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天秤

ki-you様の「悪魔とリブラ」の二次創作です。

参照→https://youtu.be/yTZV-r-jNsw?si=aYCnf-JwFdaPvPgO

 やりたいことと、やらなきゃいけないこと、しちゃいけないこと、しなくていいこと。間違わないように、慎重に。そうして僕の善行は積み重なっていく。


 でもこれは時折台無しになってしまう。原因はコイツ、捻れた角に赤い目の悪魔。怪しい笑顔でいつも僕を見つめてくる。


 悪魔は時々、僕に囁く。魅力的なお誘いを。日々、積み上げた努力が崩れるような提案を。そして極々稀に、僕は誘いを受けてしまう。


 悪いことだと分かっているのに、その時だけは我慢できなくて。でも終わった後は必ず罪悪感に苛まれて。そんな時、悪魔は嬉しそうに微笑んで僕を見つめている。


 負けないように、欲を押し込んで善行を積む。でも悪魔は楽しそうに欲に負ける僕を見る。僕にしか見えない悪魔。甘い誘惑をしてくるコイツは、絶対に僕の心の側面なんかじゃない。


 こんな時、天使がいてくれたらいいのに。そしたらこの悪魔を追い払ってくれるだろうか。誘惑に乗ってしまう僕を、導いてくれるだろうか。


 今日も今日とて僕は善行を積む。祈り、親を手伝い、隣人を愛する。小さな積み重ねでも主は見てくれると聞いた。だから頑張って我慢してるのに、悪魔はこう囁くんだ。

「たまには、手伝いをサボって昼寝してもいいんじゃないか?」


 長い指でクルクルと毛先を弄んで悪魔が言う。

 いいやダメだ。そんな事をしたら父さんと母さんが困ってしまう。それに、ご飯の時間が遅れる羊達が可哀想じゃないか。


 「なら、羊をいつもの場所に放してから寝ればいい。これなら君のご両親も困らないし、羊達も可哀想じゃない」

 僕の思考を読み取った悪魔が代替案を出してくる。いやいや、空いた時間は聖書の勉強をするんだ。聖書を持って、羊達をいつもの場所に連れて行く。


 「昨日、夜遅くまでやっていたじゃないか。君の信じる神様とやらは普段真面目な信徒が少し休憩したくらいで罰するほど心が狭いのかい?」

 ニンマリと赤い目を細くして悪魔はコチラを見て言った。


 グラグラと頭の中で天秤が揺れている。確かに昨日は夜遅くまで勉強をした。正直そのせいでちょっと眠い。今日はいい天気だから、木陰で眠るのはきっと気持ちがいい。

 けれど勉強もしなくっちゃ。シスターや牧師様に褒めてもらうんだ。頑張ったねって、主はあなたの努力を見ていますよって。こんな田舎で、羊飼いの僕に文字を教えてくれたんだ。失望されたくない。

 木陰に座り、聖書を開いた。

「あの2人、そんなに厳しいタイプだったか?」


 …………やってしまった。気づけば日はとっぷり暮れて、帰る時間になっていた。せっかく勉強しようとしてたのに、ちょっと座っただけなのに。すっかりしっかり眠ってしまった。

「ずいぶんと気持ちよさそうにしていたな?」


 クスクスと笑いながら悪魔は僕の寝癖を撫でる。うるさいうるさい、君のせいだろ。なんで隣に座ったんだよ。ゆっくりポツポツ話したんだよ。無駄にいい声響かせやがって、そんなの眠くなるに決まってるだろ!


 むくれる僕を見ながら悪魔は笑う。その目が嫌に優しくて、どうしようもなく甘えたくなってしまって、逃げるように空を見上げた。小さな星が光り始めて、母さんが心配しだす時間だと気付いた僕は慌てて帰り支度をする。悪魔はそんな僕を鼻歌を歌いながら待っている。

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