絵描き
彼は偉大だった。そう民衆は口々に彼をこう評価する。未来に遺すべき作品の数々だと。はたして本当にそうだろうか。確かに彼はどんなものでも描いてみせた。神も人も動植物も建物も。それらは高い描写力と繊細な色彩によって形作られ、時には権力者に、時には乞食に愛された。彼が望んだ報酬はその時によってまちまちだった。例えば、豪邸が3つ作れるような金銭。例えば、幸福だった時の思い出話。報酬がなんであれ、彼は全ての絵に対し全力を尽くしていた。
彼は人格者とは言い難かったが、悪人でもなかった。至ってそこらにいるような人間だった。普通に生まれ、普通に育ち、普通に老いて、普通に死んだ。そう、彼は普通の人だった。絵が描けるだけの普通の人間。でも、絵が描けることによって彼は普通の扱いはされなかった。彼は誰もいないところで嘆き悲しんだ。誰かのように、友情を育みたかった。誰かのように、心の底から愛し合いたかった。
彼に近づく者は、家族でさえ、彼の絵が目当てだった。高く高く売れる絵画。彼が描いたその絵画。彼が必要なのではない。彼が生み出したものが必要だったのだ。彼自身が求められることはその人生の終わりに至るまでついぞなかった。彼は孤独のうちに死んだ。カンバスと筆と小さなベットしかない部屋。その小さなベットの上。薄い毛布に包まりながら。小さく小さく身を縮めて。薄暗い中で。
あぁ哀れなことだ。彼の死体は催促にきた金持ちの使いが見つけた。金持ちは大いに悲しんだ。絵画が得られないことを。仕方がないから同じ絵を別の絵描に頼んだ。彼の絵を愛した民衆は大いに嘆いた。新しく彼の絵が見れないことを。仕方がないから彼がこれまで描いたものを見ることにした。家族は大いに苦しんだ。彼の絵を売って金を得ることができなくなったから。仕方がないからこれまでの贅沢をやめ、高価な物を売ることにした。
彼の死を悼む者はいなかった。寂しい、哀れな最後だった。彼のどこが偉大なのだろう。彼の作品のどこが未来に遺すべきなのだろう。彼の才能は人々の欲を呼び込み、彼の作品は孤独を作り出した。
彼が眠るその墓はとうの昔に朽ちている。




