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道理に悖る生

桜の木の下には、制服を着たタマミが立っていた。

ガリガリと落ち着きなく爪を噛み、私の姿を見るや否や苦しそうに顔を歪める。

私が目の前に立つと懐かしい言葉で やっぱり と呟いた。


『…タマミと言うのは、前世での名前?』

「そう。やっぱあんたも転生者なんだね。いつ記憶が戻ったの?」


恨めしそうに言われると居た堪れない。ぎゅっと拳を握って私は返した。


『8歳にかけて。記憶が戻ったと言うか、夢を見たの。眠っている間ずっと誰かの視点で人生を送ってきて、それをすべて鮮明に憶えていたから、それが前世の記憶だと思っていたの。』

「そうだよなぁ〜親愛度高いもん。選択肢分かってるしイージーモードこの上なしだっだでしょ?」


私は言葉に詰まった。何を言っているのかわからない。

それを見たタマミは顔を顰めた。


「…前世ゲームとかした?」

『いいえ、まったく。』


ガッデム!!!と叫んでタマミはその場に蹲った。

膝をついて石畳を殴るその姿は気が触れたとしか思えないが、そうではないらしい。

暫くそうしているのを眺めていると、タマミはふらりと立ち上がり汚れた手で私の肩を掴んだ。


「ここはね!乙女ゲームの世界なの!乙女ゲームはわかる!?」

『え、ええ…恋愛シュミレーションゲームよね?』


「そう!このゲームのヒロインは私(タマミ)、ミュリー、そしてロザリー!同時に3人のヒロインを操らなきゃいけないしイベント周回も大変な作業ゲーなの!」


へぇ、と気のない返事をすると、タマミは更に激昂して息を荒くして続けた。


「どろどろに愛されるのが特徴のゲームなのねこれ!あんた愛されてるでしょ!?無意識イベント成功怖い!」

『えっ、もしかしたら愛されてるかもしれないけど、私 気ままに生きてきただけよ?』


タマミは衝撃が隠せていない表情で、ガクガクと肩を揺さぶる。目を回しそうだ。舞い散る桜の花びらが幻想的なのは私の命が危ないせいでもあるだろう。


「当たり前じゃん!乙ゲーなんだから男チョロいに決まってんじゃん!それこそ天気のように移ろうものよ!」

『えっそれ本当!?』


私が肩を掴み返すと、タマミは揺する手を止めて頷いた。

光が燦々降り注ぐような気持ちになり、無駄にハイになってきた。


『じゃあ、タマミにだって可能性はあるじゃない!?』

「ん、まあないわけじゃないけど…」

『私にできることがあるなら全力で協力するわ、手段問わず!』


タマミの表情は怪訝の一言に尽きる。

私は別にこのゲームの世界の誰かを推してはいないし、なんなら面倒事は絶対回避したい。シャルの睡眠薬の件など1歩間違えば死ぬし、これから殺される可能性だってないわけではない。

私の熱意に押されたタマミは少し考えてから言う。


「ここまできてるし、あんたが死なないことには状況は覆らないけど…死体を用意することはできない、現実的なのは行方不明か…うん、ゲームのイベントに添いながら今実現可能な作戦を考えておくわ。楽しみにしといて。」


じゃ、と片手を上げてその場を離れる姿に、少し前までの狂気じみた何かは感じられない。少し安心した。

ほっと息を吐いて桜に寄りかかって星を見上げると、木の枝に腰掛けるお兄様と目が合った。明るい月が綺麗な金髪を輝かせて物語の始まりを告げるかのようだ。


『…はぇ?』

「あ、やば。」


はい?とえ?の混じった声をあげると、思いの外焦った様子のお兄様は木の幹に隠れるという謎の行動に出た。

どうするべきか迷っていると、隠れたお兄様が急に厳かな声を出した。


「我は木の幹だ。先程タマミ殿と話していたのは何語であるか。」

『…お兄様、もうそろそろ出発ですね。準備とやらは終わりましたの?』

「我の質問に答えよ。今話していたのはどこの国の言葉だ?」


設定をゴリゴリに押してくる。すごいくらい。

私は仕方なくのってあげることにした。


『私の前世がタマミ様と同郷で、その国の言葉ですの。木の幹さんはご存知ありませんか?』

「…知らんな。早く行け、小娘。ロザリー嬢が半狂乱で探しておるぞ。」


懐中時計で確認すると、確かに少々時間を食ってしまっていた。私はまた見上げて木の幹に笑顔を向けた。


『またあとでね、木の幹さん。』

「……またな。」


最後だけはいつものお兄様の調子で返され拍子抜けするも、私は女子寮へと急いだ。

その後、既に半狂乱ではなく、完全に狂乱していたロザリーに心配だったと泣きつかれたことと、馬車の座席で揉めたことは言うまでもない かもしれない。

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