15.死闘の幕開け 後編
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(だけど、始まりの神器は一時的にだったら天堂に移せる)
始まりの神器は天威師と共に在ることを前提に創生されたが、四六時中一緒にいなければならないわけではない。危険な務めに帯同させるわけにもいかず、場所を分かれなければならないこともあるからだ。天威師が定期的に心を注ぎ、光らせ続けなければならないため、皇宮か帝城にいることがほとんどだが、暫定で他の場所に居させることも可能だ。
「天堂に入ることができるのは神格持ちと、特別に許可を得た者のみだ。大神官と神官長が就任した際も、天堂で神々に挨拶するのではなかったか」
「あそこなら神々も降臨しやすいんだよねぇ。地上と扱われないから」
「地上とは次元を隔てた領域にあるから、隔離結界より安全性が高いかもしれないわ」
ラウとティル、月香も口々に述べる。それに応えるように、彼方から紅色に輝く巨大な鳥が飛来した。話題の渦中にある始まりの神器だ。
『ピュィー!』
「えっ、あなた自分で飛んで来たの!?」
『グゲッ』
「こ……この馬鹿鳥! 途中で襲われていたらどうするつもりだったのだ! そなたは戦闘用の神器ではないのだぞ!」
『グ、グギャゥ……』
信じられぬ、と目を剥いて詰め寄る秀峰と、両翼で顔を覆って後退する馬鹿鳥。なお、馬鹿鳥は神威で飛んでいるので、翼を折りたたんでいても問題なく浮遊している。
「ま、まあまあ義兄様――ん? あなた、嘴に何か咥えてるの?」
『グゥ』
妙にくぐもった鳴き声を疑問に思って神器を見た日香は、巨鳥が嘴に挟んでいる紙束に気が付いた。馬鹿鳥が頭を下げ、日香の手にドサっと用紙を落とす。丁寧に紐で束ねられた用紙をざっと透視し、刮目した。
「これ、今話していた文書じゃない。持って来てくれたの?」
『キュアア!』
口が自由になった怪鳥が自慢げに鳴く。褒めて褒めて、と言わんばかりだ。だが、秀峰にギロリと睨まれて小さくなっている。
「そっか、この子まで暴走しないように、全力で天威練り上げてこの子と私を繋いでたから、私の思考が分かったんだね。ありがとう」
『ピヤァ!』
と、高嶺が﨟たけた美貌に剣呑さを滲ませて彼方を見た。
「日香。至高神の神器が複数、こちらに向かっているようだ。早急に退避せよ」
皆も気配を察知し、表情を一変させる。天威師としての最後の務めを果たす時だ。
「転移で行けそうか?」
「うぅん……やめておいた方が良いと思う。今は神器の神威が飛び交いまくってて、城宮内の気がごちゃごちゃになってる。思った通りの場所に出られないかもしれない。私だけなら何とでもなるけど、最悪、始まりの神器と別々の場所に飛んじゃうかも」
転移先がズレた結果、始まりの神器だけ暴走中の神器の真ん前に出現してしまった、などということになれば目も当てられない。
「ならば走るか飛んで天堂へ向かうしかないな」
転移より時間はかかるが、少しでも危険性が低い方法を取るべきだと、高嶺が即決した。
(飛ぶのは危ないかな。入り乱れてる神威で力が不安定になるかもだから、下手すれば墜落する。走った方が無難かも)
走ると言っても、天威を使えば飛翔に劣らぬ速度が出せる。力が乱される可能性はあるが、天威師ならば素の身体能力のみでも相応の速さで駆けることが可能だ。
「ここは私と月香が出る。高嶺は日香と共に行け、日香二匹を守るのだ。始まりの神器は天威師の最たる要。これだけは死守しなくてはならぬ」
「はい、秀峰兄上」
悲壮感を滲ませる秀峰とは裏腹に、高嶺はどこか安堵した気配を醸していた。これでやっと還れる、と言うように。
「俺たちも最初は一緒に行くよぉ。適当なタイミングで散開するから」
ティルが言うと同時、烈風を纏う神器が四つ、唸りを上げて飛んで来た。進行上にあった殿舎が爆散し、大木が次々にへし折られる。
「行け!」
「頼んだわよ日香!」
秀峰と月香が神器の前へ飛び出し、日香たちも逆方向へ走り出した。激しい衝突音と爆音、爆ぜる神威と天威の気配を背に、天堂がある方角へ向かって。
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