第六十五章 懐かしい音色
風奏の街は賑やかだった。
どこへ行っても音楽が聞こえる。
広場、路地、橋の上、店先。
楽師たちが自由に演奏していた。
セリアは楽しそうに辺りを見回す。
リリカは、珍しく少し静かな気がした。
ミアとの再会の後だったからかもしれない。
先ほどの女性はミアという名前のようだ。
もちろんリリカも笑っていた。
楽しそうだった。
ただ、どこか考え事をしているようにも見えた。
◇
その日の夕方、宿へ戻る途中だった。
街角のカフェ。
ミアが手を振っていた。
「リリカー!」
子どもを抱いたまま笑顔で近づいてくる。
「少し時間ある?」
「あるある!」
リリカも笑う。
そして、二人は久しぶりに腰を落ち着けて話をした。
昔話、旅の話、失敗談、懐かしい思い出。
次から次へとあの頃の思い出がよみがえってくるようだ。
笑い声が絶えない。
そして、ミアが言う。
「そういえば、この前エルンから手紙来たよ」
リリカの動きが止まる。
「え?今も連絡とってるの?」
「うん」
ミアは不思議そうに頷く。
「年に数回だけどね」
エルン、昔の仲間。
誰よりも地図を描くのが好きだった人。
旅の途中、焚き火の横でいつも未来の話をしていた。
「そっか」
リリカは笑う。
「元気なんだ」
「元気元気」
「今は港町にいるらしいよ」
ミアは楽しそうに話す。
次の仲間、その次の仲間、みんなの近況。
夢を叶えた人、家族を持った人、旅を続けている人。
リリカはそれを笑顔で聞いていた。
本当にちゃんと笑顔で。
でも、胸の奥が少しだけ痛かった。
みんな元気だった。
それは嬉しい。
本当に嬉しい。
だけど、知らなかった。
みんなが繋がっていたことを。
自分だけが時間の流れから少し外れていたようなそんな気がした。
その時だった。
「ねえ」
ミアが言う。
「リリカ」
「ん?」
「良い顔するようになったね」
リリカは瞬きをする。
意味が分からなかった。
「なにそれ」
「本当だよ」
ミアは笑う。
昔と変わらない笑顔で。
「昔も楽しそうだったけど今の方が柔らかい」
「また素敵な仲間と旅してるんだね」
言葉が出なかった。
思わずセリアたちの方を見る。
少し離れた場所で、リリカを待ちながら何か話している仲間たち。
レオン、ガルド、ユーク、セリア。
気付かなかった。
いや、見ようとしていなかったのかもしれない。
自分はずっと失ったものばかり見ていた。
でも、今ここにあるものもちゃんと大切だった。
◇
風が吹く。
遠くで誰かが歌っている。
この懐かしい旋律は聞いたことがある気がした。
けれどなぜだろう。
歌詞の続きを一瞬だけ思い出せなかった。
リリカの笑顔が止まる。
ほんの一瞬だけ。
誰も気付かなかった。
本人以外は。




