表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の所業  作者: ふたつきひみつ
50/60

段落は奈落の

「それに……面白いものを見つけたしな。」

 ミーアがメルケヤルに襲われるすこし前。助けだそうと先走る遊を制止し、自らが助けると宣言した悪魔の表情は心底に楽しそうだった。オモチャを見つけた子供の様であり、不気味で不敵。余裕な態度を信用してもいいのかもしれないが、それによる不安が心底の信頼を拒む。

「面白いもの…?」

「あぁそうだ。まさかとは思ったが、よくここまで多種多様に揃えたものだと感心する。天使の執念には些か目を見張るものがあるな。」

「だから何の事だよ?分かるように説明してくれ。」

「そうだな……人間、魔力特性の中で一番多い特性は何だと思う?」

「一番多い特性?魔力の影響は一般で言う奇跡的なモノだろ……だったら治癒とか?」

「成る程、治癒も多い。しかしな、魔力特性の中では"ある特性"が群を抜いて多い。貴様の言った奇跡だが、必ずしも良いものばかりではない筈だ。飽く迄奇跡とは、常識外れの現象なのだからな。」

 答えを教えず、ヒントを出してはニヤリと笑う。相変わらず説明時は楽しそうな悪魔に呆れながらも、遊は考える事を放棄できない性である。掌で踊らされながらも、今出されたヒントの中で仮定を繋げていく。

(良い意味ではない……常識はずれの現象……現象?良くない現象?災害…は大きすぎるし、だったら小さくして、不運や不幸とかか?……いや、おかしいだろそれは。マクアは最初何て言った?多種多様に揃えたって言ってたよな?だったら物だ、物体だ。それが何かしらの現象として作用するって事だ。つまり、悪い現象を起こす物………!)

「……………………呪いだ。」

「ほう…。」

「呪い、怨恨、怨念……そう言ったものが魔力特性の中で一番多いんだな?」

「フハハハ、正解だ。魔力特性に一番多いものは"呪詛"、それは物に宿り、所謂呪いの人形等になるわけだ。ここにはそう言ったものが大量にあるぞ。」

 魔力特性の質問が悪魔の言っていた『面白いもの』になるのは分かっていたが、実際に認められ、ここにあると宣言されると酷く恐ろしい。そこら中に置かれている用途不明な物は勿論、同じく部屋にある電気スタンドや折り畳みの机でさえも呪われているように感じてしまう。

 加え、遊の心配は恐怖だけではなくなった。呪われた物は例に漏れず不幸の象徴である。そんな物が大量にあるこの家、引いてはミーアに果たして影響はないのか、と言う心配が頭を過ったのだ。

「そ、それって大丈夫なのか?悪い影響とか無いのか?」

「大丈夫な訳がないだろう。呪詛とは基本的に物へ宿る。希に標的へ飛ばす事が出来る者もいるが、殆どが前者だな。効力は単純、"所有者を不幸にする"事だ。」

「なっ!?だったら直ぐにどうにかしないとマズイだろ!」

「その点はまだ大丈夫だ。」

「は?どこが大丈夫なんだよ!」

「言った筈だ、呪詛の効果は所有者を不幸にすると。貴様は何をもって所有者とする?勝手に置いてあれば所有者か?違うだろう。呪詛の含まれた物においての所有者とは、それを認識し、手に取った事で初めて所有者として登録されるのだ。」

「……それってつまり、まだミーアは所有者になってないし、他に影響を受けてる人がいるって事か?」

「その通りだ。だからまだ大丈夫と言ったのだ。」

「良かった……とは言えないけど…。今はどうしようも無いって事か。」

『……もういい、話にならん。』

「っ!?」

 盗聴器から声がした。先程から音声は流れていたが、今の声は明らかに怒りを孕んだ声。故に物音も他の声もすり抜けて耳に届いた。

 そして、声の主がメルケヤルである以上、既にミーアがピンチに立たされているのは想像に易い。焦って部屋を飛び出そうとする遊、それを悪魔が制し、その場にある木彫り人形を一つ手に取った。雑、と言うよりは直感に任せて彫ったような人形であり、形は有るようで無い。角が生えてる様にも見えるが、角が尻尾にも杖にも見える。しかし、形は分からずともその人形には確実な感情が、禍々しいまでの恨みが見て取れた。

「言っただろう、いざとなったら俺が動くと。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……勿論、あの天使にとってだがな。」

 不敵な笑みを浮かべながらボロボロの衣服で人形を呑み込む。途端悪魔の姿は形を崩し、おぞましい音を立てながら黒く、黒く変色していく。それは、人形の恨みを表す悲鳴の様でもあった。

 故に恐ろしい。今感じている恐怖が呪詛の力と同等とは限らないが、たった一つでここまでの焦燥を与えているのだ、それに近い力を持っているだろう。もしミーアが所有者となった場合、また、今呪詛に苦しんでいる人がいるならばどうするべきか……と、遊は悪魔の姿よりも、ここにある呪いの道具の今後を思案していた。

「人間、気になるなら考えておけ。呪詛を交えたそれらの扱いを。」

「扱い、か…………なぁマク─」

「救出する。攻撃的呪詛の力をもって、ミーア・ワーグナーを救出する。」

 遊の呼び掛けよりも前に、悪魔は不定形の影となり、天井へと吸い込まれていった。取り残された遊は悪魔の吸い込まれていった天井を眺め、一人物思いに耽る。どうして悪魔の名を呼ぼうとしたのか分からなかった。ただ、漠然とした感情が、煩雑になった感情が悪魔を呼んだ。

 分からないまでも、たった一つの感情は確か。果たして正しい判断は存在するのだろうか、そう言った苛立ちを覚えている。



(扱いと言われて過った底知れない不安は何だったんだ?魔力特性の影響だったのか?だとしたら俺は……何を見たんだよ…。)

 この感覚は、恐ろしい夢を見て飛び起きた時に似ている。夢の内容を起きた時には忘れているのに対し、確実に恐怖は刻み込まれているあの感覚。それは、受け止めきれない恐怖に能が防衛本能を働かせ、これ以上押し潰されないよう抑制している様にも思えた。

 しかし、ならば余計に思い出さなければならない。そして、余計に思い出せなくなる。そこに呪われた道具の扱いが関係してくるのだろう。

 もどかしく無意識に頭を抱えていると、メルケヤルが「ふざけるな!」と一際大きな声を上げた……と、その瞬間に頭に映像が流れた。ガブリエルと交信する際に立ち上がったていたメルケヤルが、着席して上を見上げた途端、一本の光の矢が窓を突き抜けてくる映像が。

 怒鳴ったメルケヤルはまだ着席していない。今の映像は魔力特性によるものだと遊が理解するのは早かった。先に起こる映像、そして、その先とは"今"である。

「っ!どけぇ!」

 遊は荒々しく声を上げた。目の前の机を窓側へ蹴り立て、悪魔たちが座る応接椅子と窓の間に庇うように割って入る。

 瞬間、甲高い破砕音が鳴り響き、一閃が部屋へと侵入した。それは蹴り立てた机を貫き、更に遊の肩へと突き刺さる。

「うっ、ぐぁ!?」

 勢いに飛ばされ、背後にいたメルケヤルを巻き込み縺れ転ぶ。悪魔とミーアは、状況についていけてない様子で目を見開くばかり。当然巻き込まれたメルケヤルも同じだ。

 矢は勢いを失った際消滅したが、痛みが消える筈もなく、肩に激しい痛みが襲い歯を軋ませながら唸る遊。それを見てメルケヤルは、天使が悪魔を狙っての攻撃なのだと納得した。すると、頭の中に先程まで対話していた相手からの通信が入る。

『暗殺に失敗。メルケヤル、権能を使用して志神 遊へ運命を授けよ。要求として、全ての悪を持って死亡する運命を授けよ。』

 自然に縺れている今こそ絶好のチャンス。先程までの怒りなど忘れ、メルケヤルは短く返事をすると、一瞬の光を起こし白銀の腕輪を右手首に出現させた。

「志神遊……貴方に運命を授ける。始まりは『(どうけ)』、結末は『(てんか)』な運命を。」

 メルケヤルの権能は『運命』。対象者に指定の運命を与え、受けた者はその運命に沿って無自覚に行動を起こしてしまう。無自覚故に一度与えられると防ぎようがなく、与えた時点で行使は完了し、ハニエルの様に操り続ける必要も無い。

 一見強力に見えるこの権能だが、勿論欠点も存在する。一つ目は、メルケヤルが与える運命は大雑把なモノで、必ずしも指定通りとはいかない。ただ、指定の運命に近い結末を迎えるのだ。

 二つ目は、運命は一人にしか与えられず、対象者が結末を迎えるまで権能の行使が不可能となってしまう事。但し、その間にメルケヤルが消滅しても効果は残存する。

 三つ目は、メルケヤルの与える運命よりも強い運命──所謂"宿命"を持つ者に行使すると、"権能が呑まれ白銀の腕輪が破壊される"事である。

「──なっ!?」

 パキィン!と金属が破断するような音が上がり、メルケヤルの腕輪が粉々に砕け散った。

 突然メルケヤルの腕輪が砕け散った事に、遊は一度驚いた表情で視線を向けるが、直ぐに窓の外へと戻す。まさか、メルケヤルが自身に攻撃を加えたなどと思っていないのだから当然だろう。しかし、そんな遊を置いて、怒りを露にメルケヤルへと詰め寄る者が一名。

「貴様……今何をした?」

 それは悪魔。メルケヤルの髪を乱暴に掴み、質問しているのにも拘わらず有無を言わせない程の圧力だ。当然、側にいる遊は悪魔の行動に驚きを隠せず、窓に意識を分けながらも悪魔へ声を張り上げた。

「な、何やってんだよマクア!外からまた攻撃が来るかもしれないんだぞ!」

「外の奴はもう逃げた。あんな弱い攻撃しか出来ない天使が、いつまでも残っている訳がないだろう。」

「だからってメルケヤルに当たってもしょうがないだろ!」

「どこまでもお気楽な奴だ。貴様は今、この天使から攻撃を受けたのだぞ?」

「はぁ?」

「この天使の権能は知らんが、明らかに魔力の動きがあった。まぁ失敗したようだがな。」

「え、じゃあ今のって…。」

「その通りだ。なんだったらこの天使に直接聞いてみろ。」

 悪魔がそう言った瞬間、メルケヤルは怯えたような表情せ顔を背ける。それだけで遊は、悪魔の言った事は本当なのだと理解した。ただ、遊の興味は既に移っている。どうして攻撃したのかではなく、どんな攻撃をして、なぜ失敗したのかに。

「メルケヤルの権能って何なんだ?」

「……………………。」

「どうして失敗したんだよ?」

「……………………。」

 当然質問に答える訳もなくだんまりを貫く。いくら質問を続けたところで答えてはもらえないだろう。困ったように頭を掻いていると、横から悪魔が割って入り、メルケヤの勘違いしている事実を伝えた。

「おい天使、命の恩人の質問くらい答えたらどうだ?」

「命の、恩人…?」

「ふん、気付いていなかったのか?あの矢は俺を狙ったのではなく、貴様を狙っていたのだぞ?」

「は!?な、何を馬鹿な事を言っている!狙われていたのは悪魔だろう!」

「俺があんな矢一本で殺せる訳がないだろう。ラグエルやクシエルでの一件も聞いていないのか?」

「……っ!」

 思い当たった。木を粉々にするラグエルの光弾も、地面にクレーターを作る上切断も備えているクシエルの鞭も、悪魔を殺すには至らなかった。先程の矢の威力は、机と人体を合わせて貫けない威力だ。一点集中の威力だとしても、果たして悪魔を殺害出来たかと言ったら怪しい。今この場で、確実に殺害する事のできる者と言ったら人間か、または"天使"か。

 勝手に納得していた、狙われたのは悪魔だと。よくよく考えればおかしな話だ。暗殺に失敗とガブリエルが言った後、メルケヤルへ権能行使の命令が下った。慌てていた為至らなかったが、もし権能を行使した際、メルケヤルはその後どうなっていただろうか。逃げようにも窓側には悪魔、勿論、ただでは済まない。元々殺害する予定だったからこそ、どうなっても良い存在だからこそ、あんな命令を出したのだろう。『暗殺に失敗』……つまりはそう言う事だったのだ。

 しかし、だからこそ疑問が浮かぶ。一度は問いかけ、マトモな答えを得られなかった疑問。今回も同じかも知れないが、投げ掛けずにはいられない。

「どうして……どうして私を助けたんだ…?」

「いや、どうしてって言われても…。」

「情報を得る前に殺されるのは避けたかったのか?」

「情報?あ~……あぁ、全然考えてなかったな。」

「っ!……もう訳が分からない……貴様は本当に訳が分からない。なんなんだ、なんなんだ一体…。どうして敵を守る?どうして命をなげうつ?」

「別に擲っては無いだろ?偶々そう見えているだけで。」

「そう見えているだけ!?アレが!?悪魔の攻撃によって貴様は死んでいたかも知れないのだぞ!?天使の攻撃によって貴様は死んでいたかも知れないのだぞ!?」

「それは天使にとっては良い事なんだろ?何でメルケヤルがそんな事気にするんだよ?」

「身を案じているのではない!考え方が理解できないのだ!」

「考え方ねぇ……ミーア、俺ってそんなにおかしいか?」

 脅威が無くなったのならいつまでも立っている必要はない。遊は考える仕草をしながらソファーに腰掛け、未だ驚きの最中であるミーアを引き戻す様徐に声をかけた。

 ハッとして我に返るミーア。遊の思惑通りに意識を引き戻したが、それもここまで。遊自身も忘れていたある事に、場は慌ただしく変貌するのだ。

「え!あ!わ、ワタシにふルんですカ……って血ガ!血がスゴイですヨシカミューさん!!!」

「え、あ?おぉ~本当だ……って、ヤバい。意識し出したらどんどん痛くなってきた!痛った!痛ってぇ!痛てててて!!!」

「アワわわわ!え、えっト……あわ、アワわわわ!!」

 矢が突き刺さっていた部位は血が滲み、服を真っ赤に染めていた。その上まだ止まっていないのか、伝って腹部までも真っ赤に。アドレナリンによって誤魔化されていた痛みは、落ち着いた今、耐えきれない程の痛みとなって遊を襲う。

 酷く痛々しい姿にミーアも軽いパニックを起こし、結局、悪魔が落ち着くよう宥め指示を与えるまでの間、ここは慌ただしく喧しい場へとなっていた。何とも締まりがない。



 落ち着いて二十分後。天使の手がどこまで延びているかも分からない状況で救急車を呼ぶわけにもいかず、とりあえず今ある道具で応急処置を施す。幸い机が勢いを殺していたお陰で、大事には至っていなかった。

 処置を施したミーアは、悪魔に落ち着くよう言われたところで完全にそうなる訳もなく、終えた今でも目は潤んでいる。フォローしようにも、血の滲んだ包帯を巻いてる状態で近づこうものなら、余計に恐怖を与えてしまうだろう。どうしようもなく悩んでいると、相変わらず納得いかない様子のメルケヤルが目に入り、遊は何とはなしに声をかける。

「何だ、まだ納得いかないのか?俺も良く分かってないんだから、もう考えるだけ損だって。」

「喧しい!そんな人間がいてたまるか!他人のために命を擲つなど、地獄にいた頃一度だって無かった!」

「地獄にいた?メルケヤルが?どうして?」

「…………まさか、知らないのか?」

 驚いた様子でそう言ったメルケヤルが視線を向ける。それは遊ではなく悪魔に、だった。言葉は発さずとも意味は遊にも分かった。「まだ言っていないのか?」だ。そして、悪魔が言っていない理由も遊は概ね予想はついている。だからこそ掘り下げない。だからこそ聞かない。きっと後悔しているから。

 しかし、悪魔が言っていない理由はメルケヤルが地獄にいた理由とは結び付かず、その事に関して遊は遠慮しない。

「で、メルケヤルが地獄にいたってのはどう言う事なんだよ?」

「……ふん、言うわけが無いだろう。」

「まぁそうだよな……じゃあ、教えてくれたら俺がメルケヤルを助けた理由を教えるってのはどうだ?」

「貴様は理由など無いと言っていただろう?聞くだけ聞いて理由なんて無いは通らないぞ?」

「ちゃんとした理由じゃないけど、上げるならっていうのはあるよ。それで良いなら教えるぜ?」

「…………まぁ、こちらの情報はいずれ悪魔から聞いていただろうからな。それで良い。」

 渋々と言った様子ではあるが、天使の情報を与えるのだ。それほどまでに遊の考えが気になって仕方ないのだろう。ただ、一つ懸念があるとすれば、果たして遊はマトモな答えを用意しているのかどうか。メルケヤルは期待と諦めを半々で承諾していた。

「私の方はそう難しい話ではない。我々天使の中で、名前を持たない大天使(アークエンジェル)未満の階級の天使は、地獄での魔力回収を生業としている。私が地獄にいたと言うのはそう言う事だ。」

「あぁ昇華だっけ?階級の低い天使はそんな事をしていたんだな…。」

「私の回答は以上だ。次は貴様に答えてもらう。」

「あ~そうだったな。まぁ理由は単純……俺の目の前で誰かが死ぬのは、"もう"見たくないからだよ。」

 また自虐的な笑みを浮かべた。狂っていると言われ、狂っている事を肯定したあの時と同じ笑みを。遊の価値観は、今の台詞によって形作られたモノなのだと、この場にいる全員が理解した。曖昧な回答ならば掘り下げようと考えていたメルケヤルも、先程と同じ様に苦しそうな表情を浮かべ黙ってしまう。そして同時に、メルケヤルの中で沸き上がるとある違和感。それは遊の言葉にではなく、二度も同じ心持ちになった事による自分自身への違和感。

(……どうして私は志神遊の言葉を掘り下げない?どうして罪悪感を抱いているのだ?まさか、人間相手に遠慮でもしているのか?)

 過去地獄にて、幾度となく残虐な行為を与えてきた人間に対し、こうも罪悪感が浮かび上がるのが不思議でなかった。それは遠慮の様に、遠い距離感での感情ではなく、もっと入り込んだ感情である。

 しかしメルケヤルは、その感情の正体を明かせないまま考えるのを止めた。きっと下らない、とるに足らないモノだろうと結論付けたのだ。そして、その程度であるならば、遊の話を掘り下げるのに躊躇いは薄れてしまう。小さな罪悪感を感じながらも、メルケヤルは不服そうな表情で指摘をいれる。

「……結局ハッキリとしないな。もっと詳しい理由を提示しろ。」

「もっと詳しい理由?ん~…………あ、そうだな。メルケヤルを守りたかったってのはダメか?」

「はぁ!?そ、そんな取って付けたような理由で納得するわけ無いだろう!」

「いや、守りたかったのは本当だぜ?メルケヤルの身に危険を感じたら、咄嗟に体が動いちまった。」

「な、なななな、な~…!」

 遊は名指しをしたが、その実、守る相手は自分以外なら誰でもいいのだ。そんな事は悪魔も、知り合ったばかりのミーアでさえ理解していたが、メルケヤルは面白いくらいに狼狽した。

 そんなメルケヤルの姿を見て、ミーアはやっと緊張が解れたのか、ここぞとばかりに会話へと入り込む。

「アレアレ?何だかイイ反応をしてマすねェ。やっパ『守りたい』何テ言われたラ、恋に落ちチャいますカ?」

「恋!?ば、ばばば馬鹿な!そんなば、馬鹿な事が!」

「……え、アレ、割りと当たリですカ…。ナルほどコレは参りマシタね。」

「何を勝手に納得している!話はまだ終わっていないぞ!」

 何とは無い筈のからかいにヒートアップしていくメルケヤルと、それを聞いて考え込むミーア。話の渦中である筈が蚊帳の外な遊と悪魔は、明るさを取り戻した場に安堵し、今後の方針を決めようと話し合う。

「メルケヤルが見限られた今、ミーアはこれからどうなるんだ?」

「さあな、そう簡単に処分されたりはしないだろう。一般人の貴様にだって未だ強行手段を取ってないのだからな。」

「し、処分て……まぁでも、そうなるのか…。てか、強行手段ってのは何だよ?」

「そうだな、例えば罪を着せて拘留、理由をでっち上げて殺害とかだな。」

「う、それは、マズイな…。」

「まぁそれも難しいだろうがな。」

「何でだよ?」

「当然俺が抵抗するからだ。人間だけで俺を止めるなど不可能、だからこそ天使が動かねばならん。しかし、表立って天使が闘っていたらそれこそ問題だ。強行手段が難しいと言うのはそう言うことだな。」

「う~ん、強行手段が難しいのは分かった。でも、そう考えるとミーアの安全は揺らぐだろ。ミーアには天使しかついていないんだし。」

「そこも問題ない。何せ『悪魔祓い(エクソシスト)』だからな。」

「いや、それは名乗ってるだけって言ってたじゃないか。」

「今は、な。天使も言っていただろう?魔力特性を発揮できるよう教育すると。」

「ん、あぁ……確かに言ってたけど、それってつまり、ミーアの魔力特性の"調和"がマクアの弱点ってことか?」

「弱点とは言わないが、それに近いな。とりあえず、人間の女は天使の切り札の様なものだ。だから安心しろ。」

「……分かった。」

「さて、形は違えど用事は終わったな。そろそろ帰るとするぞ。」

「ん、そうだな。」

 悪魔と遊は、未だ変わらずな二名に一度視線を向けると、挨拶も無しに部屋を出る。

 時刻は既に23時を指していた。サンダルフォンによれば、一番危険であったのはミーアである。その危険を回避した事は遊の緊張を解し、同時に身体中へ疲れがどっと押し寄せた。翌日も学校がある為、直ぐにでも眠りにつきたい気分だと、そんな事を考え帰路につく。

 しかし、遊は考えるべきだった。一番危険な人物はミーア、ならば二番目は誰なのか。そして、ミーアの危険が回避出来たことで、次は何が起こるのかを…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ