狂った価値観
裏口から家の中へ入り、音を立てずゆっくりと歩く。その間電気は点けず、僅かに照す月明かりとサンダルフォンの姿を頼りに進む。扉を開く際は必ずサンダルフォンが開き、閉める際も必ずサンダルフォンが閉める。そこに忍ぶ気はなく、躊躇無く音を鳴らしていた。あまりの遠慮の無さに遊は堪らず眉をひそめるが、サンダルフォン曰く「私の権能は、私が要因であるあらゆるモノに働きます。声、姿、気配だけでなく、発せられた音さえも例外では無いのです。」との事。これによりサンダルフォンが要因で発する音や振動は、他の天使には届か無い。そして、遊に聞こえているならば、必然的にミーアの耳にも届くだろう。つまり、躊躇無く発する音は、ミーアに対しての到着及び侵入の合図となるのだ。
「こちらで待機していてください。ワーグナー達のいる部屋はこの真上ですので呉々もお静かに。それと、盗聴器の電源はお忘れなく。」
案内された部屋は埃っぽく、所狭しと段ボールや用途不明の物が置かれていた。どうやら物置として使われているらしく、身を隠すには丁度良いだろう。
サンダルフォンは案内を終えると物置を後にし、扉を閉める音を最後に、音や気配の何もかもが消滅した。残された二名は特に会話もなく、盗聴器からの音声を待つ。しかし、サンダルフォンの権能と効果を見聞、及び体感した遊は、先程から抱いていた疑問を堪らず悪魔へと投げ掛けるべく口を開いた。
「…………なぁ、マクア。」
「何だ?」
「サンダルフォンの権能って正直強すぎないか?こんな風に気配も何もかもを絶たれたら暗躍、基暗殺なんて余裕だろ。」
「……貴様は何か勘違いをしているな。奴の権能程半端で煮え切らないモノは無い。」
「え、そうなのか?どうして?」
「叛逆とは裏切りだ、そして裏切りとは参画だ。それには程度があり、行為が大きければ大きいほど叛逆としての質は高まる……いいか?裏切ると言う事は、"味方の敵になる"と言う事だ。暗殺等の大きな行為には、決行しようとした時点で"敵の味方"だ。権能を発動するには、未然にその分味方へ利益を与えていなければならん。つまり、だ。奴の権能は、味方が被る損益分の利益を前払いしなければ発動できないのだ。」
ズズイと詰め寄り結論を叩きつける。説明している間に気分がノッてしまったのか、妙に熱く語る悪魔に、遊は堪らず気圧された。
「お、おぅ…なるほど、な。か、かなりピーキーな権能って事だな?」
「その通り。」
(……何かマクアって、説明してるときに妙に熱くなると言うか、楽しそう?だよなぁ。)
「何だ?俺の事をジロジロ見て。」
「ん~や、何でもない。」
『………ヤル……い…カ?』
そんなやり取りを行っていると、電源を入れていた盗聴器から僅かに音声が流れた。状況に追い付いた遊と悪魔は会話を打ち切り、息を潜めて音声に耳を傾ける。音量調節を行い会話を明瞭に聞き取ると、どうやら話し始めの様で、今まさにミーアがメルケヤルへ質問を投げ掛けるところであった。
遊達のいる物置の上、ミーアの部屋。個室でありながら十二畳程度の広さがあり、その上荷物は少ない為余計広く感じる。机と椅子、ベッド、テレビに戸棚が一つ、後は壁に掛けられた何枚かの絵のみ。結夢と同じく、凡そ女子高生の部屋とは思えない程簡素だ。
そんな中、未だ制服姿のまま椅子に座るミーアは、開け放された窓のサッシへ座るメルケヤルへ質問を行っていた。
「今更ナンですガ、どうシてワタシを日本に送ったノデスか?説明もナシに急に日本へイケなんテ、流石のワタシもビックリです。」
「説明がないのは仕方がない、"ただの人間"には到底理解出来ないからな。ミーア、貴女が日本に来た理由は、貴女のエクソシストとしての役割を果たす為だ。」
「ん~シカシですねェ……いくらエクソシストを名乗ッテみてモ、正直ワタシ自身よく分カッてナイのですヨ?ファーターが死んでしマッてから、政府の人カラ呼ばれテ天召させラレて、「今日からミーアはエクソシストを名乗りナサイ」何てマターから言わレテ……頭が追いツキませンよホント…。」
「ワーグナー家の本業がエクソシストである事は聞いたな?本来ならば貴女の父が担う役だったが逝去してしまった為、その血を引くミーアに引き継いでもらった。天召を行わせたのは、ミーアの魔力特性を発揮できるように我々が教育を施すためだ。」
「あ~……魔力特性云々ハ前モ言ってましタネ。"調和"?でしたッケ?しかモ珍しいトカ何トカ。」
「特性事態は珍しくはない。魔力特性は人間個々の性格、才能、由縁に依存するが、性格と才能が八割を占める為、本来なら一貫する事などあり得ない。しかし、どう言った理由かワーグナーの血統は全て決まった特性を持っているのだ。私の言った珍しいとはそう言う意味だ。」
「ハァ、それデ……ワタシは何をスレばいいノですカ?そもそも天使ハ何がシタイのですカ?」
「ミーアは志神遊と接触を続けいればいい。我々天使の目的を話す必要はない。」
「ムゥ……何かソウ言われルとは思っテましたケド…。でも、ドウしてシカミューさんナンですカ?それクラいは教えて下さイヨ。」
「志神遊が我々天使と人間の関係を脅かす危険因子だからだ。」
「ソレじゃ説明不足デスよ。ワタシが聞きたイノは……接触ヲ続けたノち、シカミューさんをドウするつもリなのか、デス。」
冗談や誤魔化しを許さぬ射抜く様な目を。少しばかりの軽い雰囲気を帯びていた先程とは打って代わり、その切り替え様は明らかな威圧をメルケヤルへと与えた。
メルケヤルは息を飲む。当然の事ながらこの切り替えは不自然である。考えの足らない蒙昧な小娘と油断していたが、今目の前にいるのは、嘗てを欺く強かな人間であった。
「……答える必要はない。」
「イイえありまス。シカミューさんは言ってマシタよね?中途半端な情報ハ余分な憶測ヲ生む……と。これがドウ言う意味か、メルケヤルなら分かりマスよね?」
「ダメだミーア……それ以上は危険だ…!」
盗聴器から流れる音声に耳を預けていた遊は、一見場を呑み込んでいる様なミーアの交渉に酷い焦りを感じ、堪らず警告が口を突いて出た。
ミーアの交渉は学校でメルケヤルに対して行った遊の交渉に似ている。しかし、似て非なるに及び、ミーアの方法は圧倒的に危険であり、遊が会話を聞いている事が要因でもあった。
学校では常に人がいる為、信用を失わないためにも天使は下手な行動をとれない。しかし今は違う。周囲には誰もおらず、例えいたとしても敵である天使のみ。遊がいることなどメルケヤルにとっては予想外だろう。そして、その予想外が良い方に転ぶかは果たして低い。ミーアにとって遊が近くにいる事は感情的なプラスであるが、実質的はゼロ。敵地に味方がいる事は心的余裕を持たせ、しかし、それは隠匿を必要とする潜入なのだ。ミーアに危険が及ぶ事によって遊が身を現せば、この作戦は失敗に終わってしまう。だからこそ安全と適正の判断は慎重かつ迅速でなければならない。
ここに生憎、いくらミーアの能力が高くとも、軍人でもなければ経営者でもない、全てを上手く繰る事など出来ないのだ。故に、存在しないプラスを無意識に盲信した心的余裕は、両立の線引きを曖昧にし、結果、情報を引き出す事に追われ正常かつ安全な判断が鈍ってしまう。
ミーアが天使に襲われるかも知れないこの状況に、今一番必要なモノは情報、特にメルケヤルの、である。遊は盗聴器から意識を離し、悪魔へと体を向けた。
「マクア、メルケヤルの権能は何か分かるか?」
「悪いが低度の天使の権能までは把握していない………人間、間違っても飛び出す様な真似はするなよ?」
「で、でもそれじゃあミーアが…!」
「流石の天使も、国単位で監視下にある人間を直ぐにどうこうはしないだろう。まぁ、メルケヤルとやらが先走らない限り、だが。」
「……っ、分かった…。」
「心配するな、いざとなったら俺が動く。それに……面白い物を見つけたしな。」
「面白い物…?」
「さぁ、答エテ下さいメルケヤル。」
「……………………はぁ…。」
暫しの沈黙を置き、メルケヤルは額に手を置いてため息を吐いた。観念して情報を提供するのかと考えたミーアは、安堵の表情を浮かべるが、それは大きな間違いだった。
「………いい…ガブリエル……で泳が…のは……ない。危険因子………に…処理すべ………何故?……誰…いない、罪など………も人間…被せ………ろう。……好都合…。」
メルケヤルは一向に顔を上げようとはせず、ブツブツと何かを呟いていた。それは誰かと話している様であり、得体の知れない行動に、安堵を浮かべていたミーアの表情は少しづつ影を帯びていく。
「ど、どうシタんデすかメルケヤル。一体誰と話シて…。」
「…………はぁ、もういい。話にならん。」
「だカら何の話デスか…!」
「もういい…………もう──面倒だ。」
「ひっ…!」
怒りを孕んだ視線でミーアを射抜く。先程の謎の会話は途切れ途切れであったが、それによってメルケヤルの怒りが明確な殺意に変換された事、そしてそれがミーアに向けられている事を、ミーア自身理解できた。理解してしまった。
堪らずその場に経たり込む。体勢を立て直そうと試みるが、腰が抜けてしまいそれは叶わなかった。ズリズリと情けなく後ずさる事しか出来ず、当然近付くメルケヤルと距離を空ける事もできない。
メルケヤルは右手を伸ばす。すると掌は一瞬の光に包まれ、光は白銀の腕輪となってかき消えた。その光景を目の当たりにしたミーアが、腕輪のついた右手に触れられたら危険だと考えるのは易い。かと言って腰が抜けた状態で逃げられる訳もなく、文字通り着々と歩み寄る恐怖に、顔を引き吊らせながら見苦しく後ずさる事しかできなかった。
「ミーア……貴女に運命を授ける。始まりは『協』、結末は『死』な運命を。」
不吉な台詞と共に、ミーアのスカートの裾を足で踏みつけ動きを止める。天使の権能の存在を知らないミーアだったが、明らかに尋常では無い空気を感じ、これから起こる"何か"による漠然とした恐怖が襲う。
メルケヤルの右手が目前まで迫り堪らず目を瞑る。何も変わらないのは分かっているが、恐怖とはそう言うもの。五感における最も恐れる感覚を閉ざしてしまうのだ。
何も変わらず右手が近付く。そして遂に触れようと──した瞬間、突如として床から黒い物体が這い上がる。危険を感じたメルケヤルは、開いていた掌を閉じ、反射的に距離をとった。
現れたのは半透明の影。一定の形を持たず、人、馬、炎、果てには正方形等、様々に変形させている。
半透明の影の半分よりやや上方から、音とも捉えられる様な声が響く。
「否定、否定、否定、否定……ミーア・ワーグナーは我が軍下に降り、天使メルケヤルの運命を否定する。」
「な、何だ貴様は!」
「天使メルケヤルの問いを拒否する。加え拘束する……我は軍勢を十九分し、内一つをここに展開する。展開した軍勢を『一ノ軍』とし、天使メルケヤルを包囲する。一ノ軍に貫通及び切断を付与し、天使メルケヤルを拘束する。」
朧の影が一層強く形を崩すと、影は分裂して数を増やし、瞬く間にメルケヤルを包囲する。それは人形の様子を取り、腕に当たる部分には返しの付いた槍、又は僅かに曲のある刃が備わっていた。
目の前の影は明らかな敵意を持ち、今の状況に明らかな不利を感じたメルケヤルは、その場に飛び上がり窓から脱出を試みる。五十メートルの制限はあれど空中であれば幾分かマシと考えたのだろう。
「拒否する。伏兵の一部を暴露し、天使メルケヤルの逃亡を拒否する。」
音にも似た声が部屋全体に響いた。展開された影全てから発せられた声は、エコーの様に谺する。それは地の周囲だけでなく、天井からも響いたのだ。突如としてメルケヤルの翼を、天井から溢れ出た二本の槍形の影が貫く。
「うっぐぅ!?」
槍は翼だけでなく延長線上にある体をも貫き鮮血が噴き出す。メルケヤルは堪らず激痛に苦悶の表情を浮かべた。
影は天井に接地していた面の形だけを崩して落下、そのまま貫通した槍の先端は床へと突き刺さり、メルケヤルを拘束する。
「ぐぅ…!放、せ!」
「拒否する。天使メルケヤルの要求を拒否する。排除する。当初一ノ軍をもって、精神的な敵意の排除を実施する。これを以て排除に失敗した場合、身体的排除を実施する。」
「……ふざけるな!放せ!放──ああぁぁあぁぁ!!?」
影はメルケヤルの両手両足を床ごと貫いた。更に、絶叫をあげるメルケヤルの事などお構い無しに、刃形を用いて浅く小さく尽く創傷を加えていく。
「Oh mein gott…!oh mein gott…!」
度々上がる苦悶の声に、ミーアは堪らず耳を塞いでその場に踞ってしまう。しかし、耳を塞ごうとも叫び声を完全に遮る事など不可能。漏れて耳に入る悲鳴は余計に恐怖心を煽り、精神的苦痛に襲われているミーアの目の端には涙が浮かんでいた。
「ぐぅ!?止めろ!放せ!この悪魔が!がぁ!?」
「……移行する。一ノ軍の拘束兵を除くその他を一体に集束し、その個体への付与を切断から圧砕に変更する。天使メルケヤルの精神的敵意の排除を断念し、早急に身体的排除へと移行する。」
「なっ!?止せ!やめろ!」
無数の創傷を付けられても抵抗を止めなかったメルケヤルに対し、影は身体的排除……つまり殺害すると宣言した。制止の要求も意味はなく、床に固定している影を残し、一メートル程の小さな影へと変形する。その手には丁度メルケヤルを覆うハンマーの様な物が形取られており、先に言った"圧砕"から、ハンマーは押し潰す為の物だと理解するには易かった。
メルケヤルの顔が恐怖に歪む。切断による首の両断、貫通による心臓の穿ち、どちらも死に直結することは変わり無いが、全身を押し潰されると言う恐怖はそれを遥かに凌駕するからだ。
天井ギリギリまでハンマーが振り上げられる。メルケヤルは息も荒く、ただ恐怖に染まった目で許しを乞う事しか出来なかった。無情にもそれは届かず、ハンマーは地点を定め一時停止、そして今降り下ろさんとした瞬間──メルケヤルとハンマーの間に何者かが割って入った。
「やめろマクア!!!」
その正体は遊。影は遊を認識すると降り下ろす力に急制動を行う。しかし、勢いの付いたハンマーは直ぐには止まらず、巨大な風を起こしながら、僅かに遊の額を打ち付けた。
額から血が流れ顔を伝う。それでも遊は痛がる素振りを見せず、影を見据えたままメルケヤルを庇い一歩も引かない。
「もう止めろマクア。もう、終わりだよ。」
そう落ち着いた口調で言った。影は液体の様に弾け周囲に散らばったかと思うと、一点に集まり、朧ではなく実体的な形を作る。それは見慣れた悪魔の姿であり、変形が落ち着くと、悪魔は心底呆れた様子でため息をはいた。
「相変わらず甘い奴だ。その天使は人間の女を殺そうとしたのだぞ?」
「助けられたから良いだろって。このまま続けてたらミーアがトラウマを負ってたと思うし、今がベストだろ。それに、甘い奴とか言っておきながら、マクアもやめてくれたじゃないか。」
「……ふん。」
自身の発言を返され、悪魔は不貞腐れてそっぽを向く。これは、後は好きにしろと言うサインでもあり、遊は袖で額の血を拭った後、まだ踞っているミーアへ声をかけた。
「ミーア、もう大丈夫だよ。少しづつでいいからこっちを向いてくれ。」
「Echt?O…Okay.」
言われるままミーアは顔をあげる。少しでも恐怖を和らげようと、優しい笑顔を浮かべた遊の表情は、ミーアに余裕を持たせ、激しかった動悸を落ち着かせた。
「よし、じゃあ深呼吸をしてくれ。焦らなくていいからさ。」
日本語を使う余裕も無い状態だったが、三度ほど深呼吸を繰り返すと、僅かに残っていた震えも収まり、混乱していた頭も段々と状況を飲み込む為に機能を復旧させていく。ミーアは「アりがトウございマス」と礼を言って笑顔を向けた。それに余裕を感じた遊は、今度はメルケヤルへと向き直る。その表情は笑顔だったが、ミーアに向けていた笑顔とは違い、目は全く笑っていない。
「ちょっと場所を変える。抵抗しないでくれよ?」
庇われた事実を受け入れられず、メルケヤルは呆然自失と言った様子で訳も分からず頷いた。
場所は一階のリビング。遊とミーアはソファーに、向かいには悪魔とメルケヤルが応接椅子に座っている。間を隔てている机にはスマートフォンを置き、これからの会話を録音する用意が出来ていた。しかし、五分経過してもまだ話し合いは始まっておらず、その間は負傷した遊の額をミーアが手当てしていた。
「……ハイ、これで大丈夫デス。」
「ありがとう……ミーアは無理せずに休んでて良いんだぞ?」
「イイエ……ワタシも知りたいデス。天使の目的ヤ、ドウしてシカミューさんが狙ワれてイルのかヲ。シカミューさんにトッテは邪魔カもしレマせんガ、どウカお願いしマス。」
「いや、邪魔とかそう言う訳じゃ…。」
「良いだろう人間。その女も命を狙われた身、話を聞く権利くらいある。」
「……はぁ、分かったよ。」
巻き込むことを懸念していた遊だが、既に巻き込まれているのだと遠回しに伝えられ、観念したのか、ため息を一つ吐いて承諾した。仕切り直してメルケヤルへと視線を向けると、未だショックから立ち直れていないのか、何処かを見てブツブツと呟いていた。
「どうして……どうして……意味が分からない……どうして…。」
「メルケヤル、いい加減落ち着いてくれよ。」
「五月蝿い!どうして私を助けた!?何で私を助けた!?さっきの化け物は何だ!?悪魔のあの姿は何だ!?何なんだ!何なんだ貴様らは!一体何なんだ!!!」
「何なんだって言われてもな……俺は志神遊、ただの高校生だよ。お前を助けた理由は特に無し。これでいいか?」
「ふ、ふざけているのか!?理由も無しに命を擲つ事など出来る筈がない!況してやただの学生ごときに!」
「本当だよ。理由は無い。もし無理にでも上げるとしたら、俺はお前を助けたかった……それだけ。」
「なっ…!ななな、な、何だそれは!もし本気で言っているのなら貴様の価値観は狂っている!いや、貴様は狂っている!」
「狂っている、か……マクアにも似たような事言われたな。まぁ、それでもいいよ。それでメルケヤルが納得するのなら、俺は狂人、狂ってる。だからメルケヤルを助けた。」
自虐的な笑みを浮かべた。悲しみに溺れている様だった。その場にいる三名は遊の笑顔に同じ感想を持つ。
何かは分からないが、その"何か"が遊の狂気とも呼べる価値観を生み出したのだろう。しかし、誰も何も言わない。言えない。先程まで喚いていたメルケヤルでさえも、苦しそうな表情を浮かべて黙ってしまった。
「で、何だっけ?次はさっきの化け物は~の件だよな?その説明に関しては俺からは言えないし、マクア……も言いたくは無いんだよな?」
「お、う、うむ……天使に伝える必要はない。そもそも、貴様等天使はその事を知っている筈だ。知らされていないのならば、聞かない方が貴様の為でもあるだろう。」
「知らされて、無い…?ど、どういう事だガブリエル!何故悪魔の情報を寄越さない!?」
突然の激昂。それも、ここにいない相手にである。ミーアは当然意味が分からないと言った様子で、叫びだしたメルケヤルを見て固まっている。だが、遊は以前ハニエルからガブリエルに関しての情報を得ていた為、メルケヤルが誰に、何故激怒しているのか理解していた。
落ち着くまでの間は話し合いは中断となり、遊はソファーに深く腰掛け、呆と天井を見つめる。
考えるのは悪魔の言っていた事、「面白い物を見つけた」と言った後、悪魔から聞かされた話。もし本当だとしたら、早急に処分しなければならない。又は、不幸を対価にするか…。




