↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/94

エピローグ 今日を語る人々

 旅は続いていた。

 目的地を急ぐこともなく。

 答えを探し回ることもなく。

 ただ、人々の暮らしを見つめながら。

 五人は世界を歩いていた。

 ◇

 最初に立ち寄ったのは、小さな花の町だった。

 町の入口では、色とりどりの花が風に揺れている。

 その傍らを、小さな花の妖精たちが楽しそうに飛び回っていた。

「見て!」

 子どもの声が響く。

 一人の少女が、大切そうに花を抱えている。

「今日はね、お父さんがお仕事お休みだったの!」

 少女は嬉しそうに花壇へ花を植えた。

「だから、このお花」

 花の妖精がその花へそっと触れる。

 つぼみだった花が、ゆっくりと開いた。

「わぁ……!」

 少女の笑顔に、花の妖精も嬉しそうに笑う。

 セリアは静かにその光景を見つめていた。

 悲しみだけではない。

 喜びもまた、花になるのだ。

 ◇

 さらに旅を続ける。

 夕暮れ、懐かしい灯りが見えてきた。

「星灯り亭だ」

 リリカが笑顔になる。

「久しぶり!」

 扉を開くと、鈴が軽やかに鳴った。

「いらっしゃ……おや!」

 店主のエルドが目を丸くする。

「帰ってきたねぇ!」

 ミレナも嬉しそうに笑った。

 その夜、食堂には旅人たちが集まっていた。

 温かなスープの香り、笑い声、食器の触れ合う音。

 以前と変わらない景色。

 ミレナは料理を運びながら、いつものように席を回る。

 そして、にこりと笑って尋ねた。

「今日はどんな一日だった?」

 一人の旅人が笑う。

「橋の上で虹を見たよ」

 別の旅人が言う。

「道に迷ったけど、そのおかげで綺麗な湖を見つけた」

 また別の誰かが笑う。

「今日初めて、この宿に泊まるんだ」

 それを聞きながらエルドは何度も頷く。

 とても嬉しそうだった。

 セリアは静かにその様子を眺める。

 隣でレオンがぽつりと呟いた。

「……あの人は、毎日聞いてるんだな」

 ミレナが小さく笑う。

「毎日聞いてるの」

 優しく店内を見渡して。

「だって今日の話は、今日しか聞けないじゃない」

 その言葉に、セリアは自然と微笑んでいた。

 ◇

 山あいの診療所。

 薬師のエリオスはいつものように患者を見送っていた。

「薬は無理に飲まなくてもいい」

「ちゃんとご飯を食べて、眠ること」

 患者は笑って頷く。

「ありがとうございます」

 帰ろうとしたその時。

「そうだ」

 エリオスが穏やかに声を掛けた。

「今日はどんな一日だった?」

 患者は少し驚いた顔をした。

 けれどすぐに笑った。

「孫がね、花を摘んできてくれたんです」

「それは良い一日だ」

 診療所を出る患者の足取りは、来た時より少し軽かった。

 ◇

 遠く離れた塔。

 ノクスは机に向かっていた。

 静かな部屋には窓から風が吹き込む。

 日誌を開き、ペンを取る。

   今日は、風が心地よかった。

 少し考えてもう一行。

   世界は今日も、歩いている。

 その文字を見つめノクスは静かに微笑んだ。

 ◇

 夕暮れ時、セリアたちは丘の上を歩いていた。

 世界は広い。

 忘却は、これからもきっと訪れるだろう。

 それでも、

 花を咲かせる人がいる。

 歌を紡ぐ人がいる。

 手紙を書く人がいる。

 今日を語る人がいる。

 セリアは振り返る。

 誰もいない道。

 けれど、これまで出会った人々の笑顔が心の中に浮かんでいた。

「どうした?」

 レオンが尋ねる。

 セリアは首を横に振る。

「ううん」

 少しだけ空を見上げて。

 柔らかく笑う。

「今日も素敵な一日だったなって」

 ◇

 風が吹く。

 その風は、今日も誰かの言葉を乗せながら世界中を巡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。