第五十四章 湖国限定
翌朝、事件は無事解決した。
街は再び平和を取り戻していた。
そして、リリカは朝から元気だった。
「みんな聞いて」
嫌な予感。
「湖国限定スイーツ完全制覇計画を始めます」
嫌な予感しかしない。
「却下だ」
レオンが即答した。
「まだ何も説明してない!」
「聞かなくても分かる」
正論だった。
だがリリカは負けない。
「湖風祭限定の花蜜クレープ」
「昨日食べた」
「湖畔限定の風鈴ゼリー」
「昨日食べた」
「妖精の木の実タルト」
「昨日食べた」
「限定果実パフェ」
「昨日食べた」
全員静かにリリカを見る。
「制覇済みでは?」
ユークが言った。
「まだ六割!」
どれだけあるんだろう。
◇
広場へ向かう。
朝の市場には、賑やかな声、焼きたてのパン、花の香り。
そして、リリカは走った。
「限定ー!!」
速い。
冒険者としてではなく。
スイーツ愛好家として速い。
「迷子になるぞ」
ガルドが言う。
「ならない!」
その直後、
「迷ったー!!」
広場の向こうから声がした。
「五分だぞ」
レオンが呆れる。
「新記録だな」
ガルドが笑った。
平和だった、本当に。
セリアは思わず笑う。
こんな時間が好きだった。
何かを追いかける旅も、事件も、大切だ。
でも、こういう何気ない時間も同じくらい大切だと思う。
「楽しそうだな」
ふと、隣から声がした。
レオンだった。
「うん」
セリアは頷く。
「みんなといるとね」
レオンは少しだけ微笑んだ。
本当に少しだけ。
でも、セリアは見逃さなかった。
やっぱり思う。
優しい。
いや、元々優しい。
だけど、今はもっと自然だ。
肩の力が抜けたみたいに。
穏やかで、温かい。
白き森できっと何かが変わったのだろう。
そして、それを見ていると自分も少し嬉しい。
理由はまだ分からないけれど。
◇
「いたー!!」
リリカが戻ってきた。
両手いっぱいの紙袋。
「見て!」
「多い」
レオン即答。
「これは保存用」
「食べ物だぞ」
笑い声が広場に響く。
その時だった。
市場の片隅で風が吹いた。
ふわり。
柔らかな風。
そして、誰にも見えない場所で。
小さな影が彼らを見ていた。
風の妖精、昨日の子どもたちだった。
そしてその後ろには静かに佇むもう一つの影。
長い髪。
風のように流れる衣。
穏やかな瞳。
妖精たちの長、風の長老。
長老はセリアを見つめる。
胸元のペンダントを見つめる。
そしてほんの僅かに目を細めた。
「なるほど」
誰にも聞こえない声。
「そういうことか」
風が吹く。
長老の姿は次の瞬間には消えていた。




