16.おまけ―怨神との出会い 前編―
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「ねえ、パパ」
『何だいヴェーゼ』
手を繋いで歩く邪神に呼びかけると、アリステルの歩幅に合わせていた長身がすぐに反応を返してくれた。
「パパはいつまでこの姿でいてくれるの?」
『お前が俺の悪神姿を怖がらないようになるまでかな』
「僕のせいで無理してない? ……元の姿に戻って良いよ。パパのためなら、僕頑張る」
なんか父上とお呼びみたいなことを言われた記憶はあるが、シレッとパパ呼びを通すアリステルを、邪神は丸ごと受け入れてくれている。ヴェーゼの好きにしたら良いんだよ、とだけ言ってくれた。
『ヴェーゼは優しいなぁ。だけど自分のせいだなんて思わなくて良いんだな。俺が合わせたいから合わせてるんだ。アイも他の悪神も、皆そうだよ』
何も気にする必要はないのだと笑う黒眼に見守られながら、アリステルは周囲にキョロキョロと視線を巡らせた。
ここは天界の共有領域。その中でも悪神が使うエリアだという。通常の共有領域は神使が綺麗に手入れしているが、汚穢が満ちるここは酷だということで、専ら形代が管理を担っているそうだ。通常の神使は悪神の領域には寄り付かない。
ただし例外として、限定的な神性を有するとても高位の神使や、罪を犯し処罰の一環として悪神領域の担当に回された使役は訪れることがあるらしい。
「ここも僕のために改造してくれてるんだよね?」
『そうだよ、お前が通る時はお前にとって普通に近い空間になるようにしている』
アリステルが通る時だけ、悪神の共有領域を人間の感性に近い仕様に変えてくれているそうだ。自分たちが通り過ぎれば、元のおどろおどろしい場所に戻るという。
「じゃあ、振り返ったら地獄みたいな光景が広がってるの?」
たった今歩いたばかりの道。目の前には変化のない続き道が繋がっているが、後ろを顧みれば様変わりしているのだろうか。
『そこまで早くは戻さんさ。何かの拍子に背後を見てしまうことだってあるだろうからな。お前の目が届かない距離まで離れたら普段の装いに還るようにしておる』
「良かった。振り向くなって言われたら、不思議と振り向いちゃうから」
『そういえば人間の世界にはそんなジンクスがあったな。見るなと言われれば見る、開けるなと言われれば開ける、入るなと言われれば入るんだったか』
いわゆる『見るなの禁忌』と言われる典型パターンだ。『決して中を見てはいけませんよ』と言って部屋に籠もった者の様子が気になり、こっそり見て自分の首を絞めるのがお決まりの展開である。
「でも、僕と同じタイミングでここを通った悪神たちがビックリしちゃうかもしれない。やっぱり僕が早く慣れなくちゃいけないんだよね」
『悪神たちにはお前の存在を伝えてある。大事な同胞のためならば多少は融通を利かせてくれるとも。それに焦らなくても良いんだ。お前が本懐を遂げて完全昇天した暁には、ゆっくりとでも俺たちの感性に順応していくからな』
「そうしたらパパの最初の姿もカッコいいと思うようになる?」
『だろうな。パパ、その時が楽しみだよ』
「僕も楽しみ」
未だ先の未来を想像してほのかに微笑むアリステルに、邪神も眦を下げた。
「でも、どうしてここを歩いて行くことにしたの? 転移で目的地まで行けば良いんじゃない?」
『そうなんだが、せっかくお前が天界に来たんだ。俺の神域以外の場所も見せてやりたくてな。今は限られた所しか案内してやれないが、お前の修練が終わって状態が安定すれば、堂々と外に出してやれるようになる』
「数年かかるんでしょう?」
『多分なぁ。それと並行して、お前を虐めた奴らに仕返しする計画も練っておこうな。アイと俺も協力してやるから』
繋いだ手を軽く揺らして笑う邪神を頼もしく思いつつ、アリステルは聞いた。
「これから力になってくれそうな神様に会いに行くんだよね」
『ああ。怨嗟や怨讐を司る怨みの神だから、きっとお前に合うと思うんだ。復讐神や報復神というのもいるんだが、セラの方がレパートリー豊富だしな』
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