第五十章 湖畔の街
湖畔の街は活気に満ちていた。
風車が回る。
水路には小舟が行き交う。
花で飾られた露店。
焼き菓子の香り。
人々の笑い声。
◇
「平和!」
リリカが言う。
「フラグを立てるな」
レオンが即座に返した。
先ほどの騒ぎは一旦落ち着いていた。
街の人々の話によると、湖で奇妙な突風が起きたらしい。
怪我人はいない。
ただ原因は分からない。
ユークは調査したそうな顔をしていた。
リリカは違った。
「スイーツ」
真顔だった。
「まずはスイーツ」
「まずは宿です」
「スイーツ」
「宿」
「スイーツ」
「宿」
いつもの光景だった。
結局、リリカが勝った。
◇
湖畔通りにある人気の菓子店。
ショーケースには色鮮やかな菓子が並んでいた。
「見て!」
リリカが叫ぶ。
「花蜜タルト!」
「果実パイ!」
「風鈴ゼリー!」
幸せそうだった。
本当に幸せそうだった。
セリアは思わず笑う。
「そんなに好きなの?」
「好き」
即答。
「人生の半分くらいスイーツでできてる」
「盛ったな」
レオンが言う。
「八割」
増えた。
店内に笑い声が広がる。
セリアはそんな光景を眺める。
平和だった。
本当に平和だった。
その時、
「どうした?」
隣から声。
レオンだった。
セリアは少し驚く。
「何でもないよ」
「そうか」
短いやり取り。
なのになぜだろう。
以前と少し違う気がした。
レオンは前から優しかった。
心配もしてくれた。
守ろうとしてくれた。
でも今はどこか違う。
もっと柔らかい。
急かすわけでもない。
止めるわけでもない。
ただそこにいる。
そんな感じ。
セリアは首を傾げる。
上手く言葉にならない。
でも不思議と心地よかった。
「セリア」
「ん?」
「これ」
レオンが差し出す。
小さな包み。
「?」
開く。
焼き菓子だった。
花の形をしている。
「店の人が試食を配ってた」
さらっと言う。
たぶん嘘だ。
絶対買った。
「ありがとう」
セリアが笑う。
レオンは少し目を逸らした。
その様子をリリカが見ていた。
めちゃくちゃ見ていた。
「へぇ」
嫌な声だった。
「レオン」
「なんだ」
「私には?」
「ない」
即答。
「差別だ!」
店中に響いた。
ガルドが笑う。
ユークは本を読んでいる。
平和だった。
その時までは。
湖の方角から突然、轟音が響くまでは。




