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天使の所業  作者: ふたつきひみつ
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中立

 家を出た遊はメモ用紙に記載されている住所へ向かう。急ぎではあるが決して走りはしない。目立ってはならないのだ。そのため、制服のままではなく私服に着替え、怪しくない程度に帽子で顔を隠す。目的地は徒歩で三十分程、丁度紫野月家の方角であった。

 悪魔には目的地に着くまでの間、極力屋根を伝って同行してもらう。側にいるのは勿論、上空を飛んでいても、進行方向が同じならば結局他人の目についてしまうからだ。率いているのか、追われているのかの判断は別として。

 目的地にたどり着いたそこには、一般家屋よりも二周り大きな家。豪邸とまではいかないが、立派と言うには十分すぎる。

「人間、いい加減訳を話したらどうだ?」

 到着したならば隠れる必要は無い。周囲に人がいないのを確認し、悪魔は遊の隣に現れそう言った。但し、その視線は遊ではなく正面にある門へと注がれている。そして、その門へ注目しているのは遊も例外ではない。

 門には二枚の紙が貼り付けられていた。

 一枚は『141244215575254315254315931581』と数字の羅列が書かれており、もう一枚には謎の文章が記されていた。


『愚行を考え奇行に走れ。


 神子は弔旗、頭を探す。

 平の神子、片は重苦。

 汚れし地の中央にて感覚は共鳴する。

 右目に映る空、左目に映る大地を手掛かりに。

 映るが届かぬ偽りをもって。

 まるで鏡に映る景色の様。

 共鳴は終わり、全てを擲つ。

 最後に触れるは鏡の景色に非ず。』


「貴様が急いでいたのはコレと何か関係があるのか?」

「うん?まぁ関係ある……と思う。」

「何だその玉虫色の返事は。」

「確かに急いでいたけどそれは別の理由なんだ。この貼り紙の事は知らない。」

「むぅ……まぁいい、その理由とやらは後で聞かせてもらおう。とりあえず、この明らかに怪しい暗号を解くのが先決か。」

「まぁそうだな……で、ちょっと質問なんだけど、"Hinterhof"って何か分かるか?」

「Hinterhofとは"裏庭"の事だ。それがどうかしたのか?」

「あぁそうなのか、じゃあ向かおう。」

 急な質問に回答した悪魔が何の事だと首を傾げている間に、遊は貼り紙を剥がしてポケットへ押し込むと、行き先も告げず歩き出してしまう。

「お、おい人間!何処へ向かう!」

「ん?裏庭なんだろ?」

「………………は?まさか、もう解いたのか!?」

「まぁチグハグな暗号だし、それに知らない単語……ミーアの出身からドイツ語?もあって迷ったけどな。」

 絶句。悪魔は口をあんぐりと開け固まってしまう。考えを巡らす前に遊が解いてしまった為、暗号が難解であったかは分からないが、だとしても明らかに早すぎる。到着してからものの三分、しかも会話をしながらであるにも拘わらず、だ。結局、先を行く遊に催促されるまで悪魔は動けないでいた。



 裏庭、外と繋がる門には南京錠が掛けられていたが、よく見ると施錠まではされていない。念のため素手ではなく手袋……は無かったので、近くの落葉を代わりに指紋を残さないよう南京錠を外す。

 侵入して先ず出た感想は『汚い』であった。多くの植物、特に雑草が好き勝手に生え、土壌は所々隆起、又は陥没しており、恐らく柵であろう金属はボロボロに腐食している。何年、下手したら何十年単位で手入れを施していないそこは、表の見てくれとの差に言葉を失いかねない。

「なんだこれは……酷すぎて目も当てられん。」

「まぁ玄関側と比べると確かにな。」

「玄関側の草木は整えられていたにも拘わらず、何故ここは手を加えていない?」

「それは仕方無いだろ。隠さないといけないし。」

 そう言った遊は徐に歩き出す。

「隠す?何を?」

 庭の中央、オブジェらしき柱の前まで近付くと、一度しゃがみ、何かを手に取ると低い姿勢のまま悪魔に見せる。

「コレだよ。」

「何だそれは?」

 遊が見せた物は、手に収まる黒い長方形の箱。箱の右上からは細い棒のような物が伸び、左上からはコードとその先にイヤホン。無線受信機やラジオの様にも見えるが、これはそんな綺麗なものではない。遊が手に持っている物の正体は──

「盗聴器。」

「……盗聴器だと?だとしたら、今ここに俺と人間がいるのが筒抜けではないか?」

「違う違う。これは確かに盗聴器だけど、盗聴する方…つまり受信機。」

「む、確かに。よく見るとそうか。しかし、ならばそれは何処を盗聴しているのだ?」

「多分だけどこの家の中、どこかの一室だな。」

「なるほどな……あの女が天使の話を引き出すと言うことか。」

「でも、このタイプの有効半径は100メートルが限界だから、家の近くで待機しなきゃいけないんだよなぁ…。」

 悪態をつきながらも、盗聴器を立ち上がる動作と一緒にポケットへ隠す。

「なにか問題があるのか?」

「ありありだよ……ミーアは国家機密レベルの人物なんだぞ?それを天使が許可したって事は、確実にミーアは天使の保護下に入ることになる。ミーアの側にメルケヤルだけしか天使がいないとは思えない。もしかしたらここも見張られている可能性だってある。」

「なんだと!?ならばこんな堂々としていては──」

「勿論、いけませんねぇ。」

「「!?」」

 突如背後から発せられた男の声。確かに悪魔の懸念は遊も感じていた。だからこそ盗聴器は見えない様低い姿勢のまま悪魔に見せ、立ち上がる際には、動作に会わせて自然にポケットへ入れたのだ。

 しかし、このタイミングで話しかけたと言うことは、姿を現したと言うことは、遊達の行動や言動を全て把握している証拠だろう。

 反射的に振り返った両名の前に立っていたのは、白長髪を後ろで束ねた色白長身の男。この男がどのように音もなく現れたのか皆目見当がつかない。何か能力を使ったのだろうか、そう言った考えが遊の頭に浮かぶことはなかった。何故なら、その男には光輪も翼も無かったからだ。

「志神遊とハルマートですね……初めまして。」

 男はゆっくりとした動作で右手を差し出す。

「っ!?」

「………?何を驚いているのですか?ただの握手ですよ、握手。」

「……悪いけど、素性も知れぬ奴と握手は出来ないな。」

「え?あぁ、名乗ってませんでした。私、サンダルフォンと申します。」

「なっ!?」

 サンダルフォン──天界の一部を支配しているとされる天使。天使でありながら神の意を表す"エル"を持たぬ天使。それは他の天使との出生の違いによる影響か。

 遊が驚いた理由はもう一つ。天使全集よると過去一度も天召された記録は無く、にも拘らず、文面のみの紹介がなされている。その姿は女性であり、光輪と四枚の翼を持つと記載されており、明らかに遊の目の前にいる男とは合わないからだ。

 天使の名を語る狂人か、それとも本物の天使か、どちらにせよ警戒を解くには無理がある。

「わ………………私の自己紹介は終わりです。では、仕切り直して。」

 男は何かを話そうとしたが口を閉じ、僅かな間を置くと再度、笑顔と共に右手を差し出した。男の目は深く、暗い暗い闇を感じさせる。否、それは事実ではなく、動揺や不安がそう錯覚させているのだろう。

 悪魔は遊がどう決断しようと良いよう、男の一挙一動に神経を張り巡らす。いざとなったら間に入り、盾となるためだ。

 遊は考える。男が天使の仲間であればその手は当然罠である。しかし、そう断定するには些か違和感が拭えない。本当にこの男はサンダルフォンなのか、本当にこの男は天使の仲間なのか、遊は考える。この手は果たして友好か、それとも敵対か、遊は考える。

 時間の猶予はない。ほんの一呼吸後には引っ込められてもおかしくない。手を取る……たった一つの動作に、これ程恐怖を感じた事はかつてあっただろうか。

(どうする!?光輪も翼も無いが、足音もなく、気配も悟られず近付くなんて人間のできる芸当じゃない!何処かに隠れている天使の能力か?だとしたらコイツは天使の仲間…………でも、だったら攻撃を仕掛けなかったのは何故だ!?……クソ!何なんだ!さっきから感じている違和感は…!)

 迷いは晴れない。疑いは消えない。心配は尽きはしない。だが──

「あぁ、初めましてサンダルフォン。よく分からんけどヨロシクな。」

 遊はその手を取った……先程の葛藤など嘘のように、堂々とした態度でその手を。勿論精一杯の強がりである。罠でない確証は無く、味方である保証も無い。信じたものはただの直感だ。

 握手を返された男は予想外だったのか、一瞬ポカンとした表情を浮かべ、その後……笑った。

「あっはははははは!面白い!面白いですよ志神遊!流石は"運命の咎人"!貴方は何処までも自由だ!」

 その笑いは決して嘲笑ではなく、どこまでも純粋だった。急な大笑いに今度は遊の方が面食らい、握手をしたままポカンとしてしまう。

「はははははは!あぁ~笑った笑った……試すような事をして申し訳ありません。」

「試す?じゃあアンタは味方なのか?さっきの名前は嘘だったのか?」

「いいえ、私の名前はサンダルフォン……正真正銘の天使ですよ。しかし中立です。私は貴方の敵であり味方である。」

「中立?」

「えぇ中立です。でなければ私の権能は意味がない……と、まぁ話はこのくらいにして、先程拾った盗聴器を貸していただけますか?」

「ん、あぁコレ?」

「ありがとうございます……ふんっ!」

 バキッ!という破砕音。半ば混乱状態の遊が言われるままに盗聴器を渡すと、サンダルフォンは間髪いれずそれを叩き割った。

 唐突な出来事に再度固まる遊。それは、サンダルフォンがもう一度盗聴器を叩き割ったところで(ようや)く解けた。

「……え!?ちょ、おい!何やってんだよ!」

「まぁまぁ怒らないで下さい。私は中立なので、貴方の損になる事もしなければならないのです。代わりと言っては何ですが、どうぞコレを。」

 慌てる遊を嗜めて、サンダルフォンが懐から差し出したものは、見覚えのある長方形の箱。否、見覚えがある程度では済まない。差し出されたものは、ついさっきサンダルフォンに破壊された盗聴器だったのだ。

 遊、三度目の硬直。

「どうぞ受け取ってください。先程破壊したのと同じ型の物なので、盗聴するには問題ありませんよ。」

「……………………。」

「人間、戻ってこい。」

「あ、ごめんマクア。情報処理が追い付かなくてショートしてた…………で、サンダルフォン。どうして破壊したばっかの物を俺に渡してくるんだ?」

「だから中立のためですよ。先程盗聴器を破壊してマイナス1、その後同じものを渡してプラス1、ほら中立ですね。」

「いやいや待てよ。壊す前が0だったなら、わざわざ壊す必要はなかったんじゃないか?」

「それはこちらの都合です。」

「………………はぁ~。」

 到達点の無い会話に遊は頭を抱える。味方でないならば、掘り下げたとしても有耶無耶にされるのがオチだろう。敵でもないのならば、差し出された盗聴器は受け取っても問題ないだろう。だろう、だろう、だろう……憶測と不透明な理論は、結局"何故"の壁を越えられない。

 すると、呆れた様子の遊を置いて、サンダルフォンの前に悪魔が割って入った。先程までの警戒は今や完全に無く、その目は寧ろ興味が浮かんで見える。

「翼も光輪も"見えなくしている"のだな……ふん、喰えない奴だ。」

「おや?ハルマートは私の権能をご存知で?」

「その名で呼ぶな。天使の考えた名はヘドが出る。会話が聞こえる範囲に人間はいないのだ、俺の事は悪魔と呼べ。」

「それは失礼……それで、悪魔はどうして私の権能を?」

「その答えに掛かる質問をしてやろう。貴様……"何人目"だ?」

「ふむ……成る程、そう言うことでしたか。それなら納得です。ですが質問には答えません。私、中立なので。」

「……本当、喰えん奴だ。」

 真意の見えない会話に、やっと遊の思考は落ち着きを取り戻す。

 先程遊と交わした会話や、今悪魔と交わしている会話の疑問を投げ掛けるため、声を掛けようと……したところでサンダルフォンは丁度踵を返した。

「さて、そろそろお暇します。本日の20時……いえ、19時にまたここに来てください。詳しい話はその時にでも。」

 サンダルフォンはその場に飛び上がると、重力に引っ張られること無く滞空する。翼もなくどうなっているのかと、遊が一度の瞬きをした(のち)に、頭上には光輪、そして背中には四枚の翼が現れた。

 驚きの声を上げる間もなく、サンダルフォンの姿はまるで煙のように消えてしまった。

「行くぞ人間。人間の女と天使が戻ってくる前にここを離れる。」

「え、あ、あぁ…。」

 いくつもの疑問を残し釈然としない遊は、そんな生返事を返し、半ば引かれるように悪魔と自宅へ戻った。



 約束の時間まで残り三時間、移動の三十分を考慮すれば残りの時間は二時間半。残された時間で遊のやることは一つ、悪魔への質問だ。

 会話内容から、悪魔がサンダルフォンを知っていた事が伺える。それも、かなり理解が深いようである。反面、サンダルフォンは悪魔と初対面であると言うのはおかしな話、その(ことごと)くを追求するべく、遊は自宅へ戻ると悪魔をリビングへ呼んだ。

「なぁマクア、サンダルフォンってのは一体何者なんだ?」

「何者、か…。それを答えるのは難しい、奴は俺の知っているのとは異なるからな。分かることと言えば智天使(ケルビム)である事と、中立であると言う事だけだ。」

「う~ん、ケルビムがどの程度かはよく分からんけど、中立に関しては気になるな。どうしてあんなに拘ってるんだ?」

「それは、奴の権能を最大限発揮するためだろう。」

「権能……って言うと能力の事か。あの時の感じから消える能力か?でも、そしたら中立の理由がないし…。」

「奴の権能は"叛逆(はんぎゃく)"、味方のあらゆるモノに逆らう能力だ。」

「は、叛逆…!?随分穏やかじゃない能力だな…。それに味方にしか使えないって……まぁ、だから中立なのか納得…か?」

 権能の内容を聞いてやっと中立への拘りを理解したが、すると明らかに不自然である。以前の問題として、権能を行使する前にどうやって味方となったのか、そしてそも、天使が悪魔と共にいる人間の味方になれるものなのだろうか、この二点がどうしても納得に疑問を掛ける。

「……貴様が納得出来ないのは無理もない。奴が中立である理由はもう一つあるからな。これは奴の出生に関係しているが。」

「出生?そう言えばマクア変な質問してたもんな。『貴様は何人目だ』って。て言うか、天使全集にはサンダルフォンは女性の姿って書いてあったのに、それと違う事とも何か関係があるのか?」

「そうだ。だがその質問に答える前に、一つ俺の質問に答えてもらおう……貴様は天使に寿命があると思うか?」

「え、寿命?いや、天使が死んだ~なんて話は聞いたこと無いし……でも姿が全く別になったりしてるし……寿命は無いけど世代交代は有るって感じかな。」

「ふむ、ほぼ正解と言って良いだろう……奴等には寿命が存在しない。何故なら、天使の体には"時間と言う概念が無い"からだ。」

「時間と言う概念……時間の影響を受けないって事か。つまり、天使は外的要員が無ければ死なないんだな?」

「そうだな、死にはしない……だが、消滅はする。」

「どう違うんだよ?」

「時間の影響を受けないと言うことは、自然治癒と言ったものも存在しない。一度欠けた部分は再生せず、受けたダメージは残存する。それを修復する方法は一つ、魔力だ。」

「魔力だって?おかしいだろそれは。魔力は人間にしか無いって言ってたじゃないか。」

「そうだな、だから人間から集めているのだ。貴様は見ただろう?天使の所業を。」

「っ!?」

 望むでもなくフラッシュバックする光景、陰惨で無惨な光景の中で、天使が行った解体の後を思い出す、魂の説明を受けた際悪魔が言っていた言葉も合わせて。

 そこで(ようやく)く繋がった。ショックによって半ば忘れていた天使の目的、鈍く光る拳大の塊の事、そしてその正体。

「まさか…まさか…!」

「そう、あれこそ魔力……その結晶だ。」

「で、でも待ってくれ!魔力は目に見えないんじゃないのか!?どうして塊として存在しているんだ!?」

「人間は死ぬと魔力の増幅が打ち止めとなる。それは何故か?魂は天界へ向かい、"時間の影響を受けない"体へと姿を変えるからだ。」

「なっ!?お、おいそれって…!」

「そう、人間は元は天使。死んだ人間が必ず天界へ行く理由は、在るべき場所へ帰るだけの事。そして、天界へ入った人間の魂が本来の姿……天使の姿に戻る事によって、本来存在しない筈の魔力は行き場を失い体内にて圧縮、結晶となって残るのだ。どこに有るかは魔力が結晶化したタイミングにより異なる為、天使共はあの様な行為を行っていた。」

 大きな精神的衝撃が遊を襲う。しかし繋がった。断片的にだが、半端に与えられた情報が細い糸程度の繋がりを見せたのだ。

 いつもならばここで疑問を挟んでいただろうが、細い細い繋がりの糸を切ってしまわない様、慎重に情報の整理へと努める。僅か十秒程の間で概ねの整理を終わらせ、遊は悪魔へと視線を向け続きを促す。

「……さて、話を戻そう。先程も言った通り、本来なら魔力は天使に存在しない。体の修復のためとは言え魔力を体に流す事は、例えるなら、部品の固定に長さの合わないネジを使用する様なもの。絞めれたとしても必ずそこから分解が始まる。それが限界に達した場合、天使は消滅する。」

「それって、結局外的要員が無ければ消滅しないだろ。」

「その通りだな、だがもう一つ、天使は魔力を行使する場面がある。」

「もう一つ……あっ!権能か!」

「そうだ。天使共は魔力を道具に宿しているが、能力を行使するには自身の体へ一度流す必要があるのだ。奴等の能力行使の限界は、魔力への耐久限界、そして道具に宿された魔力量に関係している。」

「道具の魔力が無くなれば権能は使えないし、耐久限界がくれば自身が消滅するって事か。」

「その通りだ。しかし、天使には功績によって階級が上がる昇華と言うものがある。昇華すると権能が強化、または付与され、体もそれに伴い進化する為、下位天使ならまだしも、上位天使の能力行使限界を狙うのは難しいだろうな。ついでに、昇華によって一定の水準まで達した天使は、その特性に見合った上位天使と交代する事になる……これが貴様の言った世代交代と言う奴だ。」

「交代した天使はどうなるんだ?」

「交代は上位天使が消滅に近いタイミングで行われる。交代した場合は止めの魔力を流し、自ら消滅する決まりだ。」

「そっか…。」

 自ら消滅とは、人間で言うとこの自決に他ならない。天使は今までソレを続けてきたのだろうが、やはり自決の恐ろしさ、寂しさを考えてしまう。そんな風に感傷的になっている遊へ、悪魔は「では本題だ」と切り出し、思いがけない言葉を言い放つ。

「当のサンダルフォンには魔力による消滅が無い。」

「は!?」

 いきなりの前提否定。今までの説明は何だったのかと怒りが沸くが、そこである事に気付いた。今までの説明があったからこそのソレは、確信にも近い仮説を組み立てる。

 サンダルフォンは天召の記録が無いにも拘らず姿の記述ある、天使だが魔力による消滅が無い、持っている権能は叛逆。比して、人間は元は天使、当たり前の様に魔力を持っている、似ているようで相反する存在。

「サンダルフォン……奴は…。」

 天使と人間の利点や関係を合わせた存在、頑なに中立を守ろうとする天使、そしてもし、本当に天召されたことがないのならば、サンダルフォンの正体は──


「──人間界にて天使となった人間だ。」


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