第四十八章 繋がる光
森の最奥、そこに核はあった。
巨大な黒い結晶。
雪原の中でまるで心臓のように脈打っている。
どくん。
どくん。
嫌な音だった。
聞いているだけで胸が重くなる。
◇
「これが……」
リリカが呟く。
ユークが頷いた。
「間違いありません」
「魔障の核です」
その瞬間、結晶が大きく脈打った。
黒い波動が広がる。
「っ!」
全員の身体が揺れる。
視界が歪む。
そして声が聞こえた。
『どうして』
知らない声。
誰のものでもない。
『どうして一人なんだ』
悲しみ。
孤独。
後悔。
核の周囲を黒い感情が渦巻いている。
それは誰か一人のものではなかった。
この森で。
この土地で。
長い年月をかけて積み重なった人々の孤独。
忘れられた悲しみ。
行き場を失った想い。
それらが集まって生まれたもの。
魔障。
「セリア!」
レオンが叫ぶ。
セリアは一歩前へ出る。
だが浄化はしない。
手を伸ばす。
ただ静かに、ペンダントへ触れた。
「あなたも」
優しい声だった。
「寂しかったんだね」
黒い結晶が震える。
まるで初めて声を掛けられた子どものように。
◇
周囲が静まる。
ペンダントが光る。
白銀の光。
翼が広がる。
そして光が仲間たちを包んだ。
「忘れないで」
セリアが言う。
「記憶は傷だけじゃない」
光が広がる。
レオンへ。
ガルドへ。
リリカへ。
ユークへ。
「大切にしてきたものを」
ルークの笑顔。
娘の小さな手。
仲間たちとの旅。
本を抱えた夜。
記憶が繋がる。
悲しみではなく、温もりとして。
そしてその光は、魔障の核へ届く。
『……ああ』
声がした。
誰のものでもない声。
それでもどこか安堵したような穏やかな声。
『忘れていた』
黒い結晶にひびが入る。
『寂しかっただけだった』
ぱきり。
光が走る。
黒が剥がれ落ちる。
孤独だけだった感情へ温かな記憶が流れ込む。
誰かと笑った日。
手を取った日。
共に歩いた日。
人は孤独だけではない。
繋がりもまた持っている。
それを思い出した瞬間、結晶は静かに崩れ始めた。
光となって雪の中へ溶けていく。
◇
誰も傷つかなかった。
誰も背負わなかった。
ただ向き合った。
共に。
静寂。
森に風が吹く。
重かった空気が消えていた。
「終わったな」
ガルドが呟く。
リリカが大きく息を吐く。
ユークは珍しく本を閉じていた。
そして、レオンはセリアを見る。
その横顔はどこか眩しかった。
守らなければならない存在ではない。
共に歩く存在。
そんな気がした。
◇
誰もいないはずの雪原に、一人の影が立っていた。
黒い外套。
長い銀髪。
ノクス。
彼は何も言わない。
ただ静かに森を見ていた。
光を見ていた。
そして小さく目を閉じる。
脳裏に浮かぶ懐かしい声。
『未来を信じて』
アイシア。
あの日の笑顔。
ノクスは空を見上げた。
雪が舞う。
そしてほんの少しだけ笑った。
「見ているか」
誰へ向けた言葉だったのか。
それは誰にも分からない。
けれど、彼は知っていた。
未来は続いている。
託した願いは。
確かに届いていた。




