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40話

お越しいただき、ありがとうございます(^o^)

更新が遅くなり、申し訳ありません。

 揺れる馬車の中には明るい日差しがカーテン越しに差し込んでいた。リズムよく走る馬は丁寧に管理されているのがわかるほど軽やかで、馬車自体も路面からの振動を極力抑える仕様で造られているせいか王族の馬車にも劣らない豪華なものだ。


 ────さすがウィザリア公爵家の馬車ね。


 エルネスタは向かいに座っている薄茶色の髪を結い上げて、カーテンの向こうの外を眺めている女性を見た。


 イルメラ・ウィザリア若公爵夫人。


 一見、儚さが表立って受ける印象の彼女であるが、口を開くとなかなか豪快な性格をした女性であった。すでに二人の子がいるが、彼女自身まだ少女のような無邪気さがある。だが、ちょっとした何気ない会話の中にも知性や品性を感じるのはさすが公爵家に嫁ぐだけの女性だと思わせた。


 イルメラとは何度か顔を合わせたことがあり、まったく知らないというわけでもない。ただ、そのどれもがアニカのそばで控えている形であったため、このように個人的な付き合いはしてこなかった。


 当初リオから話があった時にはまた面倒なことを言い出したと思ったが、その主旨を聞いて引き受けた。

 あの一件でエルネスタも不思議に感じていたのだ。レノズ侯爵令嬢のその態度に。ことが己の主でもあるアニカに関することでもあるので、アレッシオの提案はある意味探りを入れるいい機会だと思った。


「馬車の揺れはやはり眠気を誘いますね」


 イルメラが少し欠伸を押し殺しながら口元に手を当てて言った。


「アニカ様も同じようなことを仰ってました」

「ふふふ。だと思ったわ。彼女とは気が合うのよ」


 クスリと笑うイルメラは普段の公爵家の顔とは別の飾り気のない笑顔を見せた。


「けれどエルネスタ様ともこうやってお話したいと思っていたんですよ。あのロッズ様と婚約したと聞いてとても興味があったの」

「婚約と申しましても政略的なものであるので特に色恋などはありませんが」

「そうなんですか? 主人からお二人はとても仲睦まじくて面白いと聞いてますよ」

「……面白い」


 微妙な表現にエルネスタはつい乾いた笑みを浮かべた。


「悪い意味じゃないですわ。何事も面白いのが一番ですもの。ふふふ、今日もとても楽しみにしていたのよ。何が起こるかもうワクワクして昨日は眠れなかったわ」


 この若公爵夫人はどうやらなかなかの性格のようだ。どこかアニカにも似ている点が多いと思っていたが、それ以上に自国の王妃の方に近い気がした。

 この国の最高位の女性らはこうも揃いに揃って強かで頼もしい。


「レノズ侯爵令嬢とは何度か会っているけれど、側室の話が出てきた頃から明らかに態度が変わってきたわ。もとより教養のなさが少々目立っていたけれど、昨今はトラブルを起こしてばかりで周囲から敬遠されているわ。まあ、本人にはその自覚もないようだけれど」

「だからお茶会を?」

「ええ。王太子に近い我が公爵家に遠慮もなく招待状を送ってくる神経を疑うけれど、これは一度しっかりと見定める機会でもあるから承諾したの。でもアレンが私だけじゃ心配だったらしくあなたに話がいったのよ。忙しいのにごめんなさいね」


 確かにイルメラが指摘するようにウィザリア公爵家に招待状を送ることがよくできたと思える。あのアレナの性格からみて考えなしに送ったことは想像できるが、先日の一件で相当父親から叱責されたことも聞いている。現在公の場には姿を現してはいないものの、ここにきて自ら茶会を開くという図太さに呆れ返るばかりだ。


「賢明な判断をするのであれば断るべきだし、そうでなくともこちら側の侯爵以上の家にはすでに欠席するように言ってあるわ。それ以外は特に重要でもないから知らないけれど」


 実際、側室と声をあげているのはレノズ侯爵、そして野心ある伯爵以下の家であり他の侯爵家は静観している。だから側室一派の行動や言動が目立っているというのもある。


「だから今日の茶会で有力な高位貴族は私たちだけ。ふふ、多少横暴に振る舞ったっていいわよねぇ?」


 このお茶会への参加はアレッシオの提案というよりも彼女が一人で乗り込む気満々だったところをアレッシオが手を回したという真相のようだ。

 若公爵夫人は思っていたよりも勝気であの副団長を振り回しているようだ。儚く見えるだけに意外だ。


「イルメラ様、私も同じでアレナ様のあの態度は気になっていたんです」

「でしょう? なぜ彼女があんなに側室だと言い切れるのか。父親である侯爵の影響だとはいえ信じられないもの。まあ、王族が参加する夜会などでは自制していたようだけど、この前は図々しくもアニカ様のお茶会に押しかけたんでしょう?」


 あの時の出来事をすでに耳にしているのだろうイルメラはグッと拳を握って怒りを露わにして見せた。

 確かにエルネスタもあの日のアレナと対面したからこそ、こうやって今ここにいるのだ。噂では耳にしていたが、聞くのと見るのではまったく違った。アレナのあの態度は誇張ではなくそれ以上だった。


「でも……、ふふふ。あなたの勇姿も聞いたわ。彼女を返り討ちにしたって」

「ただお引き取りを願っただけです」

「それを返り討ちって言うのよ。そんなあなたが来たとなれば……、ふふふ、面白すぎるわっ。きっと今日も何か仕掛けてくるはずよ」


 イルメラの楽しそうな顔にエルネスタは引き攣った笑いを漏らす。アニカと無邪気に話し込んでいる姿は目にしたことがあるが、実のところもっと活発でヤンチャであるようだ。あのいつも余裕で美しい笑みを浮かべているアレッシオの隠れた苦労が垣間見える。


 先ほどまで馬車の揺れに眠そうにしていたのが嘘のように目を輝かせるイルメラにエルネスタは「そうですね」とやはり眉根を下げたまま笑うしかなかった。






 レノズ侯爵家の中庭には約十五名程度の令嬢が揃っていた。そこにイルメラとエルネスタが現れると一斉に立ち上がって頭を下げてきた。そんな中、ホストであるアレナが得意げな顔で近付いて口を開いた。


「まあ、ウィザリア様! お待ちしておりましたわっ!」


 茶会にしては派手なドレスを纏ったアレナがイルメラに笑顔を向けるが、その少し後ろにいたエルネスタに気付くとそのまま固まる。そんな様子に気付きながらもイルメラは素知らぬ顔で挨拶をした。


「今日はお招きありがとう」

「い、いえ。……その」

「友人を一人連れてくることはお伝えしていたと思いますが、彼女がその友人ですわ」

「……そ、そうですか」


 にっこりと笑顔の圧でイルメラはアレナにエルネスタを紹介した。

 最初の得意な様子はなりを顰め、アレナは目を逸らしてしまう。せっかくウィザリア公爵家との繋がりを見せつけようしたものの出鼻を挫かれた形となった。


「エルネスタ・ユリザです。本日はよろしくお願いしますね」

「……ええ」


 貴族のマナーとしては落第点のような態度のアレナに周囲の令嬢が戸惑ったように顔を見合わせる。ここに招待されたのは伯爵以下のものばかりで、つい先ほどまで高位貴族である自分を誇示するような振る舞いであったから尚更だろう。


 どことなしに冷えびえとした空気が漂いながらも茶会は始まり、居心地の悪い雰囲気のなか席についた。

 とはいってもアレナはイルメラには積極的に話かけていたが、エルネスタのことはまるでいないかのように目を合わせもしない。それどころかイルメラがエルネスタに話を振っても、被せるように違う話をしてくる。

 あからさまなアレナの態度であったが、ここには彼女以上の高位貴族令嬢もおらず諌めることもできない。何より当の二人はまったく気にするふうでもなく淡々としていた。これを眺めなければならない周囲の者は肝を冷やしながら肩を小さくしていた。


「……ヨハンナ様。お茶のおかわりはいかが?」


 アレナが隣に座っている令嬢に聞いてきた。その一瞬、数人の令嬢の肩がかすかに揺れる。


「あ、ありがとうございます。アレナ様」

「ふふふ、私たち遠慮する仲でもないでしょう?」

「……や、やはりアレナ様はとてもお優しいお方ですね。さ、さすが王太子殿下の……、そ、側室様にと言われるだけありますわ」

「ええ、ええ! 私もそう思いますわ」


 屋外テラスでの茶会なだけに緩やかな風を受けているが、切り取られたようにその場の空気がざわつく。


 いきなり始まった三文芝居にエルネスタはついカップを落としそうになる。隣にいるイルメラは小さく俯いているがさりげなく扇子で隠している口元の口角が上がり、その目は待ってましたというようにキラリと光っていた。




読んでいただき、ありがとうございます( ◠‿◠ )

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