↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/48

深海

 幼い頃、僕らはしんかい図鑑を読み耽っていた。あの日から、海の底の生物たちに僕は胸を躍らせ、親友は海底で息づく火山にすっかり魅入られてしまった。


 僕らがしんかい図鑑を初めて見たのは、熱い夏で僕の誕生日から2日経った後。何個かもらったプレゼントの中にそれがあった。当時お目当ての玩具がもらえてすっかり上機嫌だった僕は、図鑑なんてこれっぽっちも興味が無く包み紙さえ破らずにいた。

 キッカケは偶然遊びに来た親友が、包まれたままのプレゼントを見つけ、包装を破いた。真っ青な表紙の綺麗な本。図鑑なんてものをはじめてもらった僕と、少しお調子者の親友はお宝の在り処が隠された本だとはしゃいだっけ。


 当時の僕達は本当にどうしようもないクソガキで、いつでも冒険を夢見てた。だから図鑑がそんな風に見えたんだろうね。

 図鑑に書かれていたのは、お宝の在り処じゃない。当たり前だ、でもそれ以上に価値のあるものだった。


 丁寧に描かれた海底図、不思議な形の生き物達。生まれて初めて触れる、未知の世界。あっという間に僕らは引き込まれた。アニメで見たお宝なんかよりずっとずっと素敵なものがそこにあった。


 それ以降、僕達は図鑑を眺めてはああだこうだと話すようになった。深い海の底に憧れた僕らは、最初は潜水士になりたかった。でも残念、潜水士はそんなに深くは潜れない。

 次に僕たちがやりたかったのは深海探査機の乗組員。これなら深海の世界を思う存分楽しめるって。けれど実は僕らの希望通りの職種じゃない事があとから分かった。深海に潜る時は調査研究の為。自分の好きなようには運転できない。

 で、あれば。僕らは研究者になればいいと気付いた。あの時の胸の高鳴りは今でも覚えている。研究という名目で深海に潜り、見たいところを見れる。運転は操縦士にお任せ、最高じゃないか。


 僕らは研究者になるべく、勉学に励んだ。と言っても子供だったから、テストの点を競うくらいだけど。けれどそれが楽しくて仕方なかった。僕らは常に学年のトップを争うライバルであると共に、夢を追い掛ける相棒だった。


 でもある時、親友は家の事情で遠くに越してしまった。悲しかったし、なによりも張り合いを無くした僕はやる気を無くしてしまった。傷心の日々に、親友から手紙が届いた。

 メッセージもなにもない。百点満点のテストが一枚、それだけ。

 親友は離れたくらいじゃ、へこたれていなかった。それどころか無言でテストを送り付けるくらい、熱意があった。こんな挑戦状を叩きつけられて黙っている僕じゃない。それからはテスト結果を送り合う関係が続いた。


 一応、普通に連絡先は知っていたが、殆ど使う事はなかった。そして月日は経ち、僕らは研究者と呼ばれるようになった。しばらくは変わり映えのない日々だったが、突如目まぐるしく変わる事となる。


 国を挙げての海洋研究、特に深海に関するプロジェクトが立ち上がったのだ。当然僕らも参加した。そして有人探査に向かう今日、このプロジェクトに関わる人全てが一堂に会する。

 しんかい図鑑を見てから数十年、離れ離れになってからかなり経った。僕らは子供から大人へと成長している。離れ離れになったあの日から、一度も会ってはいない。親友は一体どんな成長を遂げているのだろうか。聞きたいことは沢山ある。あぁでも、一番最初に聞きたいのは一つだけ。

 なんであの時、満点のテスト用紙だけ送って来たのかだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。