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天使の所業  作者: ふたつきひみつ
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魔力特性─遊

 約束の時間、約束の場所。裏庭の門は開け放されており、「入れ」と言葉無く伝えている。

 当初盗聴器を拾った場所、そこには先程とは違い、背中に六枚の羽と頭上に光輪を携えたサンダルフォンが立っていた。

 その表情は何故か悲しげであったが、遊に気付くと直ぐに悲しげな表情を引っ込め、不敵に笑いかける。

「来ましたか、ワーグナーにも確りと伝えてくれたようですね。」

「……やっぱりそうか。」

「はて?やはりとは?」

「お前、自己紹介の後に何か言いかけただろ。あれは『ワーグナーから聞いてませんか?』って言いたかったんじゃないか?」

「……よく分かりましたね。」

「おかしいと思ったんだ、自己紹介までのサンダルフォンは驚くほどに"自然"だったからな。」

「フフフ、まさか何も伝えられて無いのは驚きましたよ。まぁ考えてみれば、ここに来る時間が早すぎだったのですが……どうしてあんなにも早かったのですか?学舎は?」

「あ~……色々あって昼に早退したんだよ、結果オーライだったけどさ。裏庭云々(うんぬん)はミーアからこっそりメモを渡されてな。」

 遊は胸ポケットから、ミーアから忍ばされたメモと門にあった貼り紙を取りだし、サンダルフォンへと差し出した。渡されたメモと用紙に目を通したサンダルフォンは、その内容に眉をしかめる。

 当然だ、住所は記載されているが、裏庭に関しては明記されておらず、数字の羅列と意味不明な文章しか記載されてないのだから。

「これは……暗号、ですか?」

「あぁ、その通り。それに裏庭と盗聴機の事が書いてあったんだ。今思い返せば、『映るが届かぬ偽りをもって』って言うのはサンダルフォンの事だったのかもな。」

「成る程……では、あの時の握手はやはり直感だったのですね。」

「まぁそうだな…………で、こっちからも質問良いか?」

「えぇ、元よりそのつもりですよ。その為に予定より一時間早く来ていただいたので……さぁ、なんなりと。」

 口端を吊り上げ、柔らかい物腰でお辞儀をする。どうも茶化されている様にも感じるが、出会った当初の剽軽(ひょうきん)、いや、適当であれば天邪鬼(あまのじゃく)とでも言える態度を思い出し、遊は一度ため息を吐いた後、口を開く。

「まず第一に、どうしてお前は中立なんだ?いくら権能の為って言っても、天使側に不利になる状況を作る必要は無いだろ。」

「ん~……黙秘権を行使します。」

「……じゃあ、お前の言ってた運命の咎人ってのは何だ?」

「それはパスで。」

「…………ミーアとはどうやって知り合った?」

「答えません。」

「……ゴホンッ………………天使の目的は?」

「言いません。」

「人間界における天使の勢力は?」

「話しません。」

「俺以外で今最も危ない人間は?」

「しゃべりません。」

「これからの動きは?」

「語りません。」

「お前は何人目?」

「口を割りません。」

「質問に答えない理由は?」

「答えたくないからです。」

「……つっっっかえねぇ!!!何なんだよ!何一つ質問に答えてないじゃねーか!」

「おや?最後の質問は答えましたよ?」

「うるせぇぇぇ!」

 堪らず絶叫。『元よりそのつもり』と言っていたのは何だったのか。確かに遊は質問をしても良いのかを聞いただけで、答えてくれとは言ってない。しかし、有益な情報を何一つ得られないとは、全くの予想外であった。

 そして、遊は一拍間を置き気付く。一見何の益も損も生じていないように思えるが、その実、圧倒的に遊に損が発生している事に。

 味方であろうミーアの家だとしても、この家は天使によって用意された場所、言わば敵地である。そんな中で絶叫をしてしまった事は明らかな損であろう…………と言うことではなく、最も大きな損失は遊の問い。つまり、"質問した事に関して遊は知らない"のだと、天使側へ明確にしてしまったのだ。

 悪魔が知っている情報もあるだろうが、それを素直に教えるかどうかはまた別の話。更に後者四つに関しては、天使からしか得られない情報である。完全後手である遊にとって天使側へ情報を与えると言うのは、天使の行動の選択肢を増やし、人間側への危険を高めてしまう事になるのだ。

「……まさか嵌めたのか?」

「フフフ……私、中立ですから。」

「はぁ、止めだ止め。これ以上無駄に損するのもバカらしい。」

「まぁ安心してください。これから聞き取れる会話は、貴方の損失以上の価値がある筈なので。」

「…………信じて良いのか?」

「結果が明瞭でない事に対しての発言は嘘にはなりません。しかし、何の自信も成功のビジョンも持ち得ていない発言はできません。それが天使の枷ですから。」

 遊は黙り、より一層眉間にシワを寄せた。

 嘘をつけないのならば、サンダルフォンの言っていることは真実だろう。しかし、その表情は相変わらず歪な笑み。その為、一言「分かった」と言って納得するのには些か不安が残った。更に、最後の『天使の枷』という言葉。サンダルフォンはいったいどんなつもりでその言葉を放ったのか、遊の疑心は積もるばかりである。

 かと言ってこのまま黙る訳にも、疑問を投げ掛けるわけにもいかず、納得はしないまでも上澄みの返事を返す。

「分かった……じゃあ後の時間はどうするんだ?まだ本来の予定から四十分も早いぞ?」

「そうですね、でしたら私からも質問をさせてください。」

 歪な笑みからニッコリと明るい笑みへ一転。しかしそれは、純心等とは程遠く、馬鹿にする様な揶揄(からか)う様な笑みである。

 遊の質問には答えなかったサンダルフォンが、自分も質問をしたいなど馬鹿げた話だろう。これも中立の為だろうか、考えを巡らすのも面倒になった遊は、呆れながらもため息を一つ吐いて、「勝手にしろ…。」と先を促した。

「ありがとうございます。では……貴方の"特性"は何ですか?」

「……は?特性?」

「えぇ、勿論魔力のですよ。」

「魔力の特性?」

「はい?はい。」

「…………ん?」

「…………え?」

 思いがけない質問に、遊は堪らず首をかしげた。その反応にサンダルフォンも首をかしげる。両者共に「何をいっているんだ」と言いたげであり、相手の言葉を待っている状態。暫しの硬直状態の最中、ここで助け船を出したのは残る一名……そう、悪魔である。

「人間、貴様は魔力を使った事があるはずだぞ。」

「は、え?俺が魔力を?いつ?」

「思い出せ。ザドキエルの時を、クシエルの時を、そしてその時の違和感を。」

「ザドキエル……クシエル…。」

 混乱しながらも頭を捻る。ザドキエルもクシエルも闘った事はあるが、その方法は全く別。真正面から対峙したクシエルとは異なり、ザドキエルは遊が直接闘ってはいない。寧ろ、悪魔と結夢が功労者だと言って良いだろう。

 果たしてそんな中で、恐らく同じ様な効力で、無意識に、どう魔力を使ったと言うのか。

(違和感を探れって言っても、おかしいと思ったのはマクアが人間の姿に見えた事くらいか?だったら幻術の類い……じゃあなさそうだな。クシエルの方でそんな事は無かった。他に違和感を感じたところは何処だ?)

 夢の中では殆どの事が有りになってしまう。そんな中でもあり得ない違和感を探せと言うのは中々に難しい。そこで遊は見方を変えることにした。

 今思い出せる違和感を挙げてくのではなく、後に聞いたザドキエルの能力と、自身の体験した事の圧倒的矛盾を探すのだ。

(ザドキエルは記憶を媒体に仮想世界を造っていた。途中は紫野月の記憶も合わせたから、曖昧だったクラスメイトも存在することができたんだよな…。そう考えるとやっぱり、人間の姿のマクアが一番怪しいけど……まぁ、それは"輪廻"の影響なんだろうなぁ。後は、紫野月が消えてから世界が曖昧になって、夢の中の人は人の形を保てなくて…………いや、おかしいだろそれは。じゃあどうして久留の姿は変わらなかったんだ?確か俺が最後に見た久留は、紫野月が消えた後だった筈だ。)

 思い返して思い当たった。結夢の記憶で他の者を補っていたのなら、結夢が消えてからは凛華も含めて人の形を保てない筈なのだ。確かに初対面の印象は強かったが、一年同じだったクラスメイトは人の形を保てないのに、それを押し退け凛華が保っている理由は納得がいかなかった。

 そこまで考え、連鎖的に出来事を思い出す。ザドキエルから解放され、日常に戻った際生じた──"デジャブ"。

 朝起床してから凛華に出会うまでの道筋が、ザドキエルの見せた仮想世界とほぼ一致していたのだ。堪らず遊はザドキエルの仕業を疑ったが、その時はハッキリと悪魔に否定された。

(そうか……これだ、これだ…!これなんだ!俺の特性……"能力"は!)

「気付いた様だな人間。」

「あぁ……ってか、マクアも知ってたんなら教えてくれても良かっただろ?」

「直接教えては意味がない。知識と言うモノは、自ら解き明かしてこそ真実になるのだ。」

「ザドキエルの時にも似たような事を言ってたな。まぁ分かったから良いけどさ、もう少しヒントをくれてもバチは当たらないぜ?」

「検討しといてやる。」

「頼むぜ?」

「あぁ、検討の結果無理だった。」

「早いね!?検討する気が更々無いね!?」

 遊のツッコミも虚しく、悪魔は聞く耳持たずと言った様子で背を向ける。これ以上食い下がったところで結果は変わらないだろう。遊はため息を一つ吐いて、本来の質問者であるサンダルフォンへと向き直った。

「…………悪いなサンダルフォン。今やっと自分の特性を理解できた。」

「知らないのは驚きでしたが、結果的には良しとしましょう。それで、貴方の魔力特性は?」

「ははは、教えるわけないだろ。どうして更に損をしなきゃいけないんだよ。」

「ふふふ……まぁそうなりますよね。でしたら情報交換といきましょう。先程貴方がしていた質問の内、二つまでなら答えましょう。それでどうですか?」

 皮肉を交えて拒否をしたのに対し、それを元から予想していたのか、サンダルフォンはスラスラと交換条件を提案した。当初の質問に答えなかったのはこの為か、しかし背に腹は変えられない。遊は渋々ながらも条件を飲まざるを得なかった。

「…………分かった、それで取り引き成立だ。じゃあ早速だけど、どうしてサンダルフォンは中立に固執するんだ?」

「理由は二つです。一つは私の権能を最大限行使する為。そしてもう一つは、私の……いえ、"私達"の望みを叶えるためです。」

「望み?何だよそれは?私達ってことは、天使の目的に当たるんだろ?」

「その質問には答えませんよ。先程も言った通り、私が答えるのは先程提示した質問のみなので。」

「この質問はさっきの質問の延長だろ。不明瞭な点をもって答えとするのは通らないんじゃないか?」

「中立である事に関しての答えとしては問題無い筈です。どうしても聞きたいのなら、最後の質問権を行使してください。」

「…………分かった、これ以上の詮索はしない。」

「懸命ですね。では最後の質問を。」

「最後の質問は決まってる。俺以外の人間で最も危険なのは誰だ?」

「それは貴方の周りで、と言う事で良いですか?」

「そうだな、そうしてくれ。」

「でしたら、そうですねぇ……危険度で言えばワーグナーです。」

「ミーアが!?今はまだ無事なのか…!?」

「落ち着いてください。空く迄危険度の話であって、今の話ではありません。」

「そ、そうか…。」

「これで私の回答は終了です。次は志神遊、貴方の番ですよ。」

「あぁそうだったな。俺の特性は──」

 ザドキエルは対象者の記憶を媒体にする。それによって組み上げられた仮想世界は、現実と同じ流れを作り上げた。

 クシエルとの戦闘において、目前まで迫っていた鞭を避ける。土煙によって目が開けられない状態で、鞭が迫るのを確認した。空に投げ出され猛攻を受けている中、鞭の軌道をハッキリと見た。

 全て偶然では無かった、悪魔の力でも無かった。全ては……遊自身の能力(ちから)。その特性とは──

「──未来視、俺の魔力特性は未来視だ。今のところは近い未来しか見たことが無いし、意識して使うことは出来ないけどな。」

「未来視……それに近い未来のみ、ですか…。」

「……あんまり驚かないんだな。未来視が特性ってのは結構いるのか?」

「いいえ、その特性はかなり珍しい部類です。私が気になったのは、近い未来しか見ていないと言うところです。」

「そんなの訓練とか練習で伸びたりするんじゃないか?」

 能力の成長と言った、ゲームやマンガならば至極当然なアビリティを、遊は仄めかして問いを投げた。(ことごと)く触れ続けている非現実に、今が現実であると言う感覚も狂わされ、自身の質問に疑問を持つことは無い。

 それを見かねたのか、背を向けていた筈の悪魔が割って入り、一発軽いデコピンをかまして遊の意識を自分へ向けさせる。

「ここはゲームやマンガの中じゃないのだぞ。特性は発動した時点で最上だ、それ以上でもそれ以下でもない。貴様の特性は近い未来を見る事。後出来る事は、自分の意思で行使できるかどうかだ。」

「う、ご、ごめん。ちょっとばかり浮かれてた……でも、だったらどうしてサンダルフォンは首を傾げてるんだ?」

「それは………知らん。」

 歯切れ悪く否定し再び背を向ける。明らかに思い当たる節がある様ではあるが、先程と同じ、聞きたい事は山ほどあるが、これ以上詮索しても口を割ることは無いだろう。

 観念してサンダルフォンへ向き直ると、此方も此方で腕を組み、神妙な面持ちでブツブツと呟いている。

「どうやら此度で終わらせるつもりの様ですね。運命の咎人……本当に何処までも自由な…。」

「おい、どうしたんだよサンダルフォン。何をそんなにブツブツ言ってんだよ。」

「え?あ、あぁ……何でもありません。っと、そろそろ時間ですので移動しましょう。」

 そう言ったサンダルフォンは行き先も告げず歩き出す。時間と言ってもまだ十五分早い。悪魔と同じく明らかに何か思い当たる様子であるが、結局何も聞く事はせず、遊は一人取り残された様な疎外感を感じながらもついていく。

 確かに分からないことだらけだが、問題は、本命は今。好奇心や疑問は心の奥へ押し込み、ミーアが伝える"何か"へと頭を切り替え神経を集中させる。


 果たして、鬼が出るか蛇が出るか。しかし、どちらが出ても不運に変わりは無いのだろう。



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