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温室

 私の妻は俗に言う温室育ちと言うやつだ。素直で人を疑う事はないし、対立も話し合いで解決できると信じている。いつも穏やかに笑う、優しくて愛しくて自慢の妻である。

 ただし気をつけなければいけない事もある。妻は仕事をすればいいように使われ疲弊しているし、契約事も騙される事が多い。どんなに怪しくても困っていると言われれば助けようとする。人が良いのだ。

 だからこそ、私が守らなければと強く思う。彼女がいつまでも純粋な善性を保つ為に。私は夫としてできる限りの事をした。とりあえず妻が働く必要がないくらい稼ぐ。安心して暮らせるように衣食住はもちろん、なんだって整えた。妻の友人たちにも積極的に関わった。夫がいると周知すれば良からぬ考えを持つ男は近寄らないだろう。

 妻が嫌がらない範囲で、できる限り私が妻を守っている事をそれとなく知らしめる。彼女が穏やかにいられる毎日を守るために。

 その甲斐あって、妻は今日も幸せそうだ。ふわふわと砂糖菓子のように愛らしい。出勤前にたまらず抱き締めると彼女は鈴の音を転がしたように笑った。愛しさで胸がいっぱいになる。この笑顔の為に私は働いて、妻を守るために努力をしているのだ。

 もちろん、妻が嫌がるような事はしていない。基本的には好きなようにさせているし、そもそも妻に嫌われたら本末転倒だろう。妻が妻らしく、幸せに、楽しく。そして彼女が傷つかないように活動するのが私の人生の楽しみで、幸せである。

 今日はそんな大好きな妻とのデートの日。仕事先から集合場所に向かえば妻の姿がすぐ目に飛び込んでくる。お出かけ用にお洒落をした妻が私を待っている姿を正直もう少し眺めていたい。

 しかし待たせすぎるのも良くないと、妻の元に歩み寄ろうとした時に事件が起きた。見知らぬ男が妻に話しかけている。おそらくナンパだろう。急いで妻を迎えに行こうとするが、人込みが邪魔でうまくいかない。

 そうこうしているうちに、男が妻の手首を掴んで無理にどこかへ連れて行こうとしはじめた。先程まで柔らかく微笑んでいた妻の表情が不快そうに歪む。良くない、本当に良くない。妻には嫌な思いをして欲しくないのに。

 抵抗する妻を無理にでも引っ張ろうと、男が妻の腰に手を当てようとした。が、瞬きする間もなく男は地面に寝転がっていた。妻はフン、と鼻息荒く男を見下ろしている。やはり妻に投げ飛ばされたらしい。

 ようやく妻の元に辿り着き、抱き締め、妻に怪我がないかと確認する。当の本人はいつもの穏やかな笑顔だ。

「心配してくれてありがとう、あなた。でもわたし、ちゃんと強いから大丈夫よ」

 そんな事は分かっているのだ。妻は温室育ちで、優しくて、そしてとっても強い事を。それでもこんなに愛しい妻を守りたいと思うのが惚れた弱みと言うやつだろう。

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