昔日
遠い遠い過去の話だ。私には心を許した友がいた。誠実に向き合い。時には激しく議論し、称え合った。何者にも変え難い、大切な友だった。
ある時、私は自身の愚かさによりこの身に堕ちた。なんとも恥ずかしいことしたと悔いている。そしてそれはあまりにもちっぽけなことだった。そんなちっぽけな私は、その愚かさに気付かずに、私だけでなく、父母や妻子まで不幸にしてしまったのだ。
父の落胆した背、母の悲しみを映した瞳、妻のあの顔、子の泣き声。忘れられようか。それらは今でも不治の病のように私を蝕んでいる。私は耐えられなかった。一時でも目を背けたかった。だから逃げた。遠く遠く、誰もいない、私を知る者がいないところへと。
それらの代償はあまりにも大きかった。私は人の姿、心を留めることすら許されず、獣として生きていくしかなくなった。あと数刻もしないうちに私は言葉を記すことも話すことも、できなくなるであろう。
友よ、最後にお前に会えて良かった。人の心の最後の時に、お前に会えたことを天に感謝しよう。そして、お前が最後まで獣に身を落としたこの私を人として接してくれたことを心の底から幸福に思う。
友よ、我が友よ。獣に身を堕としてまでも願い続ける私の浅はかな欲に付き合わせてすまない。
友よ、我が友よ。妻子のことを頼む。妻は気立てがいいが、少し神経質なところがある。見合う夫を見つけてやってくれ。
友よ、我が友よ。どうか私のようにはなるな。誠実で、実直なお前のことだから、無用な心配であることは自覚するがそう願わずにはいられないのだ。
あぁ、もう人ではいられなくなる。私はなんと愚かだったのだろうか。後悔の念ばかりが押し寄せる。こんなことのために私は生まれ出で、歩みを進めてきたのか。
私は、どうして――




