逆光
強い光を受ける。光に包まれステージを見下ろせば、観客達の顔がよく見えた。期待、不安、退屈、興味。それぞれの感情と視線のすべてが私に向かう。しばしの無音。私はゆっくりと両手を広げ、朗々と語りだす。
ここは世界的な大劇場。大舞台のとある演目で私は殺人犯を演じている。犯人が独白をするシーンではステージから観客達に向けて強いライトが当てられ、犯人の顔を見ることができないのだ。光に紛れ、形も分からず。声から女であることは分かるものの、登場人物はすべて女性である。
すべてを見ることができる物語のシーンとなにも見ることができない独白シーン。この視覚差が人気を呼び、小さな劇場で演じていた私達は、この大舞台に立つことができた。そして私はこの演出がたまらなく好きだった。
どんどんと進んでいく物語、徐々に明らかになっていく思惑はこの演出と相まって観客たちを翻弄していく。そして物語の終盤、探偵が犯人を指し示すその瞬間。最後の独白が始まる。
「あの人を愛していたのよ。でもだからこそ、許せなかった」
語りが始まる。全ての仕草を大仰に。けれど、言葉は途切れずに。観客たちの視線はすべて私に注がれる。私は殺人犯として独白を続けた。動機、トリック、アリバイ作り。濁流のように全てをぶちまける。そうして全ての台詞が終わると全てのライトが私に向けられた。
私から観客は見えない。しかし、観客たちは初めて犯人の顔を見るのだ。どよめきが広がっていく。一つ一つは小さな声でも集まれば大きな波となる。その瞬間がたまらなく心地いい。私は彼らの表情を見ることはできないが、どう思っているか手に取るように分かる。そして演出、脚本に、驚くのだろう。
独白の終わったこの瞬間、私は光に飲まれ、達成感を味わうのだ。




