サイン
悪魔祓いとは、その名の通り憑依した悪魔を祓い、浄化する事を生業とした人間の事である。三世紀頃から存在していたとされ、大々的ではなく、水面下にて徐々に広まったが、とある出来事を境に広く知られる事となった。
しかし、広まれば粗悪、悪徳な手口が生み出され、それに懸念を抱いた中心国及び周辺の各国は、"実態の無いモノを有るとして扱うことは、不完全を完全と扱うことと同義であり、その行為、思想は悪魔よりも人々に恐怖を与える"と言った文書を振り撒き、今から数世紀も前、二十一世紀に廃止された。
戻って、ミーアは数世紀も前に"国によって廃止"された職業であるエクソシストだと言う。そんなものを口にして良いのかと言う疑問が浮上するが、本来の問題は以前の事。そも、数世紀も前に廃止された職業が今も尚知られているのか、なのだ。
その疑問に答えるように、結夢はミーアの口にしたエクソシストと言う単語に対して、腕を組み首をかしげている。
「エクソシスト?なんだそれ。ドイツでは結構有名な職業なのか?」
「ン~?ナンとも言えないデスねぇ。有名と言えバ有名デスが、またチガウものですシ。」
妙に引っ掛かる曖昧な返答に、結夢は益々首を傾けてしまう。不透明な部分に指摘を入れようと……したところで、遊が何故か目を輝かせてミーアに迫った。
「エクソシスト!?ってことは『ヤハウェ』の原型か!?」
「ち、チョット近いデスよシカミューさ、サン?」
「スゲエな~!天使が認知してるってことは、本物なんだろ!?まさか日本で本物に会えるとは思わなかったぜ!うんうん、こりゃ運命だな!」
「う、運命!?そ、そそソンナ事急にイワれても、こま、困るマスよ!」
「いやいや、こんな状況運命としか言いよう無いだろ!エクソシストって一回会ってみたかったんだよな~!あぁ~もう~ありがとう!」
感激のあまり身を近づけ、ミーアの手を取り、乱暴にブンブンと握手をした。先程まで蠱惑的に誘っていた筈のミーアは、押されると弱いのか、頬を赤らめ、引きつった笑みで状況についていけないでいる。
ハニエルと悪魔は「天然ジゴロ…。」とでも言いたげな表情で呆れ、結夢はまたも吃音症の様に言葉がでない。その反面、栞は心の底から喜びを表現している遊の姿に、うんうんと嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「今日ミーアの家に行っても良いか!?」
「ファー!!?本気……イエ、正気デスか!?」
「本気も正気、大真面目だ!」
「あわワワワ……こ、困るマス!困るデス!」
「何で?どうして?何か見せられないものでもあるのか?」
「そ、そうではナイですケド…。」
「よし!じゃあ大丈──」
「夫な訳無いだろゴミ虫がー!!!」
「ぶはっ!?」
突如響き渡った怨嗟の声。それと同時に遊は、腹部に強烈な衝撃を受け、訳も分からず吹き飛び窓のサッシへ腰を打ちつけた。
生涯聞きたくないゴキッという音を体内から響かせ、余りの激痛に床をのたうち回る。
「のおおぉぉ~!」
「こんな美人の家に押し掛けようなんて、遊先輩は何を考えてるんですか!」
のたうち回る遊などお構い無し。血相を変えてそう叫んだのは、案の定凛華であった。
遊の犠牲と凛華の登場で、先程まで壊れかけていた結夢は正気に返り、叫び声に釣られ凛華へと意識を向ける。
「く、久留!?」
「結夢先輩もどうして止めないんですか!」
「え!?あ、いや、それは…。」
「ぐぐ、おおぉぉ~…(ぶくぶく)!」
「ゆ、遊くん!」
「オーマン!シカミューさんがアマりの痛みに泡ヲ吹いてマス!」
「そんな事はどうでもいいんです!」
「「えぇ!?」」
「今は貴女の貞操の危機だったんですよ!」
「い、イヤ…シカミューさんはワタシの誘いを断ってマシたし…。」
「んなぁ!?誘った!?断った!?こ、こんな美人からなんててててて…!」
ブルブルと痙攣を起こしながらショート寸前の凛華。それでも敵意は深いのか、ビクンビクンと危機的状態の遊にめがけ、ほぼ無意識に右足で踏みつけようとする。
慌てて結夢が止めに入るも、今の凛華には言葉が届いていない為、結局ミーアと栞含めた三人で力ずくで止めることとなった。
凛華を止めて調度、授業開始の予鈴が鳴り、凛華は一度遊たちの教室を後にした(勿論悶絶している遊を放っておいて)。
それから授業終了の二分後に、万勉の笑みを浮かべて元気よく登場。目的は結夢とミーアだと言うのは考えなくても分かる。そして、それが分かっていれば、そも、遊の教室に来ることも分かっていた。既に集まっている先程と同じメンバーの中、遊は凛華を視認すると、怒気を纏わせた風で問いかける。
「…………おい後輩、何か言うことは無いか?」
「……あぁ~……蹴ったことに関してですが。」
「うん。」
「最高に気分がスッとしました。」
「誰が蹴った感想を聞いてんだよ!」
「いい歳こいて絶叫しながらのたうち回るって……ウケますね。」
「あ・や・ま・れ・っつってんの!」
「い・や・だ・って言ってんです!」
「えぇ!?」
逆ギレも甚だしい凛華の態度に、言葉を紡ぐのは憚られ、遊は驚きを示す事しかできなかった。
明らかに凛華の強情が原因となっている泥口論(口論とも言えないが)に、結夢は既にいつもの事ムード。栞はあわあわと行く先をを心配するだけで、ミーアは急に登場した上、場を掻き乱した凛華に呆気にとられている。
勿論、天使と悪魔は関わりたくない為、少し離れた場所で傍観していた。
「とにかく私は悪くありません!そもそも、国宝指定されるべきJKの家に行きたいなんて、遊先ぱ……ゴミ虫の分際で何を考えてるんですか!」
「容赦ないな!?てか何で酷い方に言い直した!?」
「ま、マァマァ……シカミューさんもクルさんも落ち着イテ下さイ。お二人トモ自身ノ悪い点は理解シテいまスよね?」
「「悪い点?どこ?」」
「……………………。」
皆目見当がつかないと言った様子。冗談も嘘も含まれていない純粋な回答に、ミーアは引き吊った笑顔のまま一瞬固まってしまう。
それにより対処しきれないと判断し、ミーアは結夢の肩に手を置くと、「任せマシた。」と言って自分の席へ戻ってしまった。
「え、え~と…だな……ゴホンッ!久留の悪い点は、直ぐに手を出す事だ。」
「手じゃあり──」
「手じゃなくて足を出したとか、下らない揚げ足とりは怒るぞ?」
「む、むぐぅ…。」
「今は口で注意したけど、それを飛ばして、いきなり引叩かれたらショックだろ?」
「結夢先輩から引叩かれる……アリ、ですね。」
「……志神から。」
「あらゆる手段を使って社会的に抹殺します。」
「う、うん……まぁ、イラッとくるよな。つまりそう言うことだ。逆も然りって事。」
微妙な着地点ではあるが、とりあえず理解してもらった様なので、凛華への説明を打ち切り、次は遊へ説明をするべく体を向ける。凛華の歯に衣着せぬ言動により、遊は少々怯えているものの、話を聞かせる場合は好都合。結夢は少し私情も交えて指摘することにした。
「志神はあれだ……まぁ、デリカシーが無いってとこだな。」
「デリカシーが無い?いやいや、俺って割りと傷つきやすいし、結構気を遣うタイプで…。」
「そう言う意味じゃねーよ!周囲に対してのデリカシー!」
「周囲に対して……って紫野月、お前目が赤いじゃないか。もしかして何処か痛むのか?」
先程、遊がミーアの家へ行こうとしていた事に関して、悲しさの余り僅かに溜まった涙の痕を見つけられてしまった。
遊は遠慮なしに左手で結夢の肩を掴み、右手で頬に触れて親指で目元を撫でる。その際の真剣な表情に、結夢は嬉しいような恥ずかしいような複雑な感情が入り雑じり、顔を真っ赤にして引くつかせた笑みを浮かべた。
「おいどうした?顔も真っ赤だし、やっぱ体調が悪いのか……早く保健室に──」
「そういうとこー!!!」
「痛いっ!?」
みるみる顔の赤みを増した結夢は、ついに限界に達し、遊の頬へ攻撃を加えた。拳で。
「そういうとこだぞ!そういうとこなんだぞ!本当そういうとこ!あーもー!」
「え、ちょ!?な、何!?痛い!痛い!執拗にストンピングをするな!」
「うるさいうるさいうるさい!そういうとこって言ってるだろ!」
「意味わからん!栞!紫野月がご乱心だ!助けてくれ!」
「う~ん……遊くんはもう少しそのままが良いかも?」
「栞さん!?」
「結夢先輩……思いっきり口より先に攻撃してますね…。」
栞が止める気になるまでの五分間、結夢は呪文のように「そういうとこ!」と唱えながら蹴る足を止めはしなかった。
「ホンットーにごめんな志神ぃ!」
「い、いや、大丈夫…だよ…はは、は…。」
殴られ蹴られのボロボロ状態。落ち着いて我に返った結夢は、そんな遊の姿を見て、両手を会わせて拝むように謝った。
遊としては一方的に暴行を加えられた様に感じるが、凛華ならまだしも、結夢がここまで取り乱すとは余程の事なのだろう…と、今だ怒った理由が分かっていないまでも、仕方ないと納得はしていた。
「遊先輩自身の悪い箇所は分かりましたか?」
「え?いや、それがどうもまだ…。」
「うわ~……遊くんって筋金入りだね。いくらなんでも結夢ちゃんが可哀想だよ…。」
「ん、何か言ったか栞?」
「うぅん、別に(ニッコリ)。」
「……………………そ、そう…か。」
聞いた事の無い程不機嫌な栞の声が耳に入り、遊は反射的に疑問を投げたが、視線を向けた時には栞は笑顔だった。それもとびきりの。しかし、目は全く笑っておらず、怒りさえ滲み出ている。その異様なギャップに遊は怖気を感じ、嫌な汗をかきながらも、何とか言葉を紡いで平静を装う。
今や完全アウェーな空気。準備時間も残り僅か。栞と凛華は結夢を慰めており、遊に対しての意識は逸れている。何故慰めているかも分からぬまま、遊はこれ以上関わらないよう、呆と窓の外を眺めることにした。
「うぅ……栞、久留、ありがとな…。」
「いや、遊くんがあそこまで鈍感だとは思わなかったよ。」
「これだからゴミ虫は…本当に虫程度の脳みそしか持ってないんですかね…。」
「いいんだ……私もハッキリ言えてないから悪いんだ…。」
「そんなことないよ!今回は勿論、これから先も多分遊くんが悪いのは目に見えてるもん!」
「人の好意に気付かないゴミ虫は、馬に蹴られて死ぬべきですね!」
(…………………………言い過ぎじゃない?)
聞きたくなくても聞かされる悪態に、眺めていたはずの景色がやけに霞むのだった。
昼休み。クラスメイトもミーアの規格外にそろそろなれてきた頃。しかし、そも無関心を常としている世において、誰も転校生である二人に話しかける者はいない。
自然と仲間内の遊、結夢、栞、凛華が集まり、話したがりであるミーアも、先程あれだけ疲れたメンバーでありながら、釣られるように輪の中に入っていた。
「ほら、栞の弁当。」
「あ、ありがとう遊くん。」
「あえ?どうして志神が栞の弁当を持ってるんだ?」
「まさか遊先輩、栞さんの弁当を奪っていたんじゃ…。」
「イヤイヤ、だとしたラこのタイミングで返すのはオカシいですヨ。」
「好き勝手言ってるなよ…。」
「そ、そうだよ!これは遊くんが作ってくれたの!」
誤解を晴らすべく栞が擁護に回ったが、残念な事にその台詞は悪手である。
「え、作ったって……やっぱり志神は…。」
「そっちの気があるんじゃないかとは思ってましたが、まさか本当とは…。」
「ナルほど…だからワタシの誘イモ断ったのデスね…。」
「だから好き勝手言うなって!変な誤解が起きるだろ!」
「そっちの気?そっちの気ってどっちの気?」
「ほら~栞が変な事聞き始めたじゃん!どうすんのこれ!?俺説明したくないよ!?」
「じゃあワタシが説明ヲバ……そっチの気トハですネェ…。」
「だから止めろって!誤解が更に広がるだろ!はぁ~……頭痛くなってきた…。」
これ以上関わりたくない遊は、そう言い捨てて自分の分の弁当を広げる。二つある内の一つが米、もう一つがオカズの弁当箱は、ボリュームも然る事ながら、色彩と栄養のバランスも素晴らしい。ポピュラーなウインナーや玉子焼き、ニンジンと蓮根と鶏肉の煮物、ブロッコリーとトマト、アスパラのベーコン巻き。米の半分は日の丸、もう半分は、煮物で出汁をとる際使用した削り節を、水分を飛ばして醤油と砂糖で味付けした自家製のおかかが振り撒かれていた。
作った遊にとってこの弁当は珍しいものではない。しかし、同世代からすれば、このクオリティーは異様だ。
前の事もあり、遊は不機嫌そうに弁当の中身を口に掻き込んでいたが、何やら視線を感じ、手を止めてその方向へ目線を向ける。
「…………何だよ?」
「いやぁ~……志神って本当に男子高校生か?もっとこう、ワンパク弁当だったりコンビニだったり……手抜きしろよ。」
「はぁ?」
「シカミューさんはモッと周り二気を使いまショウ。そんナノ見せらレタら女子としテ傷つくじゃナイですカ。」
「いや、知らねーよ……そこは、まぁ頑張れよ。」
「とりあえず頂きます。」
「あ、こら久留!人の弁当を勝手に…!」
「はぁ~…!相変わらず料理は出来るんですね。本当それだけの事ですけど、それだけの才能ですけど、それだけの価値ですけど!」
「まぁ、誉め言葉として受け取っておくよ。」
「貶してるんです!」
「誉め言葉として受け取っておくよ!」
「私も貰うな。」
「じゃあワタシも。」
「あ、おい!」
言うが早いか、結夢とミーアは行儀や遠慮など考えず、手でそれぞれ好みのオカズを摘まんで口へ放る。
結夢は以前遊の料理を食べたことがある為、納得した様子で舌鼓を打っていた。一方初めて口にしたミーアは、一介の男子高校生の手料理レベルに度肝を抜かれたのか、食べ物を飲み込むのも忘れ、口をあんぐりと開けて遊を見る。
「こら、汚いだろミーア。口を開けるならしっかりと飲み込んでからにしろ。」
「……シカミューさん、結婚しまショウ。」
「「「えええぇぇぇええ!?」」」
「いや、遠慮しておく。」
「「「えええぇぇぇええ!?」」」
何とは無しに繰り広げられた最上級の攻防。ミーアの口暴に対しての遊の口防に、結夢、凛華、栞は驚愕の声を上げ、それは裕に廊下まで響き渡った。
ただの叫び声でさえ相当に珍しいのに加え、更にそれを越える叫びに、他のクラスの人間、果てには、下階の職員室にいた教師ですら慌てて様子を見に来る始末。ただ、人が集まれば騒がしくなるのは道理であり、それが気に障ったのか、またもメルケヤルが睨みつけた事により事態は集束したが。
「はぁ~……シカミューさんは本当、カラカイ甲斐の無いカタですねェ…。」
「さっきも言っただろ?冗談を本気で扱う気はないん──おっと。」
遊の言葉も言い終わらない内に、何者かが腹部を目掛けて蹴りを放った。勿論凛華だ。
既に予想していた遊は、軽々とそれを避け、してやったり顔で凛華へと視線を向ける。
「このののの~……ゴミ虫の分際でこんな美人からの誘いを断るなんてててて…!」
「だったらイエスって言った方が良かったのか?」
「んな訳ねぇでしょう!殺しますよ!」
「どうしろって言うんだよ…。」
「分からない先輩には、私が特別に引導を渡して上げましょう!」
「はぁ~……悪い紫野月、俺早退するわ。先生にはヨロシク言っておいてくれ。じゃあな!」
「は、え?ちょ!」
完全にスイッチが入ってしまった凛華を教室内でやり過ごすのは難しい。結夢の答えを聞くよりも早く、遊は走り出して教室を出た。背後からは怨念の塊が呪詛を吐きながら追いかけて来ているだろう。遊は確認する時間をも惜しみ、全力で足を動かす。
教室から五十メートル離れたところで、悪魔らしき悲鳴と、ドアが吹き飛んだような音が聞こえたが、そんな事はどうでもいい。遊は一心不乱に、"五十メートルの制約"など気にせず逃げる続けるのだった。
「っはぁ~!疲れた!」
一時間にもわたる逃走の末、見事凛華を振り撒いた遊は、自宅へ戻り、リビングのソファーにドッカリと腰を下ろす。買い物へ言った際にも感じたが、凛華は男顔負けの体力を有しており、体力面に自信のある遊でも容易には引き離せなかった。
着座から横たう体勢に変え、当分動きたく無いとでも言わんばかりに、大きく伸びをした後ため息と一緒に脱力をする。その際、制服の胸ポケットから微かに『クシャッ』と音が鳴り、遊は視線は向けず手だけで中の物を取り出した。
「何だこれ……メモ用紙?書いてあるのは住所、か?」
僅かに折れ目のついた小さなメモ用紙。書いている内容に疑問を持ったのは、そのメモを書いた覚えも見た覚えもがなかったからだ。
いつ入れたのか、否、入れられたのかは瞬時に予想できた。折れ目は付いているものの、瑕疵等は無く比較的綺麗で、長期間入れてあったとは考えにくい。自宅で制服を脱いだ場合は自室で着替え置き、最近で結夢や栞を自宅に入れた事も、入られた事も無い。ならば必然的に学校内での話となる。
遊へスキンシップを働くのは凛華が一番多いだろう。しかし、凛華のスキンシップは攻撃であり、触れるのは一瞬。胸ポケットへメモ用紙を入れる事など不可能だ。そも、メモ用紙を入れる理由がない。
最近で、スキンシップを行い、胸ポケットへ触れる事が出来、メモ用紙を入れる理由のある人物……遊は一人だけ心当たりがあった。その人物は──
「──ミーアか。」
入れたのは恐らく、結夢をからかうために遊へ迫った時だろう。そして、書かれている住所は日本でのミーアの自宅。学校では訪ねるのを拒否してのにも拘わらず、メモ用紙を忍ばせたと言うことはつまり、このメモ用紙は、"招待"と"秘密"を意味している。
(理由は紫野月や栞に聞かせられないから………………いや、おかしいだろそれは…!そんなのは連絡先を交換しておけば済む話だ。それに、あのタイミングで俺が行くのを拒否する必要もない。)
一つの予感が頭を過り、遊は急いで住所の特定を行う。すると、五十メートルの制約によって散々振り回され、あちこちがボロボロになった悪魔がリビングへ姿を現した。当然ながら怒りに身を震わせている。
「……人間、貴様いい加減にしておけよ?いくら俺の方が力があると言っても、制約は貴様に対して優位に働くのだ。恐らく知らなかったのだろうが、それでは俺の気が修まらん。ここは軽く一発制裁を受ける──」
「マクア、出掛けるぞ。」
「べ、き……って、おい!返事も聞かずに何処へ行くきだ!」
「いいから。」
「……む?」
有無を言わせぬ真剣な表情。ただ事ではない雰囲気を察した悪魔は、先程までの怒りを抑え、黙って遊について行く事にした。
あのメモに隠されたメッセージは"招待"、"秘密"だけではなかった。遊が見つけたのはもう二つ…………"緊急"と"危険"だ。




