18.おまけ―怨神との出会い 後編―
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「あなたが怨神様ですか?」
『そうだ、私は怨みを司る悪神セラルド。お前が新たな雛神だな。驚かせてすまなかった。待ち合わせの時間まで少しあったから、お前の主神と遊んでいたら少し力が入ってしまった』
『専用の運動場以外ではあまりはっちゃけんでくれよ。お前もアイも荒神なんだから』
「こうじん?」
邪神が発した聞き覚えのないフレーズに、アリステルが首を傾げる。
『神威が特別に荒々しくて強大な神のことだ。普通の神も怒りや悲しみで荒神化することはあるが、普段から標準で荒れ荒れモードの奴もいる。アイもセラもそういう神なんだよ。端的に言えばものすごく強いんだなぁ』
「そうなの? こんなに優しいのに?」
『荒々しいのは神威の話で、性格とか気質は温厚な荒神が多い。……中には暴れまくる奴もいるが、アレは置いといてだ。皆お前に良くしてくれるから、心配しなくて良いんだぞ』
「ふうん」
そっと様子を窺うと、鬼神も怨神も温かな目で頷いている。人の皮を被った悪魔だと思っていた両親よりも、正真正銘の悪神の方が優しいとは不思議なことだ。と考えたところで、鬼神の寵を受けた自分ももう悪神になったのだと思い出した。そして、ふと思い付いて聞く。
「――ねえ、パパは?」
『ん?』
「パパは強いの?」
鬼神と怨神が動きを止めた。
「さっき怨神様の力をペシンてやってたでしょ」
『んー、セラは全然本気じゃなかったからな〜』
はははと頭をかく邪神を、物言いたげな二神が眺めている。
『いや、全く及びませんよ』
『歯が立たないわよね』
「及ばない? 歯が立たない? じゃあアイ様と怨神様の方がパパより強いんですか?」
主語がない独白を、正反対の意味に捉えるアリステル。目の前で苦笑いしているパパが、別次元の気を持つ最強荒神だとは予想もしていない。
『逆よ、逆。邪神様は荒神の中でも一番お強い御方なのよ。誰も勝てないわ。対等にやり合えるとすれば、狼神様かあの暴神様くらいね』
鬼神が慌てて愛し子の認識を修正した。狼神、あの暴神。それはどんな神々だろうと疑問符が掠めたアリステルだが、その思考はすぐに主神の言葉の前半部分に流れた。
「パパは荒神の中で一番強いの?」
『そうよ。普段はものすごく大らかで寛容だから想像が付き難いでしょうけれども、いざ本気になればどの神も勝てないのよ。匹敵できる者はいても、凌駕する者はいないわ』
『それは持ち上げすぎなんだな、アイ。俺より上には最高神や至高神がいるだろ』
『真の神格と転化も込みでの話ですわ』
謙遜する邪神に、鬼神がすかさず言い返す。怨神も無言で首肯し、鬼神を援護していた。
「よく分からないけど、パパはすごいんだね」
神々が何を言っているのか理解できないアリステルだが、邪神がとにかく凄いらしいことは分かった。両腕を伸ばしてぴょんとしがみ付く。
「パパが鍛えてくれたら、僕はきっと強くなれるね」
『ヴェーゼは頑張り屋さんだからなぁ。ご期待に添えられるようにパパも頑張るよ』
アリステルを抱っこした邪神が、愛しげに笑う。今までは彼の家族神たちにしか向けられることがなかった、溢れんばかりの愛情を宿した面差し。それがアリステルにも注がれている様を見た怨神が、目を見開いた。
『邪神様、いくらあなた様とはいえ私の愛し子を占領しすぎではありませんかしら。次は私の番ですわよ』
『そんなこと言わずにもう少し抱っこさせてくれよ〜』
『駄目です!』
不満げな鬼神が邪神の前に転移し、互いの寵児を取り合い始めた。弾みでアリステルが滑り落ち、仲裁しようと近付いていた怨神の腕にスポンとはまる。
『おっと』
「あっ、ごめんなさい」
一瞬だけヒヤリとした顔でこちらを見た邪神と鬼神だが、アリステルが無事にキャッチされたのを見て揉み合いを再開した。正確に言えば、怖い顔の鬼神に詰め寄られた邪神が、ホールドアップしながらタジタジと後ずさっている。本当に最強の荒神なのだろうか。
『大丈夫か?』
意図せず受け止める形になった子どもを抱えたまま、怨神が念のためといった風情で問うて来る。
「はい」
アリステルは小さく顔を綻ばせた。生まれてからこの方、サーシャの前でしか緩まることがなかった表情筋は、天界に来てから少しずつ豊かになりつつある。恐ろしい速度と精度で、魂が根幹から癒されている。神々から与えられる絶対的なまでの同胞愛によって。こんな日が訪れるとは思ってもいなかった。
「受け止めてくれてありがとうございます」
まだぎごちない笑顔を、それでも精一杯浮かべて礼を言う。真っ直ぐに絡まり合った鉄紺の双眸が、数度瞬きした。
『あぁ……』
これが、この後の交流を経て鬼神及び一の邪神と並んでアリステルを寵愛するようになる、怨神セラルドとの最初の出会いだった。
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