第四十九章 風の水鏡
春の風が吹いていた。
雪原を抜けて三日。
景色はすっかり変わっていた。
若草色の丘。
揺れる花々。
渡り鳥の群れ。
そして、どこまでも続く大きな湖。
「わぁ……」
セリアが立ち止まる。
湖面が空を映していた。
青い空。
白い雲。
風が吹くたびに揺れる光。
まるで鏡みたいだった。
「綺麗」
思わず呟く。
隣でレオンも湖を見る。
「そうだな」
短い返事。
でも少し柔らかい。
セリアは気づいていない。
リリカは気づいていた。
めちゃくちゃ気づいていた。
「ねぇ」
小声でリリカがガルドへ寄る。
「最近レオン優しくなってない?」
「そうか?」
「そうだよ!」
ガルドは笑う。
ユークは地図を見ていた。
平常運転である。
「セリアにだけ」
リリカが続ける。
「気のせいじゃないか」
「絶対違う」
断言だった。
ガルドは何も言わない。
だが否定もしなかった。
◇
湖畔の街は賑わっていた。
風車。
水路。
花の露店。
旅人たち。
明るい声が響いている。
「久しぶりに平和そう!」
リリカが両手を上げる。
「その発言はやめろ」
レオンが即座に返す。
「なんで?」
「大体そういう時は何か起きる」
「起きないよ!」
その時、遠くで悲鳴が上がった。
全員。
静かにリリカを見る。
「私じゃない!!」
◇
街の中央には人だかり。
慌てた声。
騒ぎ。
そして湖の方角で風が不自然に渦を巻いていた。
ユークが眉をひそめる。
「……妙ですね」
セリアのペンダントが微かに震えた。




