第五十三章 湖風祭
夜の湖は美しかった。
無数の灯籠が湖面を流れている。
揺れる光、風に乗る歌声。
祭りは最高潮を迎えていた。
広場では演奏が鳴り響いてて、屋台には人だかり。
そして、
「三個目」
ガルドが言った。
「四個目」
ユークが訂正する。
「五個目だよ」
セリアも言った。
リリカは花蜜タルトを頬張っていた。
「お祭りだから」
万能理論だった。
「その理屈はおかしい」
レオンが呆れる。
「おかしくない」
リリカは真顔だった。
笑い声が広がる。
こんな平和な夜は久しぶりだった。
セリアは湖を見る。
灯籠がゆっくり流れていく。
綺麗だった。
風が吹き髪が揺れた。
「寒くないか」
隣から声がすると、レオンだった。
自然な声、自然な距離。
「大丈夫」
セリアは笑う。
「そうか」
短いやり取り。
でもなんだろう。
少しだけ胸が温かくなる。
レオンは昔から優しかった。
ずっと変わらず優しかった。
でも、最近は少し違う。
やっぱり優しい。
そう思う。
ただ、前みたいに
心配
不安
守らなきゃ
そんな切羽詰まった感じじゃない。
もっと穏やかだ。
見守るような。
信じているような。
そんな優しさ。
白き森で何かが変わったのかもしれない。
ふと、セリアは思う。
私はどう思っているんだろう。
レオンのこと。
尊敬している。
頼りにしている。
それは間違いない。
でも、それだけだろうか。
湖面を見つめる。
揺れる灯籠。
答えは出ない。
出なくていい気もした。
ただ、今こうして隣にいることが少し嬉しい。
それだけは分かった。
「セリア?」
レオンが不思議そうな顔をする。
「なんでもない」
慌てて答える。
レオンは首を傾げた。
全然気づいていない。
◇
その様子を少し離れた場所でリリカが見ていた。
「ガルド」
「なんだ」
「今の見た?」
「見たな」
ガルドは笑った。
「見たよね?」
「見たな」
◇
その時だった。
「おかしいな……」
近くで声がした。
一人の老人が手に願い札を持っている。
「どうしたんですか?」
セリアが聞くと、老人は困ったように笑った。
「いやな」
「願い事を書こうと思ったんだが……」
少し考える。
そして、
「誰のために書こうとしていたんだったかな」
静寂。
ほんの一瞬だけ。
セリアのペンダントが。
微かに震えた。




