第六十八章 旅は続いていく
風奏の街を出発する朝、空はよく晴れていた。
楽師たちの音色も聞こえる。
いつも通り。
でも、ほんの少しだけ静かな気がした。
「行ってくるねー!」
リリカが大きく手を振る。
ミアも笑顔で振り返す。
「また来てね!」
「うん!」
「今度はもっとゆっくりしていって!」
ミアが少し笑う。
そして、
「リリカ、また素敵な仲間と旅してるんだね」
リリカも笑う。
「うん!そうみたい!」
◇
風が吹く。
そして、セリアたちは再び街道を歩き始めた。
歩きながらみんな少し考え事をしている。
するとリリカが口を開いた。
「なんか嫌だね」
珍しい言葉だった。
セリアが振り返る。
「何が?」
リリカは少し考える。
「誰かが困ってるのも嫌だけどさ」
「自分が忘れちゃうのが嫌なんだと思う」
静かな風が吹く。
ガルドが言う。
「だから今覚えておけばいい」
ユークも頷く。
「記録も残せます」
リリカが吹き出す。
「あはは!みんな答えが違う!」
「でもさ」
空を見上げる。
昔の仲間、今の仲間、両方を思い浮かべながら。
「みんなと過ごしているっていうこの事実が消えるわけじゃないもんね」
セリアが笑う。
「うん」
「だから今日も大事にしたいな」
ガルドが苦笑する。
「毎日そんなこと言ってるな」
「そうかも」
笑い声が広がる。
その時だった。
街道の先に一軒の宿屋が見えてきた。
休憩がてら立ち寄ることにする。
すると宿屋のおばあさんが困っていた。
「どうしました?」
セリアが声をかける。
「あらねぇ……」
「孫が好きなお菓子を作ろうと思ったんだけど……」
「なんだったかしら」
「毎年作ってるのにねぇ」
おばあさんは笑う。
困ったように。
でも、どこか気にしていないように。
全員が顔を見合わせる。
風奏の街の祭りの歌。
妖精国のおじいさんの願い事。
小さな違和感たちが一つずつ線になり始めていた。
◇
風が吹く。
旅は続いていく。
穏やかなまま。
だけど世界は少しずつ変わり始めていた。




