6.葬邪神アレクシード
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『ん? おい、震えてるぞ、あの子。顔色も真っ青だし……やっぱりさっきまで人間だった子にこの食事はショックが大きすぎたんじゃないか』
『そんな。こんなに美味しそうなのに?』
全身をガタつかせて硬直しているアリステルの様子を眺め、悪神二柱がヒソヒソ囁き合っている。違います、料理じゃなくてあなたの顔が怖いんです、とは言えず黙っていると、自分なりの結論を出したらしい邪神が指を鳴らした。
『取り合えずお前の飯は却下だ、アイ』
言葉と共に、卓上にあったおぞまし過ぎるブツが綺麗さっぱり消えた。
『まあ、何をなさるの。せっかく渾身のご馳走を並べたのに――』
プンスカしている女神をサラッとスルーし、邪神がアリステルの横にやって来る。
『ほーら、もう消したから安心して良いぞ』
「ひっ……!」
そんなことを言われても、一番怖い奴が側に来て安心できるはずがない。ビクッと肩を跳ねさせたアリステルは喉を鳴らして目を閉じる。
『大丈夫大丈夫、薄―く目を開けてみろ、テーブルには何にも無いから』
促されたアリステルはおずおずと瞼を持ち上げたが、卓上よりすぐ隣にいる邪神の方が気になって仕方ない。そっと視線を向け、ボロ布が視界の端に入ると慌てて下を向く。
『あれ? 何でまだ怖がるんだ? もしかして初めての場所だから緊張しているのか? 困ったな』
空になったテーブルを目視したにも関わらず全くリラックスしない様子を見て、邪神が不快に反響する声に訝しげな色を宿した。
『どうしてずっと震えているんだ』
率直に聞かれたアリステルは俯いたまま、ガタつく指で邪神がいる方を指した。
「か、貌が……」
『かお?』
「さっき、少しだけ見えて――」
『見える? 何が――ああ!』
唐突にポンと音が響いた。手を打ったような音だ。
『そうか、俺がこんな形だから緊張しているんだな』
合点がいったというように、邪神の声のトーンが上がっている。どうやら伝わったようだと、アリステルもホッとした。顔が見えないようしっかり布を巻き直してくれるかと思っていると、降って来たのは予想外の続きだった。
『では人間の姿に変化してみよう。……これならどうだ』
台詞の後半で、声が豹変する。くぐもった気味の悪い音から、玲瓏で透明感のある美声へと。
『きゃああああああ!』
叫んだのは女神だ。少し距離を取ってこちらのやり取りを見守っていたが、何故か悲鳴を上げている。
『何をしておいでなの、邪神様! せっかくの絶世の美貌が台無しだわ!』
『別に良いじゃないか、小さな雛神を怖がらせたくない。アイ、お前も人間基準の姿に変化してやったらどうだ。悪神の愛し子にしたからと言って、いきなり俺たちと同じ感性に変わるわけじゃないだろ』
『それはそうだけれども…………では、このような感じかしら?』
『うん、良い感じじゃないか』
そんなやり取りが流れ込んで来たので、アリステルはそろーりそろーりと視線を上向けていった。嬉しそうな声が響く。
『おっ、顔を上げてくれてありがとう』
目に入ったのは、うねる黒髪を翻した長身の美丈夫だった。天上の存在に相応しい端整な顔立ちに、鍛え上げられた逞しい体躯。双眸は、一切の星明かりを消した闇夜よりも暗い漆黒だ。
『ほれ、アイも……お前の主神たる鬼神アイレーンも、人間仕様で姿を変えてくれたぞ』
長い指が示す方を見ると、美麗ながら醜悪であった女神の姿も様変わりしていた。文句の付けようがなく美しい容貌に、くるぶしまで届く長さの黒い髪。瞳は鈍い灰色。左右の側頭部からはねじくれた角が2本生えている。
邪神と女神共に、外見としては20代の中頃。抜けるような白い肌に、鋭利に尖った耳と爪、獲物を見付けた獣のごとく縦に裂けた瞳孔。美しくも凄絶な麗姿を持つ神が、慈愛深い眼差しをアリステルに注いでいた。
『遅くなったが自己紹介しておこう。俺は邪神アレクシード。神々の中では最古級で、一の邪神とか葬邪神とか呼ばれることもある。邪神は俺の他にもいるから区別するためだ』
ありがとうございました。




