異聞録 レイア
長期休暇も中盤、ミュリーは私の家に遊びに来ていた。
レウスは自分の部屋で課題を片付けていて、珍しくミュリーと2人だ。
頂いたベイクドチーズケーキでお茶をしながらわいわいと話していると、彼女が休暇初日に体験した話になった。
『…と言う訳なのよ。まぁ同じベッドで寝るって言ってもまだ10歳だしいいかなって思って。』
「よく、ない、わよ!それになんであんた私にそんなこと話すのよ!」
本当に無神経な子よね、私がダミアン様のことが好きだって覚えていてくれているのかしら!?
ミュリーは少しだけ申し訳なさそうに俯いた。
『レイアにしか話す相手がいないもの。お兄様にもシャルにも話せないし、ロザリーはなんだか心許無いし…。でもそうよね、私が悪かったわ。ごめんなさい。』
信頼されているようだが、ミュリーはよくもまあ自分を危険な目にあわせた私なんかと遊べるなとつくづく思う。この子はやっぱり変なひとだ。
私はすっかり毒気を抜かれた。
「はぁ〜…いいのよ。それで?そのあとはどうなったの?」
『特に何もなしに朝になって、朝食をご馳走になって帰ったわ。それで、あの、皇后陛下から着替えのドレスを頂いたの、これよ。見てもらいたくて着てきたの。どう思う?』
そう言ってあまりにも幼女趣味なフリフリフワフワ甘いドレスを指さした。プリンセスに憧れた昔の私もここまでのドレスは着たことがない。
ミュリーの趣味ではないはずだと疑問に思っていたが、そういうことだったのか。こんなドレスが似合うところが恐ろしい。
「どうって…いいんじゃないの?意外と似合うし、皇后陛下からの贈り物なんでしょう?胸を張りなさいよ。」
『えええ…似合うかしら…?』
疑いやら悲しいやら複雑な顔でミュリーはまじまじと自分のドレスを見る。どうやらこの子は笑い飛ばしてほしかったらしい。でも普通に普通に普通ーーーに似合っている。まるで人形のようだ。
「冗談と世辞抜きで本当に似合うわ。」
『………あのねレイア、実はお土産だって似たような服を山ほど持たされたのよ。普段着ていていいと思う?』
「ぶふっ、えっ、何着頂いたの?」
思わず吹き出した。
似たものをたくさんだなんて、陛下もなかなか趣味が良い。
これがミュリーの普段着になるのは面白い。
ミュリーは青い顔をしながらまた俯いて、小さな声で言った。
『…15着…』
「あっはははは!普段着決定じゃないの!」
お淑やかとは程遠い笑い声が口から溢れた。
焦った顔をしたお人形さんは泣きそうな声を出した。
『うううう、本当にもう、みんな笑うんだもの〜!ダミアン様もお兄様もシャルもナナもテオも料理長も!みんな!』
「うっふふふ、ごめんなさいね、ご愁傷さま、頑張ってね。」
『死んでいません!』
ひとしきり笑うと、私はふと今日聞きたかったことを思い出した。
私は近々結婚する予定だったのだが、それが延期にされたのだ。ルアシータ家の侍女、ナナによって。
大切なご学友が結婚により退学されるのはミュリー様が悲しむ云々と言って、華麗な手腕で話をまとめ、数年間の猶予ができた。
まだ結婚なんてしたくないと考えていたから嬉しい限りだったが、ナナの話を聞く限りだとミュリーはそれを知らないようだった。少し探りを入れたかったのだ。
「あんたの侍女にナナっているじゃない?その人に私のことよく話すの?」
『ええ、家に帰った時にはね。ナナは私のことをよく分かってくれていて、私が欲しいと思ったら何も言わなくても準備してくれるのよ。』
すごいでしょう、と無邪気に笑うその顔を見ていると、今回の件はナナの独断だったのだろうと容易に考えられた。
弟くんといい、報われないダミアン様といい、ナナといい、この子が当たり前に受けている愛は、なんだか歪んでいるような気がする。
ミュリー自身には歪んだ様子はなく、ひたすらに真っ直ぐなのが不思議でたまらない。
『ねぇレイア、私はレイアが大好きなの。』
「……知ってるわ。私もあんたが嫌いじゃないわよ。」
『そうなのね。嬉しい。』
屈託なく笑う顔はなんだか腹立たしい。
目障りすぎて、目が離せないのだ。




