13.虹の神器暴走 後編
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《《お言葉をしかと刻みます、我らが祖》》
ぴたりと声を合わせた日香たちが頭を下げると、天界の光景が脳裏から消える。交信が切られたらしい。だが、超天とはまだ繋がっている。
「皇帝様、太子様方。私たちは最高神以下の神器を鎮静します。有色の聖威師である私たちならば、主神の神器を併用すれば、高位の神器相手でも力技で対処可能です。――通常ならば」
アシュトンが淡々と言葉を紡いだ。重要なのはもちろん、最後に付け足された一語だ。今回は通常の事態ではない。
「ですが此度は、至高神の神器の力が暴走を後押しし、全ての神器を強化しています。私たちでも耐え切れぬでしょう。鎮められたとしても絶命します」
「元より僕たちの寿命は残り僅かでした。ここで惜しむ気など毛頭ありません。次世代を残し、先達が中心となって出ます。大公家と一位貴族の家にある至高神の神器は、今のところ暴れている気配はありませんが、念のために息子たちを向かわせます」
言葉を引き取ったのは当真だ。ライナスと佳良も、とうの昔に覚悟を決めた顔をしている。
「私たちも太子を退かせ、現役の皇帝が前線に出る。太子たち、後は任せた。新しい御世が開かれる時だ」
ラウが太子たちを見て微かに微笑んだ。この騒動が収束できた後、自分たちはもう地上にはいないであろうことを悟っている。
「太子たちはこの場に残れ。超天の祖神方に声を上げ、お鎮まりいただけるよう説得せよ」
続けて言葉を継いだのは秀峰だ。視線が太子たちを見つめながらも僅かに揺れ動いているのは、狼狽えているからではない。未だ通じている超天の様子を確認しているのだ。
「今のところ、祖神方の神威は超天で荒れ狂っており、下には落ちておらぬようだ。しかし、人間に対してお怒りである以上、地上に飛来する恐れもある。落ちて来た場合は我ら皇帝が受ける」
通常の神ではなく祖神の御稜威なので、受けても怪我を負うことはない。至高神は自身の絶対的な力で同胞を傷付けてしまわぬよう、常時から厳重な自己抑制を課している。ただし、神威自体が大きく重すぎるため、擬人の器が耐えられない。受けたが最後、地上で使っている肉体は消し飛び、昇天することになるだろう。
つまり、太子たちが無理に出張って落命してしまえば、次の世を担う者がいなくなる。三千年以上続く神の怒りが収まっていない現状、天威師はまだ人の世にいなくてはならない。
「そうだねー。太子たちは無理をしないで、超天に声を届けることに専念するように」
「そなたたちには私たちの後を引き継ぐ役目がある。ここで果ててはならぬ」
ティルと高嶺が賛同した。
「分かりました。どこまでできるかは分かりませんが、こちらでも祖神の神威を抑えるようにしながら鎮撫を試みてみます」
桔梗が言った。不完全な天威で、完全体である祖神の神威をどうこうできるはずはないが、やらないよりは良いはずだ。
「お父様、お母様」
秋凛と春麗が、高嶺と日香をじっと見る。完璧な精神制御の奥にある感情。自己を自在に切り替えられるからと言って、感情がないわけではないのだ。嬉しいことがあれば喜び、嫌ながあれば悲しみ、辛いことがあれば苦しむ。すっかり成長し切った子どもたちの頭を撫で、日香は頰を緩めた。
「しばらく別れて暮らすことになるね。できる限りで良いから、どうか地上と人を守ってあげて」
あなたたちなら立派な皇帝になれる、とは言わない。別に皇帝になんかなれなくても良いです、と返されれば、話が変な方に転がってしまうからだ。この子たちは地上への愛着が薄い。人間に良く思われたい、敬われたいとも思っていない。その証拠に、返事は淡白なものだった。
「善処いたします」
「ええ、可能な範囲で」
秀峰と月香も、子どもたちに無言で微笑んだ。後を頼むような言葉は告げない。菖蒲がこうなった以上、マナと桔梗はいつまで始まりの神器を輝かせることができるか分からない。元より地上への情が薄い帝家の太子たちも同様だ。ラウとテア、ティルとミアもそれを踏まえた上で、一時の別れの挨拶を交わしていた。
「じゃあ、行って来るね」
名残惜しげに告げ、最後に我が子と太子たちの顔を順繰りに見つめ、日香は外へ飛び出した。
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