樹脂
広く響く波の音。その音の中にカラコロと何かが転がる音が混じる。音の正体は琥珀だ。目を開けば一面黄色に彩られた砂浜が広がっている。そう、この国の海岸は琥珀で形成されているのだ。
この国は国土の殆どを巨木の森が占めている。いつからそうだったのかは誰も知らない。さらに建国史においてもまず森が出てくる程である。つまり人の歴史よりもずっと前、遥か昔からここが大樹の森であったことを琥珀の海岸は示しているのだ。
青い海、白い雲、黄金に輝く砂浜。この世界に唯一無二の美しい景色。琥珀が多く産出し、おそらく今なお自然によって作り出されつつあるのだろう。そんな環境下のこの国では不思議な埋葬法がある。
名を琥珀葬、と言うらしい。読んで字のごとく、死体を琥珀にする埋葬法だそうだ。死体を大樹から漏れ出る特殊な樹脂に入れ、地に埋める。そしていつか琥珀になる事を祈る。
なぜ琥珀になる事を祈るのかは、聞いた気がするが覚えていない。それよりも私は肉体の全てが宝石に包まれ、長い時を渡ることができることの方が衝撃だった。
なんと魅力的で、幻想的な話だろう。骨がオパールになる事は稀にあると聞いていた。そしていつか私の骨がそうなればと、淡く夢を見ていた。私の身体が、骨が、美しい鉱物になれればと。
しかし琥珀になれるのならば、そちらの方がずっといい。来るかも分からない死を待つよりも、生きたまま、肉体全てを余すところなく、全てを美しい宝石に囚われて、私は悠久の時を流れる。さらにはもしかしたら人に見つかって称賛も得られるかもしれない。
想像するだけでゾクゾクと身体が震える。鼓動が高鳴り、頬が紅潮していく。きっととても美しいのだろう。私の肉体を包んだ琥珀は。未来ではどれだけの価値になっているのだろう。まだ樹液に埋もれてすらいないのに、既に楽しみでしかたない。
さっそくやってみようとしたが、琥珀葬は特定の身分の者のみされるらしい。仕方がないので私はこの国にしばらく根を下ろす事にした。この国で琥珀になるために。美しくあるために。滞在期間が長いおかげで既に周りの人間は私を信頼しきっている。既に政治の中枢に手が届き、琥珀に埋もれることができるのもそう遠くないはずだ。
少しずつ、ゆっくり、着実に。時間は分けてやりたい程にあり、私の美しさが色褪せることはない。永く永く生きたのだ。この程度、朝の紅茶のようなもの。
準備という名の紅茶を飲み干せば、私は琥珀色の樹脂に身を埋め眠るだけ。そして琥珀に包まれ美しく、安らかに、何万、何千万年と静かな安寧に耽るのだ。




