悪者
今回の殺人の重要参考人として同行を要請された私は、警備隊本部で頭を抱えていた。
聴取を受けて知ったのだが、なぜか私とタマミが親友で、嫉妬に駆られたシャルが私をあの塔に幽閉して タマミを殺したということになっていた。ちょっとよくわからない。違うと言っても真面目に取り合ってもらえない。
トーマお兄様は私の言い分なんて丸ごと無視で、お父様は来ない。そんな中口々に可哀想に、つらかったね、なんて見当違いな慰めを受けた私はかなり怒っていた。
しかし黙ると相手方の都合の良いように捜査が進む。私は正常心を保とうとハンカチを握りしめて、今日を耐え抜いた。
そして立場が立場なだけに学園へは帰れず、遠方の自宅へも時間の問題で帰れない状況下、公爵家をもてなすだけの設備のない本部。泊まるあてはほぼ一択。
王城である。
「ほら、ミュリーの好きな銘柄の紅茶だよ。この前美味しいって言っていたマフィンもあるし、こっちで食べよう?」
『……………………………』
「そのロココのネグリジェ、よく似合っているね。やっぱり持って帰ったらいいよ、その方が僕の親も喜ぶから。」
『……………………………』
「もしかして眠い?そうだよね疲れてるもんね。なら一緒に寝ようか、子守唄も歌ってあげるよ?」
第3王子自室のベッドに体を丸めて沈め、枕を抱えた私は動かない。返事もしない。
王族を無視だなんて、こんな無礼普通は許されない。しかし私は怒っているのだ。怒られないのも、あちらに非があるからに違いない。と、信じている。
しかしいくら無視してもダミアン様は私の周りをうろちょろして話しかけるのをやめない。引くに引けない中、しかしもうそろそろ申し訳なく思い始めてきた頃、ダミアン様は背中側のベッドの端に腰掛けて私の髪をさらさらと弄び始めた。
『……………ダミアン様も警備隊の言うことが本当だと仰るのですか?』
「言わないよ。そうだったらいいなとは…うん、思っていないし。ただ彼も、少し我慢が足りなかったなとは思うかな。何があろうと殺しは良くないよね。」
そう、殺したのはシャル。それはよくない。しかし事実の隠蔽や改竄もよくない。
いろいろありすぎてキャパオーバー気味だが、タマミが死んだことは理解した私は、改めてシャルを怖いと感じていた。
目は冴えているが体と頭は疲れ切っている。小さくため息を吐くと、ダミアン様の手が優しく私の頭を撫でた。
『タマミとはもっと話したいことがあったんです。きっと根はいい子でしたから。』
「…ミュリーはどうして自分に害なす相手にもそんなに優しくできるの?」
一瞬、ダミアン様の手が止まる。背中を向けているため顔は確認できないが、なぜだか悲しんでいるように感じた。
『優しくはしていませんわ。』
「…ならどうして入学したての頃、レイアと仲良くできたの?傷をつけられたのに。」
壊れものを扱うように優しい手つきを頭を感じながら考える。この世界では女が男に守られるのが普通なのは確かだ。彼なりに心配してくれているのだろう。
私は背を向けたまま答える。
『傲慢な考えですが、私のことを嫌っていないと思っていたからです。羨みや八つ当たりで私にアクションを起こしているような気がしていたので、まだ仲良くなる余地はあるかと……ダミアン様?』
にわかに手が止まったのを不思議に思い、後ろを振り返るとダミアン様は強ばった顔で私を見ていた。優美な指が私の耳に触れる。輪郭に指をそわせ眉を顰めて思案した後、ダミアン様は立ち上がった。
「……ルアシータ公爵殿と会う約束をしていたのを忘れていた。もしかしたら暫く戻らないかもしれないし、先に寝ていてもいいよ。」
にこやかかつ早口でそう告げると 私のこめかみにキスをして、返事は待たずに部屋を急ぎ足で出て行ってしまった。
無駄に広いベッドに1人取り残された私は目を瞑った。
タマミ殺したのは許されることではないが、まだ本人から理由を聞けていないせいか どうも気にかかる。本当にシャルが殺したのだろうか?
しつこく付きまとわれてうざったかった、なんて幼稚な理由では無いだろう。私に危害を与えかけたのが理由なら、即刻叩き斬るのが筋だろう。
私が自分の意思で塔にいたことは、シャルも知っているはずだ。いつでも逃げられる状況にあったのをシャルや警備隊が見ているのだから。
ならば何が彼を凶行に駆り立てたのか?
わからない、それがわからないのだ。
唸りながら寝返りをうつ。そして事実の隠蔽もおかしい。なにか大きな力が働いているとしか思えない。シャルを悪人に仕立て上げる力。
『王族か、それに匹敵する力を持つ貴族…?もしくは、警備隊に大きなコネクションを持つ…』
頭の中だけでは整理し難くなってきたため、メモ紙に書いてまとめようと起き上がる と同時に軽快なノックの音が部屋に響いた。




