魔力と人と疑問と疑惑
「おい、止まれ!いつまで走るつもりだ!」
アグエルとの戦闘を終え、森に逃げ込んだ遊。それに引っ張られるようについていく悪魔。アグエルが追ってくることは無いと分かっている悪魔は、元気に走る遊へ止まるよう指示した。
「ん?おぉ、そっか。悪い悪い。」
遊は立ち止まり、悪魔の方へ振り向いた。遊は息が上がることもなければ、汗をかいてすらいない。恐ろしいほどのスタミナの持ち主だった。天召を行った建物の屋上に上がる際、息が上がっていたのは、一階から五階の屋上まで、ノンストップだったからだろう。
「やっと止まったか。全く、考え無しな奴だな…。」
「失礼な。俺のどこか考え無しなんだよ?」
「そうだな…例えばその左手とか。」
「…………え?」
自分の左手を見る。そこからは血が流れ、全く止まる様子がない。あぁ~……ダーインスレイヴの能力って、確か、つけた傷は治ることはないだっけか?じゃあ俺の手も、血が流れ続けるのかな~。ヤバイな~。ヤバイな~。
「うわあぁぁ!マクア~!何とかしてくれ~!」
「ええぃ離せ!だから考え無しと言ったんだ!」
「後生だから~!一生に一度、キャッシュバックで三回分戻ってくるくらいのお願いだ~!」
「それはただのお願いだろ!何だ貴様、実は余裕だな!」
悪魔は一度ため息を吐くと、鋭く伸びた指を傷口にあてる。すると、傷口はあるものの、血の流れがピタリと止まった。
「おぉ~どうやったんだ今の?」
「傷口にかけられた治癒不能の魔力を、さらに大きな魔力で打ち消したんだ。」
事も無げに説明した悪魔。しかし、悪魔の言葉を遊は理解できず、首だけでなく体も傾け、理解不能指数を表現する。届けこの思い!
「何だそのポーズは?横っ腹でも痛めたか?」
届かなかった…。
「いや、急に魔力とか、意味わかんないこと言われて、混乱しただけだよ。」
「は?魔力を知らないのか?」
「HAHAHA!科学の進歩した現代社会で、魔力とかファンタジーな事言ってんなよ。」
「じゃあ目の前にいる俺は何なんだ?」
「え?今は魔力の話をしてるんだけど?」
「…………(イラッ)。」
「………あれ?マクア?どうして足元に落ちてる木材を拾うんだ…?どうしてそれを振り上げるんだ?どうして虫を見るような目をしてるんだ!?どうして何も答えてくれないん──うがッ!?」
遊の言葉が言い終わる前に、悪魔は、手に持った木材で遊の頭を殴打した。あまりの痛みに遊はその場にしゃがみ頭を押さえて唸る。
「~~っ!何するんだよ!急に殴るやつがあるか!」
「急に!?急にぃ!?貴様はもう少し、自らの言葉を省みた方がいいぞ!」
「意味わかんねーよ!俺の言葉を否定するため、顕著な例を示したのに、話違わね?って反応されたのがイラついたから殴った。みたいな事しやがって!」
「1から10まで理解してるではないか!!!」
何となく言ったのに、どうやら正解だったらしい…。何とも偶然とは怖いものだ。
悪魔は、呆れたような、諦めたような仕草をした後、話を切り替える。
「ゴホンッ!…………貴様は魔力を知らないと言ったな。全く聞いたことはないか?」
「全くじゃないけど、聞いたことがあるとすれば、漫画やゲームの中だけだよ。」
「そうか…………じゃあ、天召のシステムも、しっかりと伝えられてはいないのだな。」
悪魔は、そうポツリと呟いた。どうやら遊には聞こえなかったようだ。悪魔は少し考えた素振りを見せた後、口を開く。
「……端的に言えば、魔力は誰にでも存在する。」
「誰にでも?俺にもあるのか?」
「あぁ。目には見えないがな。そもそも魔力と言うのは─」
魔力とは、人間だけに与えられたものである。体内に蓄積され、視認することは難しい。魔力は微量ながら、常に生成され、年を追う毎に生成量は増えていく。そして、それは──人体に多大な影響を与えている。
人間は当初、魔力によって成長を促されている。元の成長を魔力で増進するため、幼少期の成長は著しい。元の成長が止まった後、魔力はほとんど使用されることはない。傷の自己回復や、体の抵抗力、病気への抗体等、微力ながら魔力は注がれてはいるものの、生成量と使用量は比例しない。故に使用されない魔力は体内に蓄積されていくのだ。
そして、年を追う毎に増えていく生成量。溜まっていく魔力。それがその後与える影響は……"老い"である。
少量ならば問題はないが、大量にあった場合、人体には猛毒となる。まるで酸素のように。その許容量を越えたとき、人は死に至る。いわゆる『寿命』と言うものだ。
では、魔力を使うことは出来ないのか?答えは否。ただし、自らの意思で使うことは出来ない。
現代は、魔力と言う概念が常識から外れた認識であるため、魔力行使の知識がない。その為、魔力を使用する場合は無意識に、である。そして、人間が、無意識に魔力を使う事には名称がついている。末期癌が急に消える。動くはずのない足が動いた。とある宗教では、死んだ者が生き返る等。度合いは様々だが、そのような現象は総じてこう呼ばれている──"奇跡"と。
ほとんどの、奇跡と呼ばれる現象は、魔力による産物である。魔力操作の才能に長けた者が、無意識に使用する場合や、魔力量が異常に多い者から、漏れだした場合に起こる事がほとんどである。
故に、魔力が無くなることは皆無であり、魔力内包量が多ければ、体の老化に影響を及ぼす。
つまり、魔力とは……大きく、体に影響を及ぼすものである。
「…………と、まあこんな感じだな。理解したか?」
悪魔が話終え目を向けると、遊は口元をつり上げワナワナと震えていた。悪魔は何事かと頭(と言うか目)を傾けた。瞬間、遊は手を高く挙げ叫ぶ。
「すっげー!人間にはそんな力があったのか!」
「いや、話を聞いていたか?自分では使えないのだぞ?」
「でもそれは、魔力の概念が無かったからであって、練習すれば使えるようになるんだろ!?」
「無理だな。少なくとも、人間の寿命程度じゃ時間が全く足りない。」
「その結果があるってことは、つまり、過去に使えた人間がいたってことだろ!?燃えてきたー!」
冷静なのか興奮しているのか、分からない遊の考えに、悪魔は唖然としながらも、どこか感心している様子だった。
しかし、今の状況で、一つ気にかかることがあり、悪魔は遊に問いかける。
「ところで貴様は、学校とやらに行かなくて良いのか?」
悪魔の言葉に遊は首を傾げる。話を急に変えられたのに不信感を抱いたが、それよりも、今の言葉の疑問の方が大きかった。
「え?でも俺って、危険視されてるんだよな?そんな行ってる余裕あるのか?」
「いや、それは問題ない。あのタイミングなら、事故を装えたから奴等は事に及んだんだ。予想だが、俺は"世間に周知されていない新種の天使"として扱われると思う。天召で悪魔が出てきたなんて、信用に関わるからな。」
「ふ~ん、そっか。じゃあ俺は普通に過ごしても大丈夫なんだな。」
「大丈夫だが、人目につかない場所は止めておけ。機を見て暗殺を仕掛けてくる可能性があるからな。」
「マジかよ…。出来るだけ街を通らないといけないんだな。じゃあマクアに街まで案内してもらわないとな。ここは何処なんだ?」
「モスクワ。」
「えぇ!?」
「冗談だ。貴様が言ってるのはどれか知らんが、街へ出れば良いのだな?空から見たとこで、一番近い場所に向かうとするか。」
「あ、あぁ頼む。」
遊は先導する悪魔についていく。その間は無言。元々悪魔から話すことは無く、遊は考え事をしていたからだ。
何故話を急に変えたのか?ただ悪魔が疑問に思ったことを、聞いただけかもしれない。しかし、遊にはどうも違和感が感じられた。魔力の使用を掘り下げられたら困る、悪魔の何かに…。




