第七十二章 雨宿りのお茶会
ユークが宿へ戻る頃、雨はまだしとしと降っていた。
みんなは宿の一階にある喫茶スペースに集まっていた。
窓辺、雨音、湯気の立つ紅茶。
そして、
「おかえりー!」
リリカだった。
「今日はこの街の名物ティラミスだよ!」
ユークも少し笑う。
張り詰めていた気分が少しほぐれるようだった。
「調べてきました」
すると、全員が自然と耳を傾ける。
ユークは席に座った。
「昔にも似たような現象があったみたいです」
静寂。
雨音だけが聞こえる。
「ただ、肝心な部分が抜け落ちていました」
「途中から記録がありません」
ガルドが腕を組む。
「意図的に隠されたってわけじゃないのか?」
「分かりません」
「でも不自然です」
「昔にもあったんだ……」
すると、リリカがぽつりと言った。
「なんか不思議だね」
「みんなも今みたいに困ってたのかな」
誰も答えられない。
すると、レオンが言う。
「案外、今と変わらなかったのかもな」
「困って、悩んで、それでも毎日を過ごしてた」
静かな言葉だった。
セリアも笑う。
「そっか、そうかもしれないね」
雨音が響く。
そして、リリカはティラミスを頬張る。
「うん!美味しい!」
ガルドが苦笑する。
「切り替えが早いな」
「大事なことだよー!」
笑い声が広がる。
それを聞きながらも、ユークだけはまだ少し考えていた。
昔にもあった
でも記録が残っていない
なぜだろう
窓の外を見る。
雨が降っている。
途切れることなく。
そしてふと思った。
もし……
それ自体が記録を残せない現象だったとしたら
でも、口には出さなかった。
まだ仮説だから。




