11.元は一つだった魂
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『葬邪神様』
『んー?』
足早に歩み寄って来た神が、テーブルの脇で恭しく礼を取る。たどたどしい所作でナイフとフォークを動かすアリステルを、彼の左隣に座って微笑ましく眺めていた葬邪神は、卓上に頬杖を付いたまま来客に流し目を向けた。
『犬の神と猿の神が、遊び半分ですが小競り合いをしておりまして……』
『またあの子たちか。いつものお遊びだ、ほっとけ。ないとは思うが、本格的に険悪になったら仲裁しに行く』
『承知致しました』
頷いて去っていく神を眺め、アリステルの右隣の椅子に陣取って愛し子に無言のラブコールを送っていた鬼神が妖艶に微笑んだ。
『さすがは邪神様、煉神様と並んで頼りにされておられますこと』
『俺は神々のまとめ役だから仕方ないんだなぁ』
『そうですわね。親神に成り代わったことがあるのはあなたと煉神様、そして後一柱ですものね』
『アイツの名は呼ばんでくれ、起きて来たら大変だ』
言葉の上ではのんびり話している二神だが、脳裏では超高速で思念を交わしている。
《それよりアイ、アリステルのことをチラ視したが、この子はお前が元々見初めた子と全く同じではないだろう。別の魂が混ざっておる》
《ええ。私が見初めたのはアリスステラという子でしたわ。けれども双子の弟にアステルという子もいて、死後に2人の魂が融合したようですの。アステルはアリスステラの1年後に亡くなっています》
《この自然な融合具合を見るに、元々一つの魂だったものが、何かの拍子に分かれて双子として生まれていたようだな。それが再び合体して生まれたのがこのアリステルか》
本来、魂は死すれば次の命に生まれ変わる。だがアリスステラの魂は傷付いており、輪廻の輪に乗ろうとしたところで転生が止まり、癒やしの期間に入っていた。そのため、1年後に死んだアステルの魂が追い付き、再び一つになることができたのだ。
切れ長の黒眼が、カチャカチャと音を立てながらパンケーキを切り分ける子どもを見た。長方形に焼き上げた小さなパンケーキが4切れ、皿に乗っている。一度真ん中から切ればちょうど一口サイズになるようにしている初心者用だ。まずはカトラリーという物を手に馴染ませることから始めているので、音を鳴らさない、細かい動かし方、等の作法はこれからである。
《だが魂を少し解析したところ、完全に溶け合ってはいるがアステルだった部分の比率が若干小さいぞ。全部が融合したんじゃなく、一部分……2割くらいどっかに飛んだんじゃないか》
例えて言うならば、同量の赤と青の絵の具を均等に混ぜ合わせれば完全な紫になるはずなのに、何故か若干青紫に近い状態だ。となれば、絵の具が同量ではなかったことになる。シンプルに考えれば、青が多いのか赤が少ないのかの二択。
元からアリスステラの魂の方が、アステルより大きな比率で分かたれていたのかもしれない。だが邪神が神威でざっと魂の痕跡を流し視たところ、どうも違うようだった。アステルの魂が一部足りないまま溶け合っている。鬼神もそれは分かっていたようで、サラリと同意を寄越した。
《そうですわね。私もそう思います。けれどもどうでも良いわ。私が愛したアリスステラの魂は、10割全てこの子の中にあるわ。それは間違いないもの。アステルの方が足りなくとも問題ないでしょう》
《だが、お前が寵を与えたのはアリスステラではなくアリステルだろ。アステルも含まれてるはずだ》
《ええ、完全に融合していたので剥離するのも忍びなく、アステルごと愛すると決めたのです。けれども邪神様、表現は正しくなさって。私が愛し子にしたのは、『10割のアリスステラと8割のアステルが溶け合ったアリステル・ヴェーゼ』ですのよ。どこかに行ったアステルの2割は範囲外。今どこでどうなっていようと、知ったことではありませんわ》
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