17.おまけ―怨神との出会い 中編―
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「セラ?」
『今話してる、怨みの神の名前だ。怨神セラルド。俺やアイと同格の高位神で、同じくらい古い神だから、ネタも引き出しもたくさん持ってるぞ』
「怖い神様じゃない?」
『いーや、全然怖くないし、むしろ温厚だぞ。同胞限定でだが』
「アイツらをギッタギタにする方法を教えてくれるかな」
『幾らでもアイデアをくれるとも。ああそうだ、虐めた奴らを地獄送りにするなら、期限や範囲をきちんと指定するんだぞ。神であるお前が定めたなら、救済システムも無効になるだろうしな』
「救済システム?」
『罰を軽減する温情措置だ。地獄に堕ちた奴だって、少しくらいは良いことや感謝されることをして来てるかもしれないだろ。そうしたら、その善行と差し引きされて死後の罰が軽減される場合がある。後は、ソイツに恩を感じてる誰かがいたらその想念がやって来て、地獄に行かずに済むよう引き上げてやるか、そこまではできずともなるべく軽くて短期の地獄に行けるよう導くこともあるんだ』
例えば、乱世の時代に剣を取って戦い続けた者は、多くの命を奪い大勢から憎悪を買っている。だがその反面、その者が先陣切って戦ってくれたからこそ守られ救われた命や生活、開けた未来もある。戦ってくれてありがとう、汚れ役を背負ってくれてありがとう、と感謝している者もいるかもしれないのだ。
そうして恩を感じている者が現世で供養や追悼をしたり、心からの感謝や敬意の念を送れば、その光が想念の代わりになることもある。また、誰に知られずとも他者や何かのためになることをしていたという事実やその軌跡も、同様に光となって死後の者を救う。
『お前を虐めた奴らは、神が手を下さんでも地獄に堕ちる。だが、自然に堕ちた場合は救済システムの対象になってしまう。だから神として行き場所や刑期を指定しておけ。そうすれば救いの光は届かん。神の意向は絶対だからな』
「アイツらに恩を感じてる人なんかいないよ。想念も光も来ないと思うけど……」
『念のためだよ。善悪や白黒、見える景色や考え方はそれぞれ違うんだ。お前から見たら最低最悪な奴らでも、実は何かの形で誰かのためになることをしていたかもしれんだろ』
「アイツらの罰が軽くなるなんて嫌だ。無期限の最下層地獄に叩き落としてやる……ううん、それでも足りない。ねえ、地獄行きよりもっと酷い方法はない?」
『あるぞ、あるぞ。俺たちの玩具にするか神の牢獄に入れるか……地下世界に引き渡すかだな。ヴェーゼ、お前は地下世界への案内人になっても良いんじゃないか。その辺りもおいおい教えてやるから、色々聞けば良い。俺やアイ、そしてセラにな』
笑顔で頷いた邪神が、何かを弾くように左手を振った。アリステルと繋いでいない方の手だ。死角から飛来した神威が甲に弾かれ、あらぬ方へ逸れていく。
「わっ」
アリステルが目をパチクリさせて御稜威が来た方を向くと、慕わしい鬼神が佇んでいる。側には、真っ黒な煤煙を凝縮したような巨塊が浮遊していた。モワモワと蠢く巨大な塊が、喋る。
『すまない、大丈夫だったか!』
同時に煙が解けた。体重を感じさせない身軽な動作で、流麗な美貌を持つ青年が躍り出る。白皙の肌に薄い青紫の短髪、鉄紺色の双眸。上背はあるものの、邪神よりは低い。スッと通った目元は鋭さを帯びているが、その眼差しはどこまでも穏やかだった。
『怪我はなかったか?』
アリステルの前に片膝を付いた青年神が、案じるように肩に手を置いた。
「はい、大丈夫です」
『まあまあ、そんな装いをなさるなんて。私もこの形をしているのだから言えたことではないけれども……怨神様の麗姿が台無しだわ』
愛し子が無傷であることをしっかり目視で確かめた鬼神が、嘆きを込めて頰に手を当てる。一方の青年は目を細め、口を尖らせた。
『仕方ないだろう、この子の前では人間基準に合わせようと申し合わせていたではないか。ブッッッッッサイクな姿になるのもやむを得まい』
ブッッッッッサイクて。そんなに強調しなくても、と内心でツッコむアリステル。まさしく神と言うべき美の極致だと思うが、悪神にとっては醜い容姿なのだろうか。だが、今はそれより鬼神が発したワンフレーズが引っかかった。
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