬で凍りついた。

 俺はその一言に頭を抱えながら、次の言葉を慎重に選ぶ。

 が、その前に言葉を発したのは意外な人物だった。


「みんな聞いて!」


 それは初めに話した老女であった。


 老女の一言は周囲の意見を黙らせるのに十分な威力を持っていた。恐らくこの村の顔役なのあろう。

 老女は先ほど俺と交わした話を、滔々と語り始めた。


「彼らは私たちを救おうとしてくれている。いえ、先に来た冒険者さん達も、こんな私たちの話をちゃんと聞いてくれた。あの人達を拒絶していたのは私たちの方よ。あの人達の必死な姿をよそ者だと影で嘲笑って、自分たちが頼んでおきながら心の中ではその行為を否定していた。どれだけこの村を救おうと尽力していたかも知らず、私たちは踏ん反り返っていた。今こそあの人達の心に贖う時じゃないかしら。私たちを救おうとしてくれている冒険者さん達の手を取って、動く時じゃないかしら。私たちがどうすべきなのか、皆もう分かっているはずでしょ?」


 老女の言葉に水を打った様にしんと静まり返る。


 村人達は何も反論しない。きっと最初から答えはわかっていたんだろう。だが保守的な感情が邪魔をしてよそ者からの言葉を受け入れられなかった。

 だが身内から上がった言葉によってつまされる所があったのだろう。村人達はそれ以上何も言わなかった。


 やがて村人達の代表が立ち上がる。


「私たちは何をすれば良い?」



 そこからはとんとん拍子に話がまとまった。

 簡単に言ってしまえば俺たちが護衛をしながら村人達を外に逃す。

 村の外にはどうやらゾンビ共は広がっていなかったので、門さえ抜けてしまえば問題ない。その後は村を焼き払ってでもゾンビ共を殲滅すれば良いのだ。

 と言ってはいるが、実は焼き払わなくても何とかできるが一応危機感を煽るために言わないでおく。


 そうして準備が整った後、俺たちは教会を出発することにした。


「じゃあ、一気に突破します。俺がまず先頭を走ってヤツらを蹴散らしますから、続けてアミミに従って付いてきてください。殿はノノが務めます。安心してください。ノノはあれでもSランク冒険者ですから」


 俺の一言に村人達がSランクと口々に呟く。中にはノノのことを知っているものもいるのだろう。明らかに熱い視線を送っているものもいる。

 しかしそんなのは後だ。

 まずは全員揃ってこの村からの脱出である。


「では、行きます」


 俺は勢いよく扉を開けると少し離れたところで大量に溜まっていたゾンビ共を風魔法で吹き飛ばす。今は突破するだけなのでお構いなしだ。

 風の砲弾が通過すると四肢を千切れ飛ばしながら、ボウリングのピンの様に左右へと吹き飛んでいく。


 俺が合図を出して村人達を先導する。


 思ったほどにゾンビ共は教会周辺に固まっており、初めに吹き飛ばした後はそれほど多くのゾンビは見られなかった。


 時折真新しい服に身を包んだゾンビを見て嗚咽を漏らす村人もいたが、今は気持ちを慮っている暇はない。

 俺は遠慮なくかつて彼らの知り合いだったものを吹き飛ばしていく。


 背後から近くゾンビ共はノノの餌食だ。

 ノノであれば死者の成れの果て共を使役することは簡単だが、彼女なりの美学がある様で、この場にいるゾンビは使役しようとはしなかった。代わりに土の魔法で地面から岩の槍を幾本も生やし、ゾンビたちを刺し貫いていく。

 頭に攻撃を受けたゾンビは直ぐに動かなくなるが、体だとまだ活動をやめようとしない。

 手足をバタつかせて必死に動こうとしていた。

 だが体から石の槍を生やした状態で宙ぶらりんに浮いた状態では、前にも後ろにも進めないでいた。


 時折横から飛びかかってくるゾンビはアミミが一刀の元に切り伏せる。変な液体がつかない様に気合を入れて居合を放っていた。

 ワシは今俺たちについて上空を飛んでいるので、アミミの視界はほぼ全方位をカバーしている。だからこそ隠れて横から来たゾンビ共も撃ち漏らしはない。

 前後左右、死角のない完璧な防御陣だ。


 今回は村人を逃すという目的もあったため、各々気合を入れたことで教会へ辿り着く時よりも早く村の入り口へ到着した。

 そして村の外にはゾンビがいないことを確認した後、村人達をピルケスの街へと向かわせる。


「本当にありがとう」

「ピルケスに戻ってきたら一杯奢らせてくれ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとー」

「ノノ様ー! 抱いてー!」

「俺はあんちゃんが好みだぜ!」


 村人達から感謝の声が発せられる。最後に変な声が聞こえたが気のせいか。


「あなた達には本当に感謝しかないわ。それと、あの冒険者達、『閃光の牙』だったかしら。彼らのおかげで私たちはまだ生きていられるんだと思うわ。だからお願い。あなた達は、ちゃんと戻ってきてもう一度お礼を言わせて頂戴」


 そう言って老女は俺とアミミ、ノノの手を優しく握った。


「分かった。必ずまた挨拶に行くよ。後『閃光の牙』、その名前を覚えていてやってくれ。この町、いや、王国を救うきっかけになった冒険者パーティーの名だ。それからギルドマスターに彼らのことを伝えてやってくれ。きっと喜ぶはずだ」

「ええ、必ず」


 そうして老女は他の村人とともにピルケスの町へと向かっていった。俺たちはその後ろ姿を見送り、やがて村の方へと向き直る。


「さて。後は害虫駆除とその原因を止めるだけだ。行くぞ。2人とも」

「承知でござる」

「いいわよー」

 

 俺たちは再び村の中へと飛び込んだ。

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