お祝い
誰にでも楽しみにする日がある。
私にとってそれは誕生日。
滅多に笑わないお父様の笑顔が見れるのはこの日だけだし、なんなら見せてくれない年もあるが。
前世では客にプレゼントを強請る日として認識していたが、今世は違う。家族に祝ってもらう特別な日。生きていていいんだって教わる日。
そして今年はかなり特別な年だ。
学友が祝ってくれるのだから。
「ミュリー様、お誕生日おめでとうございます!あたしはケーキを焼いてきました。何が好きなのかわからなかったし、思いつく限り!」
ロザリーが誇らしげに胸を張る。
彼女の言う通り、談話室のテーブルの上にはたくさんの種類のケーキがあった。これはこの場にいる子供5名では確実に食べきれない。必ずやお持ち帰り案件となるだろう。嬉しい、嬉しいのだが、限度がある。
『すごい…量ね…。ありがとうロザリー、嬉しいわ。』
明日からダイエットをしよう。冷や汗が出る。
恐る恐る近づいてきたレイアが恥ずかしそうに、レウスはそれを見て楽しそうに、綺麗に包装された包みを私にくれた。
「おめでとうミュリー、私たちからは勉強道具よ。もうそろそろ一式買い換える時期でしょう?」
『ありがとうレイア、レウス。これは王都の人気店の包み紙ね。並びに行ってくれたの?』
私が指摘すると、レイアはぷいとそっぽを向いた。
耳まで赤くなっていてなんだか愛しさが溢れてきた。
「別に、ついでよ、ついで!私も気になっていたもの!」
「素直になりなよ、わざわざ外出許可もらって行って並んで散々迷って買っただろ?ボクの意見は全部却下のくせに何回も意見求めてしまいには知恵熱も出したし?」
更に赤くなるレイア。ツンデレ、ツンデレだ。かわいい。
レウスの足をぎゅっと踏み付けてからレイアは叫ぶような声量で言った。
「…別にあんたのためじゃないんだから!」
『ふふ、ありがとうレイア、ついでに買ってきてくれて。』
私が再びお礼を言うと、レイアはまたそっぽを向いた。
安心した顔をしているのは見間違いではないだろう。
微笑ましさに心の中で身悶えていると、ダミアン様がオルゴールほどの小箱を差し出してきた。
「ミュリー、僕からはこれ。開けてみて?」
『わぁ…何でしょう?』
わくわくしながら開けると、衝撃緩和用のクッションの中央に置かれているのは煌びやかな錠と鍵。
内容こそ予想していたどれとも違ったが、驚く程美しい。息を忘れるほどに。
彫刻が施され、青い宝石が品良く埋められた、銀色の錠と鍵は芸術品のようだ。
『………』
「………あ、気に入らなかった…かな?」
私のリアクションが薄すぎて ダミアン様が心配そうに言う。
ちがう、全くそんなことは無い。私は首を左右に振った。
『とても綺麗で言葉も出ませんでした。ダミアン様は私の好きなものがよく分かっているのですね。本当に綺麗、大切にします。』
それを聞くとダミアン様は心底ほっとしたようで息を吐いた。
そして見たこともないくらいに穏やかな笑顔を見せた。
「よかった。扉や日記帳に鍵をかけても、飾っても、いっそ箱から出さなくてもいいんだよ。ミュリーをイメージして作ったんだ、受け取ってもらえるだけで幸せだからね。」
ダミアン様がトンテンカンテンして作った錠…大切にするしかあるまい。いやもう絶対に大切にする。
ケーキも美味しく頂こう。ロザリーのケーキはとても美味しい。レイアレウスからもらった文房具も大切にしよう。初めての学友に貰った初めてのプレゼントだから。
「よぉ〜し、それじゃあもうそろそろケーキ食べましょう!グレープジュースも持ってきてますよ!」
いつの間にか包丁片手にケーキを等分していたロザリーが私たちに声をかけた。ジュースはスタンバイオーケー、もう取り皿に分ければいつでもパーティが始められる。
私たちはロザリーに言われるがまま椅子に座ってグラスを持った。
『「「「「かんぱーい!!」」」」』
そうだ、こういう幸せが欲しかったのだ。
まあ貴族界隈上派手な誕生日会にはなっているが、小さな、些細な幸せ。友達に誕生日をお祝いしてもらえるという、少しの幸せだ。
どうして前世ではダメだったのだろう、必死にやったのに。
親からはいないものとされ、友達はいない、彼氏は宿、おじさんは客。環境のせいか、人のせいか、はたまた…
「ミュリー様、ガトーショコラもありますよ!」
ロザリーがお皿を勧めてくれた。それを受け取ると彼女は満面の笑み。
『……幸せだなぁ。』
みんなを見まわし、ぽつり呟くと、ロザリーが私の頭を撫でた。
「みんなそうですよ。ミュリー様と一緒にいれて幸せです!」
にぱっと明るく笑う彼女は、次の瞬間 私の口に大きな大きなガトーショコラを押し込んだ。
しっとり系を口いっぱいには辛い。私がむせるとその場は騒然。
ロザリーは大慌て、レイアレウスはため息、ダミアンは介抱。
こんなわちゃわちゃした青春がずっと続けばいいと思う。
前世分も幸せになりたいものだ。




