最終話 共に歩め
朝露をまとった草原を、五つの影がゆっくりと歩いていた。
風は穏やかだった。
鳥のさえずりが遠くから聞こえる。
見渡す限りの青空。
旅立ちの日と何も変わらない景色。
けれど、歩く足取りだけがあの頃より少しだけ軽かった。
「今日はいい天気だね」
セリアが空を見上げる。
「うん!」
リリカも大きく伸びをした。
「こんな日はお昼寝したくなる!」
「お前は毎日言ってるだろ」
ガルドが呆れたように笑う。
「えへへ」
そのやり取りに、みんなが笑った。
◇
道端には、小さな白い花が咲いていた。
風に揺れながら、陽の光を受けている。
セリアは足を止める。
そっとしゃがみ込む。
花に触れることはせず、ただ眺めた。
「綺麗だね」
その一言だけだった。
レオンも隣へ立つ。
「そうだな」
短い返事。
それだけで十分だった。
◇
風が吹く。
花が揺れる。
どこか遠くで、誰かの歌が聞こえた気がした。
それは風奏の街からか。
あるいは旅人が口ずさんでいるのか。
もう分からない。
「聞こえた?」
リリカが耳を澄ませる。
「うん」
セリアは微笑む。
「なんだか嬉しそうな歌」
◇
少し歩くと、小さな橋があった。
川の水は静かに流れている。
ユークは欄干にもたれながら言った。
「世界って、不思議ですね」
「どうして?」
セリアが尋ねる。
「旅に出た頃は、世界には答えがあると思っていました」
「どこかへ行けば見つかるものだと」
ユークは川面を見つめる。
「でも違いました」
「答えは、人の暮らしの中にあった」
誰も何も言わない。
その静けさが心地よかった。
◇
橋を渡る。
また道が続く。
昨日まで歩いていた道と変わらない。
けれど、もう同じ道ではなかった。
「ねぇ」
リリカが振り返る。
「また新しい町に行くのかな?」
「きっと」
セリアが笑う。
「まだ見たことのない景色がたくさんあると思う」
「楽しみですね」
ユークが言う。
「そうだな」
ガルドが頷く。
レオンは黙って前を見つめていた。
やがて道は二つに分かれた。
右へ続く道。
左へ続く道。
どちらにも道標はない。
「どっちにする?」
リリカが首を傾げる。
セリアは少しだけ考えた。
そして空を見上げる。
今日の風は優しい。
花の香りがした。
遠くで誰かが笑っている。
きっと、世界は今日もそれぞれの場所で今日という一日を過ごしている。
セリアはみんなの方を向いた。
優しく笑う。
「行こう」
レオンが微笑む。
「どこへ?」
セリアは少しだけ首を傾げた。
まるで、その答えはもう決まっていると言うように。
「一緒に」
◇
五人は歩き出す。
風が吹く。
花が揺れる。
空はどこまでも青かった。
旅は続いていく。
忘れる日が来るかもしれない。
悲しい日もあるだろう。
それでも、
誰かと笑い合った今日が。
誰かに綴った言葉が。
誰かと歌った歌が。
誰かに話した一日が。
きっとまた、誰かの明日へ繋がっていく。
風は今日も、世界を巡る。
花は今日も、静かに咲く。
人は今日も、それぞれの物語を生きている。
◇
これは、それぞれが自分なりの方法で誰かと繋がろうとする物語。
ここまで読んでいただきありがとうございました!




