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29話

いつもありがとうございます。

所用で週末から東京へ行くので更新ができません(>人<;)

予約投稿できたらいいのですが、バタバタとしていて推敲までできておりません〜。





 事件から一ヶ月。いくぶん王宮は落ち着きを取り戻していた。しかし依然犯人捕縛には至っていないため騎士たちの顔色は相変わらず厳しかった。

 そんな様子を目にしながらエルネスタはアニカの使いで造園室へと足を運んでいた。王宮の東棟と中庭を継なぐ一角にそれはあった。宮廷庭師の称号を持ったガーデナーが駐在し、王宮すべての樹木や花を一斉に担っている部署である。隣の棟には薬事室があり薬師と連携が取れるようにもなっている。


「失礼します。王太子妃室から来ました」


 エルネスタは造園室の裏口から顔を覗かせた。表口はガラス張りで多くの切花が並び、まるで花屋のように華やかであるが、裏口は作業所と繋がっているため忙しそうに庭師たちが動いていた。


「室長はおられますか?」

「あ、はい。今、巡回から戻られて表口の方へいるかと思います。呼んで参ります」

「いえ、私がそちらへ回りますのでいいですよ。失礼します」


 そう言うと裏口からグルリと回って表の方へ向かった。棟の隣には温室がありそこには研究も兼ねて大きな植物もおいてあるため規模は大きい。王宮には他に来賓用と王族用とで三つの温室があり、その管理も造園室が担っている。そのため室長自ら足を運んで花木の具合を確認して回っているため、その人を捕まえるのは意外に難しかったりする。不在であれば補佐役に書類を渡せば済むのだが、いるのなら本人に手渡したい。

 温室の透明なガラスの向こうに生い茂る植物に目をやりながら表口に近づいていく。なかなかに大きな建物なので少々の距離はあるが、温室と東棟の間の小道にも研究のための花が植えられているので目を楽しませてくれる。

 ガラス張りになった表口へと辿り着くと数人のガーデナーが切花を集めては花束を作っている姿が見えた。


「お疲れ様です。こちらにデニクス室長はおられますか?」


 エルネスタが声をかけると近くにいたガーデナーが奥を指差した。


「室長ならあちらの切花のコーナーにいます」

「ありがとうございます」


 礼を言ってその場所に向かう。様々な花が種類ごとに生けられている造りは本当に花屋のようだ。王宮に出仕している者にも個人的に注文を受けているため、ここにはいろんな部署の人間が足を運んでいる。季節のイベントが重なればこの一角は大賑わいで、造園室総出で接客しているらしい。そのくらい王都にある大きな花屋よりも花屋らしい一面がある。

 切花を見ながらようやく目的の人を見つけたエルネスタはホッとしつつ声をかけた。


「デニクス室長」


 カイル・デニクス。

 造園室の室長で王宮の造園関係を一手に管理しているその人は実家が伯爵位をもつ貴族でもある。植物伯爵とも呼ばれ歴代その仕事を引き継いでいる。領地はもたないが王都郊外にある国有地の一つを与えられており、そこを領地として認められて研究施設を建てている。


「これはユリザ様。ようこそお越しくださいましたね」

「お疲れ様でございます。王太子妃室より書類を届けに参りました。再来月分の予定表でございます。ほぼ昨年と同じではありますが、入手困難なものの不足分はそちらにお任せします」

「拝見しても?」

「もちろんです」


 カイルはエルネスタから封筒を受け取り中の書類に目を通した。長いまつ毛に影ができる。美しい中世的な外見の彼はまだ二十代で数年前父親よりこの役職を継いだ。次男であるが長男の方は研究思考が強く、王宮での管理よりも研究所に籠ることを選んだという。

 幼い頃より父親から指導を受けて、若くして代替わりしたとはいえその腕は誰もが認めるものだ。

 書類数枚に目を通してからエルネスタを見るとにっこりと笑った。


「すべて大丈夫です。責任をもってご用意しますよ。王太子妃殿下にもそうお伝えください」

「ありがとうございます。再来月は収穫祭と重なるので全部は難しいかと思ってましたが良かったです」

「確かに貴族からこの王宮に注文が多くなる季節ですからね。しかしながら私はこの城を着飾ることをモットーにしておりますので」

「とてもありがたいお言葉です」

「そこで一点よろしいですか?」

「なんでしょうか?」


 カイルは切花を見渡して一つの花に定めると手を伸ばした。手際よく茎をおりエルネスタのまとめてある髪にそっとそれを挿した。


「ほら、お似合いですよ」

「……これもお仕事の範囲ですか?」

「はい。美しい花がより人を美しくさせる。そしてそれを見た人の心にも美しさを植えつけてくれますからね」


 カイルは色気を醸し出しながら口元の黒子を撫でるように笑った。サラリと長い金髪が前髪にかかり耳にかける仕草が拍車をかけている。


「そういうことなら頂いておきます」


 照れるでもなくサラリとお礼を言うエルネスタにカイルは面白そうに笑った。


「つれないお方ですね」

「つるつもりがないのがわかっておりますから」

「本当につれないですね。……そういえばご婚約されたとか。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「聞けばレーウ騎士団のロッズ殿というではありませんか。また一つ城の美しい花が手折られてしまい遺憾なことです」


 エルネスタのような地味な令嬢にもそう言ってくれる貴重な人であるが、社交辞令とはいえ彼が言うと最もらしく聞こえるから不思議だ。

 残念そうに眉根を下げたカイルにエルネスタはにこやかに笑う。


「デニクス室長はいつも多くの綺麗な花に囲まれているではありませんか」


 華やかな女性遍歴が噂のカイルにこのくらいの嫌味は許されるはずだ。


「綺麗な花は好きですよ。美しくあろうとする心は素晴らしいものですからね。けれど、私とて毒を持つ花を敢えて摘もうとは思いませんよ」

「あら意外です。デニクス室長はそのようなもの気にしない方だと思っていました」

「心外ですね。私とてそこは見定めているつもりですよ」

「ふふふ、見直しました。噂では蕾の開花を待っていると聞きました。美しい花が咲くことを期待しています」

「……ありがとうございます。驚くほどの花にさせてみましょう」


 三年前、カイルに婚約者ができた。それは当時の社交界を賑わせることとなった。エルネスタもデビューを控えており見聞を広めている最中だったのでよく覚えている。

 その美貌と甘い言葉で浮名を流していたカイルは社交界でも人気であったが、そんな彼が突然婚約したことでそれはそれは嘆き悲しんだ令嬢が多かったという。それからは社交界には最低限しか顔を出すこともなく惜しまれていたのだが、その相手がまだ幼いことが知れると再び彼との関係を深められると思ったのかカイルの周囲に女性が群がり出した。

 しかし彼はフェミニストぶりは相変わらずであったがそれでもキッパリと一線を引いて対応していたようだ。それは今現在も変わらない。


「婚約者様はおいくつになられたんですか?」

「今年で十四ですね」

「デビュタントまであと数年ですか。密かに楽しみしています」

「その時はどうぞよしなにお願い致します」


 一般的に十六歳で成人を迎える。それにあたって貴族の子女は社交界へと足を踏み入れる。王宮主催の夜会の一つがその儀式となっているが、エルネスタが王太子妃の侍女として会場にいるのを見越しての言葉であろう。


「美しく花を咲かせたからといって出し惜しみはおやめくださいね。太陽の光を浴びなければ萎れてしまいますから」

「……善処しましょう。不本意ですけれどね」


 にっこりと笑って不穏なことを言うカイルにエルネスタは心でその婚約者の少女に同情した。年の差はあれどこれは溺愛でしかない。多少怖い部分もあるが、幼い時分からしっかりとその少女を婚約者として見ており大切に慈しんでいるのは確かであろう。

 素直に羨ましいと思った。だからと言ってその少女のように愛されたいかといえば言葉に詰まるが。


「おや? これはまためずらしい方が来ましたよ」


 カイルの言葉で物思いに耽ってしまいそうな頭を現実に向けた。振り返り入り口の大きな影を見て固まった。

 そこには久しぶりに顔を見ることができた婚約者──リオがいた。





お読みくださってありがとうございます。

本当に感謝です。



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