12.虹の神器暴走 中編
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(やばいっ!)
日香は反射的に力を練り上げた。足の裏から頭頂まで怖気が駆け上がり、全身の毛穴が開く。それが立て続けに二撃来た。
「「――――!!」」
身体中が硬直するような戦慄に苛まれながら、何が起こったかを把握した全員が蒼白になった。
物も言わず、佳良が属国も含めた全国の人間を強制転移させ、時間が停止した隔離空間に一括避難させる。世界規模での非常事態が起こり、かつ幾種もの条件を満たした場合にのみ利用が許される、特殊な場所だ。
《あらまぁ。副都にあった神器の乱れに連動して、皇宮と帝城にある至高神の神器も一斉暴走起こしたようね。皇宮と帝城に散開して暴れ回っているわよ》
ころころと笑う場違いな声を放っているのは黒曜だ。
《しかも、それに引きずられて最高神以下の神器まで軒並み暴走しているではないの。神器の大反乱だわ。……いえ、始まりの神器だけは狂っていないようね》
《はい、今、どうにか抑えました》
日香は冷や汗を拭いながら答えた。よくやった、という目を秀峰が向けて来る。天界のフルードもだ。あれに万一があれば、天威師は全員強制昇天なのだ。
当真とアシュトンが目を見交わし、天に向かって叩頭した。
《天の神々よ、私どもは中座させていただきます》
《御前を失礼致します》
何かを堪えるような表情をしているのは、孔雀神と嵐神、時空神と鷹神。この場にいる聖威師たちの主神だ。他の聖威師の主神たちも同じ顔をしていた。フルードの側に立つ白髪に灰緑眼の少年神が、険しい顔で焔神と顔を見合わせている。
水神がどこか哀しげに微笑んだ。
《神器を鎮めに行くのだね。……この状況はかなり厳しいよ。鎮静化できたとしても、おそらく相当な苦痛と共に絶命する》
《心得ております。なれど、それこそが聖威師の領分ですから》
《そんなことはしなくても良い。地上を見限り、今ここで神に戻ることもできる。そうすれば痛い思いなんかしない。私たちは全員、そうして欲しいと望んでいるのだけど》
《申し訳ございません》
交互に答えるライナスと佳良を、水神はそれ以上引き止めなかった。細い眉を下げて小さく頷く。
《神に戻るという自己救済手段を使える状況にありながら、己の意思と選択でそれを使わず心のままに進むならば、この先に待ち受ける痛みと結末は全て自己責任と心得よ。我ら天の神が地上の神器を鎮めてやることはない》
火神が温かくも凛烈な眼差しを据えて告げる。周囲を爆ぜる火の粉は、若き雛神たちを鼓舞する熾火のようだ。
《それでも、そなたたちが全力を尽くした上で、少しでも晴れやかに昇天できることを願っている。……ゆめ忘るるな。そなたたちは鎮静の途中であろうが関係なく、いつでも神格を解放し、苦痛から逃れられることを。その自由は決して奪われぬ。どうか過度な無理はしてくれるな》
後半からの言葉が本音だろう。火神とて、本当は可愛い同胞たちには今すぐ天に戻って欲しいのだ。
フルードがこちらに視線を注いで首肯した。何も言わずともその心が伝わって来る。最期の最期まで、悔いなきようやり切って下さいと告げている。これから凄絶な死闘へ向かうであろう身内たちを、力強く送り出している。本当は痛い思いをして欲しくなくとも。彼自身が、かつて日香やアシュトンたちにそうしてもらったから。
(フルード君……どうやら私ももうそっちに行くみたい。天に上がったらいっぱいお話ししようね)
次いで、超天の緋日神も唇を動かした。皇祖の瞳が遠き末裔たちを映す。
《愛しき我が裔たちよ。超天からも、火神と同じ言葉を伝えましょう。至高神の神威を宿す神器を多数鎮静することは、天威師と言えど命と引き換えにせねばなし得ません。ゆえにこそ覚えておくのです、神格を出すという方法で即時昇天できる道は、常に裔たちの前に開かれています》
精密に人に擬態している天威師は、人間と同等に痛み苦しみを感じる。鎮静の過程で暴走した神器とやり合えば、多大な激痛を伴うことになるだろう。だが、天界の神々や聖威師の前では、痛覚が無いという建前で通しているため、その辺りは触れずに話している。
《それでも自らが決めた方向へ進むならば、お行きなさい。天で会えることを楽しみにしていますよ》
緋日神の近くにいる翠月神は、双眸を赤く染めている。歴代皇帝の中で最も冷静沈着であったと評されている帝祖すら、菖蒲の訃報に憤っているのだ。
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