はじめまして
なんということでしょう!
私は貼り紙を前に、某劇的前後のナレーションのように口に出してしまった。
私のクラスであるA組にダミアンとロザリーがいる!
ぼっち回避成功だ、輝かしい学園生活が待っていると言っても過言ではないはずだ。
式典の後、軽い自己紹介をすることになった教室でも私はルンルンだった。誰から紹介してもらおうかなという担任のモス先生の言葉にさえ私は1番に手を挙げた。
『ミュリー・ルアシータです。気軽に呼び捨てにしてくださいね!同級生ですから、身分は関係なく仲良くしていきたいなと思っています。よろしくお願いします。』
ぱらぱらと拍手が静まった後、私の横の席から自己紹介が始まることになり、それも20名という少人数だったためすぐに終わった。
私が爵位を言わなかったのも、カーストを牽制したのもわざとだ。みんなそれに倣ってくれたからよかった。ロザリーもほっとした様子だった。
全然気にしていなかったが、レイアとレウスも同じクラスだった。ダミアンはレイア嬢のお熱な視線を平然と受け止め、レウスはそんな姉を見てこめかみを抑えていた。
そして放課後。待ってましたとばかりにレイアは立ち上がり、まだ荷物をまとめているダミアンをお茶に誘っていた。
「ダミアン様、学園の近くに美味しいお紅茶を出してくれるお店があるんです。一緒にどうですか?」
「ごめんね、僕は遠慮しておくよ。」
「お紅茶の気分ではありませんでしたか?それなら食堂の日替わりサンドイッチはどうでしょうか?1ヶ月通っても同じものは出ないし絶品だと噂ですよ!」
「ごめんね、僕は遠慮しておくよ。」
「お腹が空いていないなら、お買い物に行きませんか?文房具屋に行ってペンやノートを見ましょうよ!」
「ごめんね、僕は遠慮しておくよ。」
すごい、圧がすごい。めげない、しょげない。
メンヘラだと思っていたがどうやら違うようだ。彼女は強い。身分は気にしないと私は言ったが、ダミアンは言っていないのに。
あまりの光景に、ロザリーとお茶でもしようと考えていたのも忘れて思わず眺めてしまっていた。いけないいけない。
「あらダミアン様、素敵な髪留めですね!ダミアン様の目と同じ赤い飾り…、」
えっと、この紙は明日までに記入するもので、この紙は机に入れておこうかな…
と、大量に配られた紙を整理していると、突然広い教室にぱんっと乾いた音が響いた。
誰もがその音のした方向を見て、私も顔を上げて見た。
「…あぁ、すまない、急に触れようとするものだから驚いてしまって。最近は刺客が多くて敏感になりすぎているんだ。」
見る限り音の原因は恐らくダミアンがレイアの手をはたいたこと。命の危険を感じているのに急に触れられようとしたら誰でもそうするだろう。レイア嬢は叩かれた手をもう片方の手でさすりながら視線を泳がせた。
「そ、うですか、ごめんなさい、私ったらダミアン様のお気持ちも察せずに失礼なことを…。」
「手は大丈夫?早く冷やした方が…、」
ダミアンはレイアに触れようともせず、見るからに聞くからに上辺だけの心配をする。まぁ誰の目に見てもこの場で不利なのはレイアだ。男爵家の令嬢が王家の子息に触れるなんて常識的ではない。
見兼ねたようにため息を吐いたレウスが2人に駆け寄ってレイアの腕を掴んだ。
「行こう。ダミアン様、また明日。」
「ご、ごきげんよう…」
レイアは何か言いたそうだったがレウスはグイグイと腕を引く。
ダミアンは嘘くさい笑みを貼り付けて手を振った。
「さようなら。」
微妙な空気が教室内に残る。誰もが話すのを憚られる空気だ。
ここは颯爽と退散して寮でロザリーを待ち伏せようと考え立ち上がったが、それは叶わなかった。
「ミュリー、今から少しだけ時間とれるかな?」
私の婚約者様からの呼び止めに、私は立ち止まる他ない。
『…ええ、もちろんですわ。』
油の足りない扉のようにぎぎ、と音がなりそうな首をダミアンの方へ向け、私は精一杯の笑顔を作った。




