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朧月

 知ってるかい?月には龍がいるんだ。


 え?月にいるのは兎じゃないかって?もちろんいるとも。兎だけじゃない。犬も牛もいる。つまり、月にいるのは兎だけじゃないってことさ。単純だろ?


 待て待て。ちょっとからかっただけじゃないか。そんなに怒るなよ。まったく。可愛い顔して短気なんだから。嫁の貰い手がなくなるぞ。ん?いや独り言。


 それでだな。月にいる動物たちにはそれぞれ仕事があるんだ。月が満ちて消えるまで、それぞれ番をするんだ。満月は兎、新月は蛇と言う風にな。


 それぞれの得意なことだったりできることでいつ番をするのか決まったんだ。雨と曇りの日はお休みだがね。しかしちょっと困ったことがあった。月が雲でぼんやりと隠れる日だ。


 この日は厄介でね。中途半端に月が隠れるもんだから、いたずらしてくるやつが大勢いる。そこで薄ぼんやりと月が隠れる日は一番強いやつが番をすることになったのさ。


 こういう日をなんて言うか知ってるかい?そう朧月夜だ。朧の文字を見てご覧。ちゃぁんと龍の字が入っているのはそう言うこと。龍は雨と雷を司るからな。何かあれば雲で隠して、雨で押し流して、雷をドカンと当ててやるのさ。


 そうそう。すごいだろすごいだろ。龍はとっても強いんだぞ。もっと褒めてやるといい。きっと喜ぶ。


 そんな龍だがな、ある時とってもいいものを見つけたんだ。なんだと思う?可愛い女の子だよ。いつものごとく番をしていて、ふと地上に目を向けたら年若い、可愛い娘を見つけたんだ。


 龍はそれはもう、その娘に入れ込んでしまってな。番のある日は必ずその娘を見ていたし、番のない日はその娘を思って過ごしたのさ。


 ある時、とうとう龍は辛抱ならなくなって人の男に化けて地上に降りたんだ。ほんのちょっと、ほんのいっときだけ話をしたくてね。


 そうして人に化けた龍は恐る恐る娘に話しかけた。こんばんはってね。娘は不用心にこんばんはって返したんだ。夜に、しかも見知らぬ男に話しかけられているのに。本当に不用心なことだ。こんなこと言っちゃなんだが、少し心配になるくらいだな。ん?何?まぁ聞け。そう急くなよ。

 そうして娘と男は夜にひっそりと会話をする仲になったんだ。ただ、会ってたわいのない話をするだけ。それだけだったんだがな。


 だが龍にとってはこの上なく幸せな時間だった。永遠に続けばいいと思うほどに。ただまぁ、世の中そんな上手くいかないし、幸せな時間は長くは続かないものだ。幾度も月が沈んだ頃、月の動物たちにこのことがバレたんだ。


 それはもう、非難轟々。毎夜女にうつつを抜かすとは、月を守る神獣であるのになんたること、と。しかしこんな時でも味方はいたのさ。惚れっぽい猿や一途な蛇なんかは真に心を注いでいるのならいいじゃないかと。


 そうして幾度か話し合いが行われ、とある結論がでたのさ。こんなことじゃ、番は務まらぬ。だが、恋仲の男女を無理に引き裂くのはあまりにも非情な話。それならば、惚れた娘を月に嫁に迎えればいいじゃないかと。そしたら仕事さえすれば、妻に夢中になっている分には文句はないと言うわけだ。ただし、できねばスッパリ諦めよ。そういうことだ。


 ま、と言うわけで、龍は今宵、朧月の中で娘に求婚をするんだな。どうだい。この話。身に覚えがあるだろ。野暮なことは聞くなよ。簡単な問いかけだ。君は一言、たった一言言ってくれればいい。


 「なぁ、龍と一緒に月に行ってくれるかい?」

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