第七十一章 残された文字
雨音の街の朝は、今日もしとしと雨が降っていた。
窓を伝う雨粒。
遠くで鳴る鐘の音。
ゆっくりと流れる時間が心地良い。
◇
朝食を終えた頃だった。
ユークが立ち上がる。
「少し調べてきます」
「出た」
リリカが笑う。
「絶対言うと思った」
ガルドも苦笑する。
「夕方までには戻ります」
ユークは真剣だった。
すると、セリアが笑う。
「行ってらっしゃい」
「何か分かったら教えてね」
「はい」
そして、ユークは街の記録庫へ向かった。
◇
石造りの建物。
大きな窓。
棚には日記や手紙が並んでいる。
何百年も前のものまで。
司書のおばあさんが笑う。
「雨音の街へようこそ」
「調べものかい?」
「はい」
ユークは頷く。
「最近起きている物忘れについてです」
すると、おばあさんの顔が少し曇る。
「やっぱり気になるかい」
「はい」
「皆さん気味悪がってます」
「そうねぇ」
「この街には古い記録がたくさんあるから」
「似たような話が残ってるかもしれないね」
ユークの目が輝く。
そして、資料を読み始める。
一冊。
また一冊。
さらに一冊。
時間だけが過ぎていく。
やがて
「……あった」
ユークが小さく呟く。
古い日記だった。
表紙にはこう書いてある。
雨暦三九七年
随分昔のものだった。
ページをめくる。
最近、物忘れをする者が増えている
最初は年齢のせいだと思っていた
さらにめくる。
だが違った
若者も忘れる
老人も忘れる
子どもも忘れる
ユークの手が止まる。
さらに読み進める。
今年は皆、少しずつ何かを忘れている
静寂。
雨音だけが聞こえる。
そして、 次のページをめくる。
……ない。
次。
……ない。
また次。
その後は何も記録がなかった。
ユークは瞬きをする。
そして小さく呟く。
「肝心なところが……」
「ない……」




