第六十七章 途切れた旋律
祭り当日の風奏の街は朝から賑わっていた。
色鮮やかな旗、たくさんの屋台、演奏する楽師たち。
そして、踊る子どもたち。
街全体が音楽に包まれている。
「やっぱりすごいなぁ」
セリアが辺りを見回す。
「でしょー!」
リリカも笑う。
いつもの笑顔だった。
それを見て、セリアは少しだけ安心する。
昨日のこともあったから少し気になっていたのだ。
「お祭りって夜まであるの?」
「あるよー!最後にみんなで集まって歌うの!」
リリカが嬉しそうに言う。
「昔から?」
「うん!」
「ずーっと昔から!」
その表情を見てセリアも笑う。
リリカの好きな場所なんだな、そう思った。
◇
そうして夜になると、広場に人々が集まっていた。
街中の灯りが灯り、楽師たちが並ぶ。
大人も、子どもも、みんな笑顔だった。
演奏が始まり、みんなが歌い始めた。
穏やかな旋律と優しい歌声が心地よかった。
すると、一人止まる。
また一人。
また一人。
歌声が少しずつ減っていく。
「あれ?」
「なんだっけ?」
「えーっと……」
困ったような笑い声。
誰も騒がない。
でも、音が足りない。
音楽の街なのに。
一瞬だけ静寂が生まれる。
それが妙に寂しかった。
リリカが歌う。
続きを知っているから。
だけど途中で止まる。
昨日と同じだ。
ただ、今度は少し長い。
「あれ……?」
小さな声。
誰にも聞こえないくらい。
◇
風が吹く。
演奏だけが続いていく。
歌詞がなくても楽器は鳴っている。
それが余計に切なかった。
帰り道、珍しくリリカが静かだった。
その時、ユークが口を開く。
「妖精国のことを覚えていますか?」
全員が顔を上げる。
「おじいさんのこと?」
セリアが答える。
「はい」
「願い事を書く時に、誰のために書くのか忘れていました」
「今回は歌です」
「まだ断定はできませんが……」
「記憶に関する異変が広がっている可能性があります」
静寂。
◇
風が吹く。
リリカは空を見上げていた。
少しだけ寂しそうに。
でもその顔は、歌を忘れたことよりも別の何かを考えているようにも見えた。
遠く祭りの余韻が聞こえてくる。
誰かが鼻歌を歌っている。
でも、その人も途中で止まった。




