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天使の所業  作者: ふたつきひみつ
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感興の無関心

 時刻は11時10分。森を抜け、県道を伝っていった遊と悪魔は、町の大通りに設置されているベンチに腰かけていた。

 平日だと言うのに、多くの人が行き交っている。大型のショッピングモールに、豊富な飲食店。栄えた色とりどりな景観は、ここの発展を物語っていた。

 ここは光華町(みつけちょう)。遊の住む磐城町(ばんじょうまち)の隣町である。

 これだけ栄えた町ならば、もちろん天使を連れた人間がいた。見たこともない生き物(悪魔)を連れている遊に気付く者がほとんどだが、皆一瞥(いちべつ)するだけで、すぐに歩き去っていく。

(ま、そうだよな…。)

 当たり前の反応だとしても、何処か寂しさを感じた。

 "都会の無関心"………昔はそんな風に言われていた時代もあったが、今はどこでもそんな感じだ。

 天召が行われるようになってからは、人対人の関係に少しずつ変化が生じてきた。

 天使を召喚した者は、死後天国へ行くことを保証される。それは裏返すと、天召を行ってない者も天国へ行くチャンスがあると言うことだ。さらに、とある番組で天使はこう言っていた。『天国でも、人によって生活には差が出ている』と。

 どちらも基準は分からない。天使は嘘をつかないが、濁すことは可能なのだ。その為、下手なことをして自らの評価を落としたくない。と、考える者が多く、"無関心"が世に蔓延(はびこ)る結果となった。

(天国に関心を持った者が、その権利を無心した結果がこれ(無関心)か……皮肉なものだよな。)

「おい、いつまで座っている気だ?」

 そんなことを考えていた遊に、悪魔が問いかけた。

 遊がこんな街中で座っていたのは理由があった。自分は人混みの中なら安全なのかを確認するためだ。

 通行人は、悪魔の姿に一度目をやるが、天使たちは見向きもしない。どうやら、悪魔の予想は当たっていたようだ。

 しかし、明らかに異質な生き物がいるのに、目もくれないと言うことは、悪魔の事は、天使達に知れ渡っている証明でもあった。

「ん~…そうだな。とりあえず飯でも食うか。」

「呑気な奴だ…。」

 悪魔は呆れ顔をしたが、異論はないようで、立ち上がり歩く遊に、フワフワと浮きながらついていった。


 駅前のファストフード店、『メイクドバーガー』通称"メック"。早い!安い!旨い!人が!沢山!と、遊たちにとっては、五拍子?揃ったおあつらえ向きの店だ。

「マクアは何が食べたい?」

「俺に食事は必要ない。」

「そうなのか?」

「食べれない訳ではないが、食べなくても生きていける。」

「じゃ、食べてけよ。折角だし。」

 そう言うと、遊は悪魔の返答など聞かず、注文を進めた。「いらん」と突っぱねようと考えたが、注文している遊の横顔が何故か嬉しそうで、それを言うのは(はばか)られた。


「ほら、人間界(こっち)の飯は旨いぞ!たんとお上がりよ!」

「い、いただきます…。」

 遊の無邪気な笑顔に気圧されながら、悪魔は恐る恐る、トレーの上に置かれたハンバーガーを掴み、口に運ぶ。

「…………(モグモグ)。」

 咀嚼。悪魔はしっかりと味わいながら口を動かす。遊はその様子を、ニコニコと眺めている。

 やがて、ゴクンと飲み込む音が聞こえたかと思うと、悪魔は思わず感想を漏らす。

「…………旨い。」

「だろ!?ほらほら~まだあるから、どんどん食べてくれ!」

 お世辞でも何でもない悪魔の感想に、遊は嬉しくなり、自分の分も悪魔に薦めていた。

 悪魔も遠慮せず片っ端から口に含んでいく。その光景はまるで、孫とその祖母の様だった。


「……すまん。食べ過ぎた。」

 悪魔が遊の分まで食べてしまったことに気付いたのは、お互いのトレーの上に、何もなくなってからだった。

 申し訳なさそうな悪魔とは裏腹に、遊は相変わらず笑顔だった。

「別に良いよ。あんだけ景気よく食べてもらえたら、こっちも気分が良い。それに、悪魔と食事するのって夢だったんだよな~。」

「……は?」

 遊の言葉に悪魔は呆けた声を出した。

「他にも、話をしたり……って、これは達成されてるか。一緒に遊んだり、イタズラしたり、冒険してみたり……まだまだやりたいことは沢山あるんだ!」

 子供のように目を輝かせる遊。悪魔は少しの間唖然としていたが、やがて嬉しそうに笑みを見せる。

「本当……変わった奴だ。」

「ははは、よく言われるよ。」

 それから、遊は再度自分の分を注文し、悪魔と雑談をしながら昼食を済ませた。


 最寄りの駅から電車、バス、徒歩を使い、遊の通う天隋士高校に到着した。

 時刻は13時20分。本来なら天召が終了したら即、学校へ戻る予定だったので、昼前には到着する予定だった。つまり、明らかに遅刻なのだ。

「はぁ~…。」

 遊は気だるそうにしながらも、上履きに履き替え、三階の教室へ向かう。と言っても、遊がそんな様子なのは、怒られるからではなかった。


「遅くなりました…。」

 恐る恐る教室の扉を開ける。当たり前だが、授業中だったようで、全生徒の視線が遊に集まる。

 が、それだけだった。

「志神。席につけ。」

「…………はい。」

 教師の掛ける言葉はそれだけ。お咎めは無い。遊は落胆する。考えていたことが的中したからだ。

 教師が怒らない人な訳ではない。遅刻だから怒られない訳でもない。しかし、遊はこれから学校をサボろうと、授業をフケようと怒られることはない。理由は簡単………天使を連れているから。

 天使が側にいる人間が、間違ったことをしているわけがない。と言う先入観……いや、洗脳にも近い考えが根付いているからだ。

 別に怒られたい訳ではない。ただ、結果的に悪いことをしているのに、怒られないと言うのは、見放された、見捨てられた気がしてならないのだ。

「…………はぁ。」

 教室の一番奥隅。窓際の自分の席についた遊は、気の沈んだまま授業を受ける。内容はあまり頭に入らなかった…。



「志神ぃ!」

 授業が終わり、その休み時間。一人の女子生徒が荒々しく声をかけてきた。遊は特に返事をするでもなく、その女子生徒に顔を向ける。

 身長は百六十二センチ。首もとまでの赤い短髪。活発さを表現してるのか、はたまたずぼらなだけなのか、所々寝癖のように髪がはねていた。目はややつり目。目鼻立ちがしっかりと整っているが、時たま見せる犬歯が、大人っぽさよりも、無邪気さを際立たせていた。

 女子生徒の名は紫野月(しのつき) 結夢(ゆめ)。一年から遊とはクラスメイトであり、遊に次ぐ成績二位だ。

 結夢は遊が返事をしないことなど意に介さず、興奮気味に悪魔の方をチラチラと見ていた。

(あ~…。)

 遊は何となく来るであろう質問を予想した。しかし、それに答えるのは難しい。なぜなら─

「お前の天使って何て名前なんだ!?」

 と、言うことだからである。

『あぁ、こいつの名前?悪魔だよ悪魔。』………なんて言える訳がない。もちろん天使が設定した名前も知る機会もなかった。

 吃音(きつおん)の様に言葉を出せないでいる遊の反応に、結夢は腕を組んで首をかしげた。

「どうしたんだよ志神ぃ。」

「え、あ、その……う~ん…。」

「彼の事はハルマートと呼んでください。地獄にて、罪人に重い罰を与える役割を持っている者です。」

「………!?」

 遊が返答に困っていると、思いがけない方向から声がした。この場合、思いがけない方向とは物理的にである。

 声がしたのは窓の外。ここは三階。そんな所から声がしたら、驚くのも無理はなかった。

 窓の外にはベランダなど無いし、捕まっていられるような部分もない。ましてや、声は幼い女の子の声だった。

(まさか…。)

 遊が窓の外に目をやると、案の定そこには、翼を広げている天使がいた。

 長く細いブロンドの髪。柔らかな慈愛に満ちた青い瞳。華奢な手足に、白魚のような指。そこだけを見れば、美しいという言葉がピッタリな天使であった。

「申し遅れました。我が名はハニエル。美と愛を司る─」

 柔らかな笑顔で自己紹介を始めるハニエル。

 その物腰や、声の抑揚。そこも確かに美しい。では、何が問題か?答えは声と同様…………………幼い女の子だったのだ。

「………ちっちゃい(ボソッ)。」

「んなっ!?今私のことをちっちゃいって言いましたね!訂正しなさい!すぐ!ほら!」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声量だったにも関わらず、ハニエルは驚くほどの聴力で反応した。

 教室に入り地面に降り立つと、遊の胸ぐらを掴んで持ち上げる………はずだったが、背伸びをしても襟が少し上がる程度だった。足はプルプルと震えており、膨れっ面のハニエルに、遊と結夢は思わず顔を背けた。

((か、可愛い…!))

 遊は膝を曲げ、顔をハニエルの目線に合わせる。急にしゃがんだ為、ハニエルは少しバランスを崩し、襟を掴みながら前のめりになっていた。

「えっと、ハニエルちゃん?君は誰の天使なのかな?」

「何ですかその子供に語り掛けるような話し方は!貴方みたいな不愉快な人には教えません!」

 ふんっ!と、そっぽを向いてしまったハニエル。つい子供と同じ扱いをしてしまった遊は、少し苦い顔をして、どうしようか考えていると、後ろにいた結夢に肩を叩かれた。

「なんだよ?」

 結夢は質問に答えなかったが、親指を自分に向け、得意気な顔をしている。言葉はなくとも、何が言いたいのか理解するには十分であった。

「どんな組み合わせだよ…。」

「可愛いもの好きな私に、世界一可愛いハル。ほら、ピッタリだろ?」

 ね~?と言ってハニエルを抱き抱える結夢。ハニエルはその扱いが不満なのか、結夢の背中をポコポコと叩いていた。その姿も可愛らしく、遊は先程の教師の反応など忘れて、ほっこりとした気持ちで次の授業に入ることとなった。



 放課後。帰り支度をしていると、結夢が遊の席へ向かってきた。手には鞄が握られており、支度はもう終わっているようだ。

「志神ぃ。今日は一緒に帰ろうぜ。」

 遊は少し驚いた顔をする。しかし、返事はしない。隣では、ハニエルが結夢の言葉遣いに、やれやれと額に手を当てていた。

「結夢………貴女はもう少し、おしとやかな言葉遣いをですね…。」

「いいじゃん、いいじゃん。ハルもワイルドな私の方が、ドキドキするだろ~?」

 ハニエルを抱き寄せ頬を擦り付ける結夢。ハニエルはあからさまに嫌悪感を出し両手で押し返すが、結夢も負けじと押し付ける。

 そんなやりとりが繰り広げられている間に、遊は支度を終わらせ、無言で教室を出ていった。



 帰宅途中。街を抜け、住宅街に差し掛かったところで、悪魔が(おもむろ)に切り出した。

「貴様、クラスメイトに対してやけに素っ気ないではないか。」

「……そんなこと無い。」

「あの女と何かあったのか?」

「いや、何もないよ。」

「お~い、志神ぃ!志神ぃ!志神って!」

 急に遊を呼ぶ声がした。声の主はわかっている。答えず無視しようとも考えたが、聞こえてくる距離的に、かなり離れた場所から大声で呼ばれている。それに何度も連呼されるため、遊はため息を一つ吐き、嫌々ながら振り返った。

「おぉ、やっと聞こえたか!まったく、難聴かお前は!あっはははは!」

「勘弁してくれ…。」

 結夢は、走って向かいながらも大声で喋っている。通行人はいなかったが、ここは住宅街。見えなくとも、誰かに聞かれているかと思うと、あまりの恥ずかしさに遊は顔を伏せた。

 ついでに、後ろからついてきているハニエルも、遊と同じ反応をしていた。

「は~やっと追い付いた!何でなにも言わず行っちまうんだよ。一緒に帰るって約束したろ?」

 答えた覚えはない。どうやら結夢にとって、無視=承諾のようだった。

「……紫野月の家は何処なんだ?」

 徐に切り出した遊。結夢は首をかしげながらも、自分の家の方を指差す。

「あっちだけど?」

 結夢が指し示したのは遊の家の反対方向。つまり、学校のある方向だった。

「だったら、一緒に帰るって話は成立しないんじゃないか?」

「ん~?一緒に帰るって、必ずしも共通の道を使わなくても良いんじゃないか?私が志神についていくのも、一緒に帰るの一種さ。ただ、私は少し遠回りをしてるだけだよ。」

 あっけらかんと言われ、少し面食らった。が、すぐに表情を戻す。

 遊にはもう一つ質問があった。遊が素っ気なく反応する、その理由となる質問が。

「紫野月。お前はどうして俺に構うんだ?」

「え、どう言うこと?」

「どう言うことも何も………今まで俺とお前は、一度だって話したことないだろ。」

 そう……結夢が話しかけてきたのは今日が初めて。三年目の今になって急に、まるで友達のように。

 人対人の関係は、学校ではより顕著に変化が出ていた。生徒は全員ライバル。否、蹴落とす存在。目障りな存在。校内で会話する人間と言ったら、天召の権利を諦めた者同士くらいだ。

 天召が終わった者は、ある程度会話をするようになるが、それは表面上の事。自分を良く見せようと、薄っぺらい笑顔を張り付け、天使に媚びる者ばかりだ。

 そんな中、結夢の様に話しかけてくるのに対し、遊が警戒するのも無理はなかった。

(紫野月は天使持ち。マクアの事が広まっているのなら、目的は恐らく…。)

 明らかな嫌悪感を放ちながら考察する遊に対して、結夢は一切気にすることもなく、言い放つ。

「それはあれだ………好きだからだよ。志神の事が。」

「…………………は?」

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