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すっぽんじゃなくて太陽の女神です  作者: 土広 真丘
番外編―葬邪神とアリステル編―
106/146

5.連れて来られた先で

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 そして、状況は現在に至る。


『さぁお食べ、私の愛し子。遠慮しないで、たくさんお食べ』


 満面の笑みを浮かべる醜悪な美女。アリステルにとって誰より神聖で何より崇高な女神が示す卓上には、決して人間が食べるべきではないブツが所狭しと並べられている。

 これらは一体何なのだろうと考えることすら脳が拒否するそれは、あらゆる汚物やゲテモノ料理を遥かに凌駕した『おぞましい何か』だった。もしも人の世でこれらを放映しようと思えば、何重にもモザイク処理をしなければならないだろう。


「……あの……無理です……」

『どうして? さっきお腹を鳴らしていたではないの。空腹なのでしょう、たくさん食べて頂戴』

「いえ、これはちょっと、食べられない……」

『あらまあ、謙虚なのね。では私が取り分けてあげるわ』


 半泣きで首を振るアリステルの訴えを鮮やかにスルーし、純然たる愛おしさと親切心に満ちた眼差しの女神が取り皿を取った。


(き、強制的に食べさせられる……)


 もはや万事休すかと目を瞑った時。


『こら、アイ! 何をしとるんだお前は!』


 奇妙に反響する声が響いた。女神の後方にあるゴツゴツした岩壁にもたれかかり、枯れ木のように細い腕を組んで様子を窺っていた神だ。頭から全身にかけてボロ布を纏い、袖から突き出た腕は青黒く、黒い斑点が無数に浮いている。発する声を聞けば蛆虫が肌を這い回るような怖気が走った。


 布越しでも分かるほどの異形――だが、ひれ伏してしまいたくなるほどに荘厳で神秘的な気を帯びてもいた。女神は彼のことを邪神様と呼んでいた。ここは女神ではなく彼の神域で、女神とアリステルが差し向かいで腰掛ける長卓があるこの部屋は食堂らしい。


 ただし食堂といっても明るさはなく、四方を剥き出しの岩で囲まれた場所に、温かみも何もない硬いテーブルと質素な椅子が置いてあるだけだった。言うなれば、広く寒々しい岩牢の中にいるようなものだ。場所全体が薄暗い上に埃っぽくジメ付いており、カビ臭い中で燭台だけが不気味に揺れている。


 ここまで来れば分かる。彼らは普通の神ではない。どう考えても悪神だ。地上では絶望と恐怖と畏怖の象徴として忌避される神々。だが、醜くて美しい女神は、自分と弟を助けてくれた。アリステルにとってはその事実が全てだ。


『この子は人間だったんだろう、なら人間の食いもんを出してやらんか!』


 ボロ布の邪神が女神を手招きして物申す。壁際まで行って聞いていた女神が不満そうな顔でボソボソと口を動かした。


『……あんなゲテモノ料理を出したら私の愛し子が可哀想? 違うだろ、俺たちにとってのゲテモノがこの子にとってはマトモなんだ。この子に食べさせるならこの子の舌に合わせるべきだろう!』


 なんかマトモなことを言ってくれた。邪神なのに。悪神の代表格として知られる神とは思えない常識的な台詞に、アリステルは目を点にする。と、女神を見ていたボロ布がつとこちらに向いた。


『よしよし、新たな我が同胞よ。そんなにガチガチにならんで良いぞ。俺が人間の食事を作ってやるからな』

『あら、一の邪神様は人の食べ物をお作りになられますの?』


 むくれていた女神が驚いたように聞く。んーと邪神が首を傾けた。はずみで顔を覆っていた布が若干ズレる。


『作ったことはないが、まぁ神だし何とかなるだろ』


 ははは、と濁った声で笑った瞬間、その動作で布が揺れた。元からズレかかっていたこともあり、隠されていた貌(かお)が一部だけチラリと覗く。


「――――――!!!」


 アリステルの呼吸と意識と理解が停止した。通常の人間ならば生命活動も止まっていたかもしれない。垣間見えた容姿は、それほどに恐ろしく醜悪で禍々しいものだった。人間の語彙と表現力では到底表し切れないほどに。

ありがとうございました。

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